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企業紹介第17回岩手県株式会社國洋

スルメイカの不漁にも負けずに打ち続ける「次の一手」

「お電話ありがとうございます。『イカのコクヨー』です」

秋鮭やカズノコ、乾燥オキアミなど、イカ以外の加工品も扱っている岩手県大船渡市の國洋ですが、事務所の電話応対からも分かるようにイカを前面に押し出しています。駐車場に停まっている従業員用の送迎バスにも「イカのコクヨー」の文字。加工品目の約6割を占めるというスルメイカへの強いこだわりが感じられます。

会社を取り巻く状況を語る営業部長の尾﨑義和さん
会社を取り巻く状況を語る営業部長の尾﨑義和さん

「1980年の創業以降、イカそうめんやイカの珍味、イカの唐揚げなどを手がけてきた当社は、北海道から九州まで、国内で水揚げされたスルメイカを使用していることを強みとしてきました。しかし来年(2017年)はこれまでと違うことをしないといけないな、と考えています」(國洋・営業部長の尾﨑義和さん)

同社の悩みの種は、国産スルメイカの不漁です。漁業情報サービスセンター(JAFIC)の水産物流調査によれば、2016年の1月から11月までのスルメイカ(生鮮品)の水揚量は2万1820トンで、前年同時期の4万9238トンの半分にも満たない数字。記録的な大不漁に見舞われて、原料が「買えない」という事態に陥っているのです。

「1キログラムあたり200円だったスルメイカが今年は1000円に。店頭価格は大きく変わらないので、加工業者としては手が出せません。今年(2016年)は冷凍保管している原料で対応できていますが、来年は加工する国産スルメイカがないという状況なのです」(尾﨑さん)

原料がなくては加工業者は何も作ることができません。国内産であることを強みとしてきた國洋は、スルメイカの大不漁により正念場に立たされることになったのです。

原料不足への対抗策は「新製品の投入」と「機械による自動化」

スルメイカが手に入らないという状況をどう乗り越えていくか。尾﨑さんは「いろいろな手を打っていくしかない」と言います。

冷凍品の試作品を手に取る尾﨑さん
冷凍品の試作品を手に取る尾﨑さん

「2017年は輸入アカイカを使ったレンジ対応の新製品を投入していく予定です。冷凍品のイカキムチフライ、イカ唐揚げなどはすでに試作品が出来上がっています。当社はイカ以外にもアジやサンマ、サケなどの加工品を扱っていますが、これまで以上に幅を広げてやっていこうと考えています」(尾﨑さん)

ただし加工の幅を広げていくには、作業の効率化が不可欠でした。震災前、150人ほどいた従業員は現在61人にまで減っています。この中で増産を目指すには新しい機械が必要だったため、同社は復興支援事業の助成を受け、2015年12月から自動計量・包装システムを導入することになりました。

その導入効果はいかほどか、工場長の村上修悦さんに訊きました。

機械の導入で作業効率が上がったと話す村上修悦さん
機械の導入で作業効率が上がったと話す村上修悦さん

「近年は少量パック化が進み、包装のバリエーションも増えています。当社ではおよそ100種類の加工品を扱っているためそうした流れに対応するのが大変でしたが、機械を導入したことでこれまで14人でやっていた作業が10人でできるようになりました。スピードも上がって助かっています」(工場長の村上修悦さん)

計量作業の負担を大幅に軽減した自動計量機
計量作業の負担を大幅に軽減した自動計量機
 パックから業務用の大容量パックまで対応可能な自動包装機
少量パックから業務用の大容量パックまで対応可能な自動包装機

同社は計量・包装のラインの年間生産目標を60トンと定めましたが、2016年は10月時点でそれを達成し最終的に70トンに届く見込みです。2017年は倍の140トンを目指すといいます。

「線路まで大丈夫」のはずが、まるで川のよう……

2011年の東日本大震災では、大船渡市と山田町にある國洋の工場も、津波による甚大な被害に見舞われました。震災当日の様子を村上さんはこう振り返ります。

「大きな揺れがあった後、そのときたまたま工場に来ていたお客様をまず、工場裏の高台にある『おさかなセンター三陸』に誘導しました。従業員たちも年に一度の避難訓練の通りに動いてくれたので、人的被害はありませんでした。私は津波が来る前に工場に戻って、人が残っていないかを確認した後、トラックを高い場所に移して下の様子を見ていました」(村上さん)

國洋の工場と高台の間にはドラゴンレール大船渡線が通っています。これまでこの地区では、『津波が来ても線路までは大丈夫』と言われていましたが、津波はその線路を簡単に乗り越えてきました。「目の前が大きな川のようだった」という村上さんは恐ろしさを感じて、そこからさらに高い場所に逃げたそうです。

「4月に入ってから工場の片付けを開始し、中にあった機械をまず外に運び出しました。それらを修理したり、工場のパネルを張り替えるなどして、インフラが復旧した7月から当社も営業を再開することができました。とはいえ完全復旧には程遠く、機械も人員も揃っていませんでした。修理しながら使っていた機械も、中に砂が入るなどしていたために結局ダメになりましたね」(村上さん)

地盤沈下があったため、工場の前の道路は満潮になると膝あたりまで海水が来るという状態。かさ上げ工事が終わる1年間ほどは、そのような中で作業をしていたそうです。

貯氷庫も備えた4階建て新社屋からの再出発

津波による被害が大きかった多くの企業にとって、助成金は事業再開のために必要不可欠なものでした。その手続きに奔走した経理部係長の吉野清さんは、震災当日、地元の消防団の活動に参加していました。

消防団員として捜索活動にも尽力した経理部係長の吉野清さん
消防団員として捜索活動にも尽力した経理部係長の吉野清さん

「その日はたまたま、新しいポンプ車の納車の日だったんです。消防署やメーカーの方から説明を受けていたときに緊急地震速報の警報が鳴って、立っていられないほどの揺れがありました。私はそのまま消防団の一員として、警察や消防の皆さんとともに行方不明者の捜索活動に当たりました。自分の捜索エリアが國洋の工場付近だったので、工場の様子も気になって見に来たのですが、辺り一面泥だらけで手の施しようがないほどでした」

助成を受けるためには提出資料を作成しなければいけませんが、吉野さんは震災直後、消防団の捜索活動を優先していたため、別の担当者が途中まで作業していた状態で引き継ぐことになりました。「最初は分からないことばかりで大変だった」と言いますが、無事に手続きを終え、2014年3月には貯氷庫や加工場、本社事務所を備えた4階建ての新社屋が復興資金によって完成しました。水産加工団地ごとなくなってしまった山田町での再開は断念した國洋ですが、現在はこの新社屋を拠点に販路回復を目指しています。

2015年、國洋の売上高は、およそ12億円。震災前年の約22億円に比べればまだまだ低い数字ですが、8億円弱に落ち込んだ2011年以降は毎年順調に増え続けています。人材不足や原料不足などに悩まされながらも、「次の一手」を打ち続けているからでしょう。2017年は、「イカだけではないコクヨー」の新たな挑戦が始まる年となりそうです。

株式会社國洋

株式会社國洋

〒022-0002 岩手県大船渡市大船渡町字下平4-1
自社製品:いかリング唐揚げ、いか切り身、スモークサーモン、乾物ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。