販路回復 ・ 助成事業 ・ アドバイザーについて、
まずはお気軽にご相談ください
ご相談のお申し込みはこちら
企業紹介第70回岩手県有限会社タイコウ

家族への思いと人のつながりを新製品開発に生かす

自閉症の子供が働く場所を作りたい。そんな家族の思いで2006年2月に創業された、岩手県大船渡市の有限会社タイコウ。その社名には、我が子に光を当てたいという願いが込められています。

タイコウの中村司さん。次男の就労支援などを担当している
タイコウの中村司さん。次男の就労支援などを担当している

「次男の名前から一文字と『光』を合わせて、音読みで『タイコウ』と名付けました。私の妻が会社を設立し、最初は妻と次男、そして妻の友人たちで鮭フレークを作るところから始めました。現在は私と長男も合流して家族経営をしていますが、当初彼女たちは、どうすれば自分たちの作った鮭フレークが売れるのかが分かりませんでした。そこで別の業界で働いていた私が仕事の合間を縫って、鮭フレークの営業に回っていました」(中村司さん、以下同)

スポーツ用品の商社などに勤めていた中村さんにとって、「モノを売る」という経験が物を言いました。 業界が異なることによる苦労はありながらも、東京の荷受け業者と売買契約を結ぶことに成功し、初年度の収支を何とかトントンにすることができたのです。

「当初は人が足りず、工場経営のノウハウなどもない状態でしたが、懇意にしている市内の水産業者 の方にお願いして、経験豊富な方を一人紹介してもらいました。その方から原料の調達方法、製品の 作り方、売り先、工場の運営方法を学んだことで、経営も徐々に安定していきました」

創業から約5年経ち経営も軌道に乗りつつあったちょうどその時、あの東日本大震災に見舞われまし た。

スーパーに並んでいたのは、別の産地の商品

タイコウの工場は、大船渡湾を見下ろす山腹、標高約70メートルの場所にあります。大船渡の市街地を破壊し尽くした東日本大震災の大津波でも、そこまでは届きませんでした。しかし、タイコウの被害が全くなかったわけではありません。地震の揺れで横転した工場内の機械は芯がずれて動かなくなり、修理に時間を要するものもありました。

「水と電気も止まりましたが、幸い配水池がすぐそばにあったので水には困りませんでした。地元の電気工事の会社も、うちの工場が動けば炊き出しができるからと、震災4日目に電気を通してくれました」

津波の被害がなかったことで、比較的動きやすかった中村さんたちは、鮭フレークや梅干し、あまぐり、キャベツ、大根、白菜など、工場にあった在庫を避難所などに届けて回りました。道路が寸断されて車でたどり着けない場所には、息子と一緒に食料を背負って歩いたといいます。さながら「山の上の食料基地」。中村さんは「そんな立派なものじゃないですよ」と言いますが、物資が不足していた震災直後、その支援に助けられた人は多かったでしょう。

震災後の混乱がひと段落し、本格的な再開を目指したタイコウでしたが、震災前とは状況が大きく変わっていました。原料の入手が困難になり、思うように生産ができない状態が続いたのです。

「関東地方のあるスーパーに足を運んだ時のことです。うちの商品が並んでいた場所に、別の産地のものが並んでいました。私たちの生産が滞っている間に、スーパーも新しい取引先を見つけていたようです」

相手も商売。仕方がないこととはいえ、危機感を抱いた中村さんは、販路を取り戻すために新商品開発に着手しました。

高齢者向けの“やわらか製品”から、競走馬の飼料まで

中村さんは販路回復取組支援事業の助成金を活用して、レトルト加工機一式を導入しました。これにより、これまで冷凍製品として加工していたものも、常温保存のできるレトルト製品として商品化することが可能になりました。また高い鮮度を維持する「プロトン凍結」による生食食材をレトルト加工することで、レトルト臭のない製品を作ることにも成功。取引先から安全面(温度管理記録)と品質面ですぐれた製品との評価を受け、新しい流通チャネルの開拓も進みました。

温度管理用の記録装置も備えたレトルト加工機
温度管理用の記録装置も備えたレトルト加工機
レトルト加工機で開発した「かきの潮じる」等の新商品
レトルト加工機で開発した「かきの潮じる」等の新商品

レトルト加工機によって生まれた製品の一つに、たこのやわらか煮があります。復興販路回復アドバイザーのアドバイスを受けて開発しましたが、最初のうちは、なかなかうまくいかなかったようです。

「思うようなやわらかさにならず、何度も失敗しました。それでも試行錯誤を繰り返すうちに、ある方法でやわらかくなることが分かりました。『これはうまいぞ』と納得のものが出来上がり、今のところ売れ行きも好調です。今年は当社主力の鮭フレークを抜く勢いです」

原料となるタコは、岩手県内の漁港にあがる地元産を使用。タコのやわらか煮が成功したことで自信をつけた中村さんは、さらなる展開として高齢者向けの商品開発も進めています。

「自分の親が高齢になったことで、高齢者向けの商品も考えるようになりました。レトルト加工機を使えば、魚の骨まで食べられるやわらかい製品も作れます。電子レンジで簡単に食べられる惣菜が増えれば、高齢の親の在宅介護が可能になる家庭も増えると思います。おでんや煮付けなど、やわらかく食べられる商品を揃えていきたいですね」

カキの殻を粉砕するための大型機械
カキの殻を粉砕するための大型機械

今後の柱として考えているのは、レトルト惣菜だけではありません。同社第3工場では、カキの殻を使って、少し変わったものも作っています。

「カキの殻を粉末にして、競争馬の飼料用に加工しています。この開発には岩手県や大船渡市の支援を受けているほか、震災当時大船渡に炊き出しのボランティアに来ていた栄養化学の専門家にも生産にあたりアドバイスを受けています」

導入したレトルト加工機も、飼料を作る工程で使われています。中村さんによると、カキの殻とエキスを使った餌料には整腸作用があり、馬の健康によい影響を与えるのだとか。カキフライやカキのオイル漬け、カキのしぐれ煮などを作るタイコウにとって、水産資源をフル活用した副産物。カキの殻を活用した飼料の売り上げはタイコウ全体の3割ほどを占めており、今や重要な事業の一つとなっています。

特注のジャンに漬け込んだ「牡蛎オイル漬」はネット販売もしている

入手可能な原料から多様な製品を生み出していく

レトルト加工機により商品開発の幅が広がったタイコウですが、定番製品である鮭フレークの原料となるサケ、つみれ団子の原料となるサンマの仕入れ価格が高騰しており、今後も原料高への対応を迫られそうです。

大きなものだと30 キロほどになるタコは二人がかりで作業する
「三陸おさかなファクトリー」で販売されている各種「飯の素」

「サンマなどは高級魚になってしまい、とても加工用には使えません。原料の高騰が続くので、震災後はこれまで扱ってこなかった魚種も徐々に扱うようにしています。たとえば大船渡湾や広田湾で取れるアナゴは、フィーレ加工をして地元のお寿司屋さんなどに卸しています。今扱いが増えているのは、先ほども紹介したタコです。今後は煮るだけでなく、炙りのタコも出していく予定です」

今ある原料と機械で何が作れるか。多様な商品開発を進めるタイコウでは、観光客向けに「たこ飯の素」、「ほたて飯の素」、「かき飯の素」などのお土産品も作り始めました。すでに大船渡市内の商業施設で販売されていて、豪華客船が大船渡港に寄航した際などは、すぐに売り切れるほどの人気なのだとか。市内だけでなく、築地や盛岡市の卸売市場にも出荷しています。

古くから水産加工業が盛んな大船渡市内において、タイコウは後発の会社。「既存の会社と同じことをやっても勝てない」という中村さんですが、それでも後発ならではの強みがあるといいます。

「うちは他社があまりやらないようなことでも思い切ってできます。もっとも、原料が安く手に入れば、変化球を投げなくてもいいんですけどね(笑)。地元の同級生や青年会議所のメンバーのおかげで実現していることもあります。今持っている機械やノウハウを活かしながら、レトルト製品を中心にいろんなものを作ろうと思います」

高齢の父や息子のことを思いながら仕事をするとともに、地域や事業で知り合った人々とのつながりを大切にする中村さん。今後もその応用力を生かした新製品が期待されます。

有限会社タイコウ

〒022-0002 岩手県大船渡市大船渡町鷹頭111-6
自社製品:鮭フレーク、タコのやわらか煮、牡蛎のオイル漬、りんごジャムほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。