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復興水産販路回復アドバイザーに聞く

復興水産販路回復アドバイザーインタビュー第1回「顧客ニーズに近づかなければヒット商品は生まれない」

被災企業に対し、商品開発や販路開拓につながるさまざまなアドバイスをする、復興水産販路回復アドバイザー。それぞれ専門分野を持つ皆さんへのインタビューを通じ、被災企業が一日も早く復興を遂げるために必要な情報をお届けします。今回は三越伊勢丹グループのバイヤー(商品の買い付け担当者)、雨宮隆一さんにお話を聞きました。

雨宮隆一 氏

雨宮隆一 氏

■プロフィール
雨宮隆一(あまみや・りゅういち)
株式会社エムアイフードスタイル(三越伊勢丹グループ)営業統括本部部長。1991 年株式会社伊勢丹入社。
新宿伊勢丹食品部、伊勢丹立川店食品担当長兼レストランマネージャー、三越日本橋本店生鮮バイヤーなどを経て、2016 年より現職。バイヤーとして豊富なキャリアを持つ。2014 年 7 月、水産庁より復興水産販路回復アドバイザーに任命。

(注)株式会社エムアイフードスタイル
http://www.im-food.co.jp/

■ 丸魚が売れない時代、顧客は簡便性を求めるようになった

――雨宮さんは本業ではどのようなお仕事をされているのでしょうか?
雨宮さん:私は三越伊勢丹グループで、百貨店やスーパーの生鮮産品のバイヤーを務めてきました。現在は社内のバイヤーを取りまとめる営業統括という立場でもあります。復興水産販路回復アドバイザーとしては、事業の初年度から参加しています。主にマーケットや販路に関する相談に応じることができます。
――復興水産アドバイザーとして被災企業と接する中で、東北の水産加工業者の現状をどのように見られていますか?
雨宮さん:私は本業のバイヤーとして、よく現地に行っています。そこで感じるのは、設備面での「復旧」という面では早い段階から進んでいるものの、「復興」という意味ではまだ時間がかかるのではないかということ。震災後のいっとき、東北の被災地の工場が稼働していなくても、水産加工品が店頭から消えることはありませんでした。
他の地域の企業が生産を補うようになったからです。それは被災地の企業からしてみれば、震災前にあった販路がなくなってしまったということ。つまり再び販路を確保するには、従来を上回ることをしていかなくてはいけないということです。今までと同じことをしていては、競争力は生まれません。
――競争力を生むためには何が必要だと思いますか?
雨宮さん:これまでは、作り手側から作るものを決めていく、プロダクトアウトの時代でした。何かを作れば消費者が買ってくれるので、多くの水産加工会社では、まず作ってから、「さあどこに持っていこうか」と考えていたと思います。しかし今は、消費者が欲しそうなものを作っていく「マーケットイン」が重要な時代です。どんな人が何を求めているのかを分析して、サイズやグレード、価格をカスタマイズしていかないといけません。たとえば、今まで10キロで売っていたものを1キロにして10個つくる、冷凍製品だけでなく冷蔵や常温保存の展開も考える、といったように、消費者のニーズに合わせていかないと販路は広がりにくいと思います。
――ニーズの変化はいつごろから始まっていたことですか?
雨宮さん:震災前からすでに変化は起こっています。高齢化が進み、自分たちで料理をしない人たちが今とても増えています。こうなると、素材のままの、いわゆる丸魚の状態ではなかなか売れません。昔はサバなども丸魚で売れていましたが、今はサンマみたいにそのまま焼けばいい魚だけです。家に帰ってから包丁を入れる手間が敬遠され、簡便性が重要視されるようになりました。これは東北に限らず、日本全国どこでも共通する話です。
――そうした調理の手間などから、日本人が魚を食べなくなったということも、以前から言われていますね。
雨宮さん:確かに食べる量は減っています。でもみんなが魚を嫌いになったわけではありません。お客さまに「お魚、嫌いになりましたか?」と聞くと、多くの方は「好き」と答えます。そして何が好きなのかと聞くと、お寿司という答えが必ず出てきます。すぐに食べられて、ちょっと贅沢感もある。回転寿司が今とても好調なのは、魚が好きな人が多いことを物語っていると思います。

■ 自分たちの強みがバイヤーに伝われば、製品は顧客に近づいていく

人気のサラダサーモン

人気のサラダサーモン

――魚の食べ方として、寿司以外に人気なものはありますか?
雨宮さん:コンビニ業界では、去年、一昨年と、スモークチキンを使ったサラダチキンが流行っていました。その流れで今はサラダサーモンが人気です。生産が追いつかない会社もあるくらいです。今後はサーモン以外にも他の魚を使ったサラダフィッシュが出てくるかもしれません。サラダチキンやサラダサーモンが人気なのも、やはり簡便性の高さ。真空パックがものすごく使い勝手がいいんです。サイズ的に3人分くらいのものが、300円くらいで買えます。このボリューム感もヒットの要因でしょうね。
――ヒット商品を生むために、必要なことは何でしょう?
雨宮さん:「こういうの作れば当たるんじゃないか」という感覚だけを頼りにヒット商品を生み出せる人はそうそういません。やはりしっかりと分析をしたうえで、お客さまのニーズをしっかりと捉えていくことが大事だと思います。今のニーズでいえば、先ほどから申し上げているように簡便性です。ただし一口に簡便商品といっても、簡便の度合いはいろいろあるので、きちんとお客さま視点で整理する必要があると思います。加熱をする必要があるかどうか。加熱が必要なら、それはフライパンを使うのか、オーブンや電子レンジを使うのか。包丁やまな板は必要なのか。お皿は必要なのか。スプーンやフォークは必要なのか。洗うものはどれくらい出てくるのか。そういった評価項目をいくつも用意して、お客さまの世帯人数や年齢などから、どのくらいの簡便度のものが必要とされているのかを考えないといけません。お客さまのニーズに応えていれば、水産加工品も食卓の選択肢としては必ず上がってきます。
――そのニーズを、これまでうまく捉えられなかった原因は何だと思われますか?
雨宮さん:水産業の仕組みとして、お客さまの見えにくさがあるからだと思います。まず魚を取ってくる漁師さんは、市場に魚を持っていきますが、そこでお客さまのことは見えませんよね。農業だと、生産者が直接販売することもあるので、水産業よりはお客さまの姿が見えてきていると思います。ただしこれは、私有地で素材を作れる農業と、国が所有する海から資源を取ってくる水産業の違いもあります。農業では、自分たちからお客さまに近付こうと思えば、6次産業化して作るところからお客さまを見ることができます。しかし水産業は、6次化がとても難しい。養殖をすればできないこともありませんが、そのためにはとても大きな資本が必要になります。
――ではどうすれば、水産加工業の方は顧客に近づくことができますか?
雨宮さん:長年小売業をしてきた私たちには、お客さまの年齢層や購買動機などのデータがあります。そういったデータは通常、バイヤーは持っていませんが、私たちは店頭に立つ販売担当もいるので、部門間で連携することで、商品部門のバイヤーでも顧客心理や要望をもとにした仮説を立てられます。被災企業の方がお客さまのことが見えずにお困りであれば、お客さまにも近いバイヤーなどに相談すれば、ニーズを捉えやすくなるのではないかと思います。
――復興を目指す被災企業の方にメッセージをお願いします。
雨宮さん:被災企業に限った話ではありませんが、自社の強みを発信することが大事だと思います。「うちはこういう技術があるんです」と強みを教えられたら、バイヤーは全力で応援したくなります。製品を作っている皆さんのほうが専門性が高いのは確かなので、自分たちの強み、そして反対に苦手なことも、すべてを正直に言っていただいたほうがいいと思います。そうすることで、バイヤーと一緒にお客さまにすすめていけるものを作れるはずです。私たちは、被災地もそれ以外の地域も特に区別をしていません。皆さんが今まで以上に売りたいものがあれば、なんでもトライアルをしていきますよ。
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