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企業紹介第80回岩手県株式会社 大濱正商店

電子膨張弁制御の冷凍機設備で凍結能力向上
「一次加工の質にこだわる会社に」

東日本大震災から7年が経ち、交通インフラは回復しているかのようにも思える三陸地方ですが、今なおこんな物流事情があるようです。

大濱正商店では主に営業を担当している大濱晴美さん
大濱正商店では主に営業を担当している大濱晴美さん

「宮古市では、震災前に走っていた築地(東京)へのトラックの直送便がなくなりました。宮古全体の荷物の量が少なくなってしまったからです。
そのため今は、気仙沼や石巻などの経由地にいったん送ってから、運んでもらっています。中継を挟む分、輸送コストが上がり、収益を確保するのが難しくなっています。関西方面への便も、毎日あったのが今では週2回だけ。そのうち元通りになるだろうと思っていましたが、物流は今も戻らないままです」

そう話すのは、岩手県宮古市の水産加工業者、大濱正(おおはまただし)商店の常務取締役大濱晴美さん。三陸地方では震災後、地元の港の水揚げ量が減り、宮古のように全体の生産量が回復していない地域もあります

主にイカの一次加工などを手がける大濱正商店。その成り立ちは、会社名にもその名が残る大濱正さんの父母、大濱清左衛門(せいざえもん)さんと、友起(ゆき)さんの代まで遡ります。

「私の夫の千歳(ちとし)が現社長で、大濱正は千歳の父に当たります。正の父・清左衛門さんと母・友起さんはもともと富山でむしろや網などを仕入れて、それを三陸の漁師に売っていました。ところが距離が離れていることもあって商売が難しくなり、宮古に移住してきたのだそうです。その後、清左衛門さんが亡くなったことなどもあり、生計を立てるため友起さんが魚の行商を始めたのが、水産関連の仕事の始まりと聞いています」(晴美さん)

昭和34年(1959年)に現在の場所に加工場を作り、魚から油を取る仕事を開始。その後、冷蔵庫を建ててからは、冷凍加工業にシフトし、昭和62年(1987年)に大濱正商店が会社として設立されます。

「前浜で取れる魚の選別や凍結加工がメインでしたが、サンマやサバのみりん干しや丸干したらなどの干物加工も行っていました。会社設立当時には主にイカを扱っていて、皮をむき汚れを除去し部位の仕分け規格選別などの一次加工を現在まで続けています」(晴美さん)

イカの冷凍一次加工は現在も続く主力の事業
イカの冷凍一次加工は現在も続く主力の事業
箱詰して冷凍保管される「ロールイカ」
箱詰して冷凍保管される「ロールイカ」

機械の不具合続く中、長男と三女がUターン

東日本大震災の津波は、内陸にある大濱正商店の工場までは届きませんでした。しかし工場では地震による建物や機械の損傷があり、同社の事業には欠かせない冷凍機設備も損傷しました。自費で応急対応したものの、不具合も頻発し、生産能力は回復せず。時間が経つにつれ、従業員の高齢化も進んでいきました。

「震災前、45人いた従業員は35人にまで減りました。うちは定年なし、フルタイムではない柔軟な働き方も可能にしていますが、募集をかけても人がなかなか集まらない状況です」(晴美さん)

前職の経験を活かして機械まわりを見直している 友起さん
前職の経験を活かして機械まわりを見直している友起さん

そんな中、2017年に長男の友起(ともおき)さん、三女の千佐喜さんが宮古に戻り、大濱正商店で働くようになります。
曾祖母、友起(ゆき)さんと同じ字を書く友起(ともおき)さんは、青森の食品工場、大阪の設備業での勤務を経てUターン。設備業にいた経験を活かして、新機材の導入に協力しました。

効率と品質を高めた電子膨張弁制御の冷凍機設備

大濱正商店では、販路回復取組支援事業の助成金を活用し、電子膨張弁制御を組み込んだ冷凍機設備を導入しました。これにより、凍結の効率が向上したといいます。

電子膨張弁制御された冷凍機設備。凍結効率が向上した
電子膨張弁制御された冷凍機設備。凍結効率が向上した

「機械のワット数が以前より小さくなっているが同程度の凍結能力を得られており、また設備更新前に頻発していた設備異常がなくなり品質の安定及び計画的な生産が可能となりました。電気代の削減にも寄与しています」(友起さん)

作業員の負担軽減に一役買っているイカ加工の補助機械
作業員の負担軽減に一役買っているイカ加工の補助機械

そして開きイカの加工作業の効率化のため、補助機械を新たに導入。イカを開く加工機は、加工後のイカを機械の下に落とす仕組みになっており、それを拾い上げる作業が高齢になった従業員には重荷になっていました。補助機械は以前よりもイカを高い場所で拾い上げるためのもので、作業者の負担軽減、時間あたりの加工量増加につながっているといいます。

「イカの加工のスピードが上がったので、これまでうちでは扱ってこなかった最終製品も試作しています。『三陸産イカの中華風ソース炒め』『三陸産イカのトマトソース煮』は、イカを刻んだものにソースを絡めて、家庭では温めるだけで食べられます」(友起さん)

加工度を高めるよりも、一次加工の質を高める

「回復状況は9割ほど」だという大濱正商店。最終製品の試作も始まり、今後は加工度を上げていくことにシフトしていくかと思いきや、今のところそこまでは考えていないようです。

「今の状況から、一次加工でよりいいものを出していくことを考えるのが現実的であると思います。二次加工をする加工会社から、『カネセ(大濱正商店の屋号)のものなら安心して使える』と言ってもらえるようなポジションを確立していきたいですね」(晴美さん)

まずはじっくりと足もとから固めていく。大濱正商店にUターン就職した友起さん、千佐喜さんの二人も、考えは同じようです。

「新しい機材の導入は、費用もかかるので難しい。それよりも現在の機器の不具合箇所を順次直して、品質や効率を高めてゆくことを考えています」(友起さん)

仕入れ担当として市場にも顔を出すという千佐喜さん
仕入れ担当として市場にも顔を出すという千佐喜さん

経理からはじめて、原料の仕入も担当しているという三女の千佐喜さんは、
「市場で女性は少ないので、私は周りからとても優しくしてもらっています。セリで声を上げたら、最初は『買わせてやれー』という感じでした。市場では初心者マークを付けて歩いてるようなものですが、もうすぐ一年経つのでもっとしっかりしないと、と思ってます」

もともと、会社が以前のような状態に戻ってから、子供たちには戻ってきてもらうつもりだったという晴美さん。しかし、知人から「苦労するところからやらなければ意味がない」という助言を受け、考えが変わったのだそうです。初心者マークの取れた二人とともに、本格的な再建を目指します。

株式会社 大濱正商店

株式会社 大濱正商店

〒027-0044 岩手県宮古市上鼻2-1-33
自社製品:冷凍イカの一次加工(業務用)ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。