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企業紹介第33回福島県福島県漁業協同組合連合会

「事実を日々積み重ねていくしかない」
-福島の魚が、どこにでもあたりまえに並ぶ日を取り戻すために

福島県漁業協同組合連合会(以下、福島漁連)は、昭和25年に設立。
もともと小名浜地域では、中之作漁業協同組合が運営していた魚市場と冷蔵工場、小名浜機船底曳網漁業協同組合が運営する魚市場と冷凍工場、小名浜漁業協同組合から2007年に福島漁連が引き継いだ冷蔵倉庫があり、各漁協が製造、福島漁連が販売を主に担ってきました。

しかし、2011年の震災で小名浜海岸部に立地する一連の施設はすべて被災。
従来の設備、機能を完全に再生することは不可能、という事態に見舞われたのです。

当時の状況を業務部部長の竹永茂夫さんはこう語ります。

竹永さん「震災の日、福島漁連の本所はいわき市の内陸にあるため、津波の被害もなかったのですが、海岸沿いにある各支所、工場も壊滅的な被害を受けました。幸い職員は全員無事でしたが、職員の家族には亡くなった方もいます。小名浜漁港に停泊していた福島漁連所有の給油船2隻は地震が起きてすぐに沖に出して無事でした」

震災後、状況がまるで変わってしまった福島をとりまく漁業。
この様子を見て、専務理事の鈴木哲二さんはこのような考えに至ったのでした。

業務部部長の竹永茂夫さん
業務部部長の竹永茂夫さん
福島漁連専務理事の鈴木哲二さん
福島漁連専務理事の鈴木哲二さん

鈴木さん 「漁協単体では、再生するのは厳しい。それならば操業した漁船が水揚げできる市場と疲弊している受け皿づくりを県下でひとつに集約し、福島漁連が担っていくしかない、と思ったのです」

そこで「いわき市小名浜地域水産業施設復興整備事業」を利用し新たに建設したのが、現在の「小名浜冷凍冷蔵工場」です。

同工場は、延床面積10,193平方メートル、凍結能力は日に100トン、マイナス30度の冷蔵庫4,400トン、マイナス60度の冷蔵庫2,000トンという、東北地方でも有数の機能を備えた施設。小名浜港目の前に建つ当工場は、地上5階建て、周辺地域、また漁業従事者の避難施設としての機能も果たしています。

沖合漁業で揚がる魚を積極的に活用し新製品開発、効率化を図る

現在も、県沿岸の漁業および底曳き網漁業は、4万件を超えるモニタリングの結果から安全が確認されている魚種に限定した試験操業が続いています。一方で沖合漁業による漁獲は増加、放射性物質も震災当時から不検出、安全性も確認されています。福島漁連ではこうした小名浜港で水揚げされるカツオ、サバ、イワシ、サンマなどを積極的に市場展開させていく方針を掲げ、販路回復に取り組んでいます。

竹永さん 「製品を作るために心掛けていることは、“高鮮度・高品質”の原料確保。小名浜漁港に水揚げされた新鮮なものをその日のうちに加工して凍結。ワンフローズンの商品を提供できることが強みです。その付加価値を高めた新商品製造、省力化のための機器を販路回復取組支援事業を利用して導入しました」

雨風の強い大時化に見舞われた取材当日は、昼に水揚げされたばかりのイワシの選別作業のほか、「腹骨取り三枚卸機」を使ったサバフィーレの加工ラインが稼働していました。工場で働くのは10代から30代の若い世代が多く、その多くが震災後に入会した未経験者。パート従業員が思うように集まらず、労働力不足が課題で、作業時間の短縮、品質の保持、作業の安全性を図りながら、質の高い加工商品を安定的に製造するために、これまでのような人力による作業から機械化を図ることは必須の課題でした。

腹骨取り三枚卸機。サバフィーレを加工。生でも冷凍のものでも使える、という点が導入理由のポイント
腹骨取り三枚卸機。サバフィーレを加工。生でも
冷凍のものでも使える、という点が導入理由のポイント
今期注力しているサバフィーレ。並べ方ひとつ、梱包までていねいに行なうことも商品価値を高めるための大切な要素
今期注力しているサバフィーレ。並べ方ひとつ、
梱包までていねいに行なうことも商品価値を
高めるための大切な要素

新たに導入されたカツオ処理用のバンドソーと「1.5トンカツオ処理用ホッパー(コンベア付)」を使い、これまでカツオの加工処理の従事者は、導入以前の11人から、導入後は6人と省人化を実現しました。

カツオ処理用1・5トンホッパー汲み揚げコンベア付。
以前は人力で運んでいたが、当機で冷凍倉庫からコンベアでトラックまで積めるため、大幅な省力化を図ることができた
カツオ処理用1・5トンホッパー汲み揚げコンベア付。
以前は人力で運んでいたが、当機で冷凍倉庫からコンベアで
トラックまで積めるため、大幅な省力化を図ることができた
食品加工用バンドソー。以前はマグロ用の大型のものしかなく危険なため、作業できる人は熟練者に限られていた
食品加工用バンドソー。以前はマグロ用の大型のもの
しかなく危険なため、作業できる人は熟練者に限られていた

震災前はミンチにしたり、味付けをしたりする加工は他の業者に委託していましたが、フードミキサーを導入、サンマのすり身、サンマぽーぽー焼は全工程を工場で行い、量販店、居酒屋、ホテルなどの業務用向けの新商品として販路開拓に取り組んでいます。

フードミキサー。以前は手で混ぜていたが、安定的な品質を保つのと省人化を図った。サンマのすり身やぽーぽー焼に
フードミキサー。以前は手で混ぜていたが、
安定的な品質を保つのと省人化を図った。
サンマのすり身やぽーぽー焼に
サンマぽーぽー焼。味付け、成型、パッケージまでの行程すべてを工場内で行う
サンマぽーぽー焼。味付け、成型、パッケージ
までの行程すべてを工場内で行う

また、生産力を高めるためには、効率的に工場を稼働させることが大切だと鈴木さんは言います。

鈴木さん「小名浜は夏場水揚げが少ないので、気仙沼、勝浦から原料を引っ張ってきます。また、時化で良い原料が入らないときは、冷凍施設にある凍結した原料を使ってフィーレを生産するなどして、品質の維持と工場の稼働率を落とさないようにしています。魚がないから、とみんなで掃除をしていても売り上げにはなりませんからね」

福島の漁業復興のために、できるところが率先してやるのが役目

商品の開発だけでなく、もっと福島のことを理解してもらうためのPR活動にも力を入れています。2017年は3月に東京の築地魚河岸スタジオ・イベントスペースで「福島漁業の今と試食会」と題し、福島県の漁業の現状を知ってもらいながら、小名浜のヒラメの刺身、煮アナゴ、メヒカリの唐揚げなどを無料で試食できるイベントを開催。用意した1,000食(当初予定の倍)が、お昼過ぎには全て品切れとなるほど好評を得ました。

大盛況だった「福島漁業の今と試食会」の様子(福島県漁業協同組合連合会提供)
大盛況だった「福島漁業の今と試食会」の様子
(福島県漁業協同組合連合会提供)

消費者へ正しい情報を伝えることで販売のチャンスを作り、本格的な漁業復興を後押ししつつ、現場では、お客様によい商品をお届けできるよう生産体制を整えています。

鈴木さん「今期の目標は原料を確保したサバ200トンの加工、販売をやりきること。まずはそこに注力しています。それに加えて、2016年9月に試験操業で解禁になった常磐もののシンボル・ヒラメのスキンレスフィーレはじめ、加工品の試作にも取り組んでいきます」

また、お客様にいい商品を届けるためには、やはり人を育てることだと、強調します。

鈴木さん「うちの強みはいい原料を仕入れて、新鮮なまま商品にすること。質の高い商品を届けるためには、同じ加工ラインに専属でついて経験を積ませることが大切なんです。例えば、いくら素材がよくて機械がきれいに作業してくれても、箱詰めの仕方ひとつで購入者の印象が変わってきますからね。買う方の立場になって細かい点に気を配ることを怠らず作業する、若い人にはその点はいつもやかましいぐらいに伝えています(笑)。でも、きちんと伝えればちゃんと聞き入れてくれる。みんな日々成長していくのでとても楽しいですよ」

そして、2017年7月からはHACCP認証を受けるため1年がかりで取り組み、付加価値向上をめざしています。衛生管理面での社員への研修もそのための大切な業務だそうです。

竹永さん 「まだまだ、福島の魚に対する評価は低いままです。これまでどおり国の基準より厳しい放射性物質のモニタリングをきっちりと続け、結果を正しく公表していく。私たちは、事実を日々積み上げていくしかないと思っています」

鈴木さん「どこに行っても福島の魚が並んでいるというシチュエーションをつくっていかなくては。風評被害を払しょくするためには、それが一番だと思っています。そのためにも、市場に出す量の拡充を図ると同時に、加工品の新商品開発にも積極的に取り組んでいかなければなりません。福島県の現状を考えれば、各漁協単体、民間の加工業者が取り組むにはリスクが高い。そんな状況の今だからこそ、福島漁連の販売部門が、率先してやっていく。それがわれわれの役目だと思っています」

まさに、福島の漁業の復興を支える拠点となる小名浜冷凍冷蔵工場。
工場で日々技術を磨く若い世代、福島県の水産業全体を支えていこうとするおふたりの力強い言葉に、希望を感じました。

福島県漁業協同組合連合会

福島県漁業協同組合連合会

〒970-8044 福島県いわき市中央台飯野4-3-1 福島県水産会館(本所)
〒971-8101 福島県いわき市小名浜下神白字網取172‐1
(小名浜冷凍冷蔵工場) 取扱魚種:カツオ、サバ、サンマ、イワシ など 自社製品:サンマぽーぽー焼、すり身 ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。