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企業紹介第81回青森県株式会社ディメール

従来の手法にとらわれない商品開発で新たなニーズを掘り起こす

青森県八戸市に本社を置く株式会社ディメール。同社は、八戸市にて1936年創業の老舗水産加工会社の株式会社ダイマルの子会社として2005年に設立しました。その後、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた株式会社ダイマルと、丸竹八戸水産株式会社と株式会社ディメールの3社が、復興、再建を果たすべく2012年5月に経営を統合し、新生ディメールとして新たな第一歩を踏み出したのです。

現ディメールの取締役執行役員管理本部長、黒木昭さんは2011年の東日本大震災震災当時の様子について、当時の写真を前につぎのように語ってくれました。

取締役執行役員管理本部長の黒木昭さん
取締役執行役員管理本部長の黒木昭さん

「八戸市鮫町にあったダイマルの工場は8mの高さまで津波に襲われ、ほぼ壊滅状態でした。当時の島守康友社長が、迅速に避難を命じ人的被害が出なかったのが幸いでした。」

旧丸竹八戸水産、震災翌日の工場内の様子
旧丸竹八戸水産、震災翌日の工場内の様子

同じく震災で同市築港街の工場機器の損壊など被害を受けた丸竹八戸水産とダイマルは、稼働可能な工場と機械設備を利用し合う共同操業を震災の1ヶ月後から開始しました。

しかし、機器の大半が使えなかったため、ほぼ手作業での操業再開。「機械がなく生産が滞り、従来の取引先への供給がストップし販路を失い、再び回復できるのかという不安が、いちばんきつかったですね」と黒木さんは話します。

震災後の2012年、3社で経営統合を進めながら、販路回復に向け生産力の回復と営業活動に力を注ぎます。

ニーズの変化をとらえ開発したスライス済みのしめさば

震災以前、ロングセラーとして主力の商品だったのが、しめさば半身関連商品。当時、しめさばは食べるときに自分で切るのがあたりまえとされてきましたが、「より利便性の高い商品」への市場のニーズの変化に合わせ、震災前から開発に着手していたのが、スライス済みのしめさばをパックした商品でした。
震災から1年後の2012年、新たな販路開拓を目指して「切れてるしめさば」を発売します。

営業本部本部長の小軽米道善さん
営業本部本部長の小軽米道善さん

「とくにスーパーなどの量販店、大手コンビニエンスストアなどから、こういう商品を待っていたと好評を得ました」と営業本部本部長の小軽米道善(こがるまいみちのぶ)さん。

スライスしてパックするというコンセプトで、新しいニーズを発掘した「切れてるしめさば」
スライスしてパックするというコンセプトで、新しいニーズを発掘した「切れてるしめさば」

2014年には、従来の主力商品「しめさば半身」シリーズの売上を「切れてるしめさば」が逆転します。
「簡便性の高い商品のニーズの高まりを強く感じました」(小軽米さん)
2016年春には、同シリーズで「切れてる梅酢しめさば」を発売。ほんのりと梅が香るさっぱりとした味わいが好評を博し、同年、第27回全国水産加工品総合品質審査会で「農林水産大臣賞」を受賞しました。

「切れてる梅酢しめさば」
「切れてる梅酢しめさば」

原料難を逆手にとらえ、新商品開発のための機器一式を導入

同時期に、近年水揚げされるさばの小型化が顕著になるという原料難にも直面します。さばは一般的に、大きい型ほど脂乗りがよくておいしいと言われ、市場単価も高く取引がされていたのです。
「ちょうど消費者のニーズも変わっていました。大きいしめさばはおいしいけれど、食べきれない。おいしいさばをちょっとでいいから手軽に食べれるものが欲しい、というお客様からの声を多く聞くようになりました。それならば、原料難を逆手にとって小型化した原料を利用して、ニーズに合った商品開発に注力しよう、という方針を固めました。
2016年2月大手コンビニを中心に売り出した「しめさばスライスハーフ」は、従来のサイズの規格から切り替え後、2倍近く売り上げを伸ばしました。
着実にニーズをとらえつつあるものの、個食トレイパックの商品開発を進めるにあたって、課題はその生産性を高めることでした。そこで、販路回復取組支援事業の助成金を活用し深絞り真空包装機一式、高速自動値付上下貼りラベラーなどの設備を導入することにしました。

従来の機器では、毎時240~250パックという製造能力でしたが、新機器導入によって、毎時300パックを製造、作業を担当する人数が減っても、生産力を維持できるようになりました。
さらにこれまで手で貼っていたラベルの機械化により、省人化が図られました。

個食トレイパック製品の生産性を上げるために導入した全自動深絞り真空包装機一式
個食トレイパック製品の生産性を上げるために導入した全自動深絞り真空包装機一式
高速自動値付上下貼りラベラーの導入で省人化が図られた
高速自動値付上下貼りラベラーの導入で省人化が図られた

これらの機器を導入後、2018年2月には「梅酢しめさばスライスハーフ」を、さらに同年6月には「にしんの甘酢漬けスライスハーフ」を発売、大手量販店やコンビニバイヤーから引き合いも多く、今後、さらに売り上げ増を見込んでいます。

梅酢しめさばスライスハーフ
梅酢しめさばスライスハーフ
にしんの甘酢漬けスライスハーフ
にしんの甘酢漬けスライスハーフ

従来の営業手法も転換
末端の売り場に直接コンセプトを伝えることで販路を拡大

震災で失った販路を回復させるため、同社では、従来の営業手法も大きく転換したといいます。
「以前は、商品を作ったら問屋さんに持っていき、末端でどのように売るかなどは、おまかせの状態でした。そこを、問屋さんと一緒に量販店さんなどの現場を直接訪ね、商品のコンセプトや、消費者への訴求ポイントも伝える働きかけをしました」(小軽米さん)
「従来の営業手法では、いったんリピート商品の供給がストップしてしまうと、そこで取引が終わってしまう。新たな代替え商品をいくら持っていってもなかなか切り替えは難しかったですね。直接訪問して、話せる関係を作ることで前もってサイズ違いや新商品の案内も含めて話しを聞いてもらえ、スムーズに切り替えが可能となる。その違いは大きいなと実感しました」(黒木さん)

直接売り場を訪ねることで、小売店からのニーズを商品に生かすことができた事例もあります。
「関東のある量販店さんから、こういう商品できないかな?という提案がありまして、開発したのが大ヒット商品『切れてる梅酢しめさば』なんです」(小軽米さん)。
末端の売り場での反応、消費者の反応をヒントに、訴求するポイントを意識したパッケージにも取り組みました。

震災で、大きく失われた販路でしたがこれらの取り組みが確実に実り、徐々に個食パック向けの販路を拡大、半身のままの商品が主力だったころに比べ、新たなターゲット層も取り込みつつあります。

さらなる効率化と新たな商品展開を進める

今後の課題と計画について、黒木さんと小軽米さんは次のように話します。
「たとえばさばの薄皮をむく作業などが機械化できたら、作業効率はかなり上がるでしょう。今手作業で行っている工程を将来的には全て機械化し、効率的な1つのラインにしたいですね」(黒木さん)

「原料のさばの小型化は、当面は回復しないだろうと予測しています。今後はさばだけに固執せずに、魚種を増やした商品展開をしていきたいと思っています。まずは現在、全国的に売り上げを伸ばしているサーモンに注力する予定です」(小軽米さん)
サーモン原料については、海外からの輸入のほか、青森県には養殖の大変美味しいトラウトサーモンがあります。それと、もともと冷燻製法の技術には定評がある同社。現在、「海峡サーモンスモーク」「帆立の冷燻」という商品がありますが、サラダの具材など、従来にはなかったニーズに対応すべく新商品開発をすすめているそうです。

震災で甚大な被害を受け、三社で操業を再開しその後統合と、激動の7年を歩んできた同社。これからも、積極的な営業活動をすすめ、消費者ニーズに基づいた新商品を開発してゆくことでしょう。

株式会社ディメール

〒031-0071 青森県八戸市沼舘1-10-46
自社製品:しめ鯖、漬け魚、冷燻、いかステーキなど

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。