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連載復興水産販路回復アドバイザーに聞く

第2回「本当においしいことを伝える段階」

被災企業に対して、商品開発や販路開拓につながるさまざまなアドバイスをする復興水産販路回復アドバイザー。それぞれ専門分野を持つ皆さんへのインタビューを通じて、被災企業が一日もはやく復興を遂げるために必要な情報をお届けします。今回は株式会社ローソン・マーケティング本部の稲葉潤一さんにお話を聞きました。

稲葉 潤一 氏

稲葉 潤一(いなば・じゅんいち)

株式会社ローソン・マーケティング本部デジタルプラットフォーム部長。1996 年に入社。店長を経て、マーケティング本部へ異動。2012 年よりナチュラルローソン商品部へ異動。2018 年より現職。
これまで多くの弁当やデザートなどの商品開発に 携わってきた。2014年より復興水産販路回復アドバイザーに就任。
(注)株式会社ローソン
https://www.lawson.co.jp/

コンビニ業界にも高級冷凍食品ブームが到来

稲葉さんの本業では、どのようなお仕事をされているのでしょうか?
稲葉さん:私はローソンに入社後、コンビニ店舗の店長・SV(スーパーバイザー)を経て、マーケティング、商品企画、プロモーションといった部門を行き来してきました。現在はマーケティング本部のデジタルプラットフォーム部長として、EC(電子商取引)関連の仕事に携わっています。今の部門に移る前は、赤い看板でおなじみの「ナチュラルローソン」の商品部で商品開発をしていて、北海道にも2年間いました。
コンビニと水産加工業界は、どういったところで繋がりがありますか?
稲葉さん:たとえば、おにぎりの具材として、輸入もののサケを年間何万トンと扱っています。それに比べると少量になりますが、北海道産のサケなど地場のものを買い付けて、産地にこだわっている商品もあります。昨今は冷凍技術が向上しているので、これからはチルド製品よりも冷凍食品が増えるでしょうね。瞬間冷凍の技術を使えば、味を落とさずに冷凍できます。また、保存期間が長いので、問題となっているフードロスも減らせます。マーケット全体が今、冷凍食品に動き始めています。それもただ安いだけではなく、クオリティーが高いものに。水産加工メーカーさんにとっても狙い目だと思います。 <参考情報> 食品産業新聞社ニュースWEB「冷食産業に高まる成長期待 国内生産体制の増強投資続く」
https://www.ssnp.co.jp/news/frozen/2018/01/2018-0111-1416-14.html
ローソンさんの商品開発は、自社だけで行っているのでしょうか? それとも水産加工メーカーも一緒に行うのでしょうか?
稲葉さん:弊社ではメーカーさんと一緒に考えています。復興支援事業でも、気仙沼のメーカーさんと一緒にナチュラルローソンの商品として、サメ肉を使用したつみれのスープを開発しました。サメ肉にコラーゲンが豊富に含まれていることを前面に押し出した商品にしたことで、健康と美に気をつかう方にも好まれる商品となりました。結果、予想よりも早く完売しました。
サメ肉を使ったコラーゲンつみれ入り酸辣湯
サメ肉を使ったコラーゲンつみれ入り酸辣湯
商品開発で苦労したことはありますか?
稲葉さん:私たちと現地の方とでは味覚のギャップがあるので、味の調整には最後まで苦労しました。東北地方の料理は塩分が多いといわれるように、地元の方は濃い味に慣れている。
でもその味付けのままで出すと、他の地域の人には味が濃いと思われてしまいます。最近は加工場でも味付けや調理が求められていますが、販売エリアに合わせた味付けにするということも考えておく必要があると思います。

「おいしいものはおいしい」と認知させていく段階へ

稲葉さんはなぜ、復興水産販路回復アドバイザーの依頼を受けようと思ったのですか?
稲葉さん:その地域に売れる食材があるなら、ちゃんと売らなければいけないと思ったからです。東北の被災地にはもともといいものがあります。震災以前、私は、三陸地方に行く機会が少なかったのですが、現地のある飲食店で食べたサンマがすごくおいしかった。「サンマってこんなにおいしかったのか」と感動したほどです。
本業と復興水産販路回復アドバイザー業務を、どのように連動させていますか?
稲葉さん:私は販路を拡大するためのアドバイザーですが、現地に行く時は本業も兼ねて、「必ず何か仕入れよう」と考えています。地方に行くと、東京からは見えない問題も見えてきます。
たとえば今、地方では人口減少が深刻な問題で、我々コンビニ業界も出店が難しくなっている町もあります。その中で大事なのは、いかに人を呼び込むかということ。
「お客さんをどうやって呼び込むか」という原点に戻り、自分たちの地域の食べ物がおいしいということを伝えていかないといけません。現地の飲食店は、素材の一番おいしい状態で出す。加工メーカーは、その地域の魚がおいしいことを認知してもらうためにブランド化も視野に入れる。一社でもそれができたら、他も追随するでしょう。
おいしいと認知してもらうことが、復興の鍵になるのでしょうか?
稲葉さん:そうですね。今後は復興という言葉を前面に出すよりも、「本当においしいんです」ということを伝えていく段階だと思います。以前、復興庁主催で東北地方の「究極のお土産」を決めるコンテストがあり、私も審査員として参加させていただきました。水産加工品も含めて、すごくおいしいものがいっぱいあるんですよ。他の審査員の方たちも、口を揃えて「おいしい」と言っていました。ただ、認知されていない。
水産加工業者の多くは今、人手不足などの問題もあって、認知活動までするのは大変だと思います。いい方法はありますか?
稲葉さん:たとえば、何かの用事で東京に行ったとしたら、その用事だけ済ませて帰るのではなく、1泊してスーパーや飲食店を回ってみるといいと思います。そうすると、なにか思うことがあるはずです。
「うちの製品をここに置いてほしい」とか、「この魚だったうちのほうがおいしいぞ」とか。そういった思いを自分の中に蓄積していくことで、自信が高まって、「自分で仕掛けていこう」と思えるようになると思います。
被災企業へのメッセージをお願いします。
稲葉さん:私たち復興水産販路回復アドバイザーとの企画がうまくいった時に、次のアドバイスをただ待つのではなく、「こういうことで売れるんだ、次は自分たちでセールスしていこう」と展開していくことが大切だと思います。もちろん、そこで困ったことがあれば私たちもアドバイスいたします。
大事なのは『自分たちが主体的に動くこと』。そうすることで可能性はいくらでも広がります。もちろん、最後は「餅は餅屋」というところもあるので、必ずしも自分たちだけで完結する必要はありません。私たちは、加工メーカーと、小売や飲食店との間に入ることもできるし、実際にそういうことをやってきました。プロデュースする立場として、一緒に「売れる商品」を作っていけたらと思います。

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。