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企業紹介第172回福島県三陸水産有限会社

無添加にこだわり続けて37年。
人にも地球にも優しい会社であり続ける

三陸水産有限会社は、昭和61年に現社長である雨澤 勉さんの父、進さんにより創業されました。進さんはもともと現在のNTTグループの前身である日本電信電話公社(略称、電電公社)に勤めていましたが、会社員時代に三陸ワカメのキャンペーンを手伝ったことがきっかけとなり、水産加工の道へ進むことを決心したのだそうです。

実は、初代社長の進さんの父は北洋にサケマス船団を組んで出航していた船団の船長で、妻の姉婿はアメリカの北転船の指導員として働き、日本が買い付けるタラコやサケなどの要望に合わせ技術指導をされていた方。そのため、当初は三陸ワカメの取り扱いのみだったものが、知り合い筋から数の子やギンダラ、タラコなどの無添加で良質な原料を仕入れることができる環境も手伝って扱う魚種や加工の幅も広がっていったのだとか。

また、通常、水産加工会社の販売先は市場や量販店などが多いのですが、三陸水産は商売を始めた当初から通信販売の比率が多く、口コミにより顧客数を伸ばしてきました。

「父がこの仕事を始める時に、“安定した会社を辞めるなんて”と反対した人もいたようですが、父本人は個人のお客様から、”おいしい”“ありがとう”などの感謝の手紙をもらうたびに“この仕事をやって良かった”と喜んでいました」(三陸水産有限会社 代表取締役 雨澤 勉さん、以下「」内同)

三陸水産有限会社 代表取締役 雨澤 勉さん

さらに、創業当初から有機農業を推奨するコミュニティと縁があったこともあり、添加物を極力使わない安心安全な食品を作り続けていることも同社の特徴です。使用する調味料にもこだわり、中でも塩は内モンゴルのジランタイ塩湖で自然結晶化された天日湖塩を使い続けているのだそう。

「今でも魚は天然原料が主体です。調味料も、塩は天日湖塩、砂糖は白砂糖ではなくきび砂糖を使います。しょうゆ、味噌も有機栽培された原料のみで作られたものを使用しています」

この他に環境保全への取組もいち早く行っていました。再生紙や再生トレーを利用したり、発送する時に使用した発泡スチロールの箱を着払いで回収したり、三重の浄化槽を設置し「きれいな排水」を心がけるなどの取り組みを長年継続していたのです。近年、ようやく一般的になってきた「個人向けの通販」や「SDGs的な取り組み」を30年以上前から行ってきた三陸水産の先見の明、環境に対する意識の高さには頭が下がります。

現社長の勉さんは、大学を卒業してすぐ三陸水産に入社。以降20年以上、父である進さんの右腕として会社を支えてきました。そして2014年、進さんが体調を崩されたのを機に社長を継ぐこととなりました。

「父の側で、父がやりたいことを手伝っているのが楽しかったので、自分が社長をやるだなんて考えてもみませんでした。急に倒れたので、最初は印鑑の場所もわからなくて・・・。でも、父が大切にしていた“きれいな海”で獲れた“本物の味”はきちんと継承してきたいと思っています」

風評被害の真っただ中での急な社長交代で、回復が後手に回る

2011年3月11日。最初の揺れに驚いて従業員全員で駐車場に出たところ、続けざまに駐車場に亀裂が入るほどの大きな揺れに見舞われました。その後「津波が来る」との情報が入ったため、すぐに全従業員を避難させた後、勉さんは家族と離れ、近くの公園で一晩を過ごしました。その夜は、とにかく余震が頻発し「子供達だけでも早めに高台に避難させて良かった」と思いながら夜を明かしたのだそうです。

翌日自宅に戻ってみると、津波は押し寄せたものの、道路よりも高い位置に住宅があったことが幸いし、被害は駐車場の浸水だけで済みました。会社も一部損壊はしましたが、なんとか仕事はできる状態でした。一安心し、震災の2~3日後、営業を再開するつもりで出社した矢先に福島第一原発の事故が起きたのです。

「確か震災の数日後でしたよね。会社にいたら原発事故が起こってね。お客さんにFAXの一斉送信で、“今から一時避難するのでひとまず休業します”と連絡をしてから、みんなで逃げたんです。その後、震災からひと月ほど経った4月の1~2週目から営業を再開しました。冷凍庫は無事だったので原料や製品はあったものの、資材が手に入らなくてしばらく無地の袋を使って作業していました。ラベルがなくて苦労したのを覚えています」

しかし営業再開後は、激しい風評被害に直面することとなりました。当時扱っていたのは、震災前から保有していた原料や製品ですし、国内・海外を問わず、東北以外から調達した原料も多く扱っていましたが、それでも不安を感じる顧客が多く、注文が激減してしまったのです。

「“震災前に買ったものだから安心安全ですよ”“輸入原料だから大丈夫ですよ”と随分説明したけれど、あの頃は福島=汚染された食べ物という悪いイメージが強くてね。取引先は自然食品の専門店なども多かったので、抵抗感がより強かったのだと思います。特に関西や中部地方の方々は、福島は防護マスクをつけないと生活できないようなイメージだったみたいで、随分とお客さんが減りました」

また震災前に雇用していた中国人のアルバイトが大量に帰国したこともあり、大幅に人手が足りない状況にもなりました。そんな中、2014年に前社長の進さんが倒れ、勉さんは急な社長就任と進さんの介護で今までの仕事に全力投球できない状況に陥りました。

「急な代替わりも落ち着いて、従業員さんの数も少しずつ戻り始めましたが、最盛期は50人以上いた従業員も、今は10人前後です。昔は手紙やFAX、電話で注文が来ていましたが、少しずつECに切り替え、効率化も図っています」

冷凍機器の導入により、効率化、生産の安定性が確保できた

震災に加え、昨今の物価高にも悩まされている中、三陸水産では、仕事の効率化や、生産の安定を図るため、令和4年度の販路回復取組支援事業を利用し、冷凍設備を強化することにしました。

「もともと個人のお客様が多いのですが、お客様から“こんなものを作って欲しい”という要望があると、なるべく製品にするように努力してきました。創業時からこだわっていて人気も高いワカメ、海苔などの海藻類、タラコなど魚卵の製品のほか、漬魚、干物、刺身、鰹節などラインナップは多種多様です。そのため、様々な原料を冷凍しているのですが、今までは狭くて仕事の効率が悪かったんです」

新しくした冷凍設備

さらに、これまでは冷凍機器の温度が安定しないなどの問題も生じていたそう。温度が下がりにくくなった時には、別の冷凍庫に原料を移動させるために、全従業員が作業の手を止めて運び出しを行わなくてはならず、無駄な時間が多く発生していました。

「うちは添加物も使わず、調味料にもこだわって、お客様に“本当に良いもの”を提供したいと思っています。それなのに原料の品質が悪くなっては意味がありません。冷凍機器が導入されてからは、保管能力が増加し、温度も安定化されました。おかげで原料や製品の出し入れもスムーズになり、自分たちの納得のいくクオリティの製品を作り続けることができています」

また昨今、前浜でとれる魚の種類や時期、量などが読みにくくなったことにも対応がしやすくなったといいます。

「昔は前浜で獲れていた鮭が全然揚がらなくなるなど、最近は海の変化が大きいんです。だから、獲れた時に大量に買って保存しておかなくてはいけないので、保管能力が上がったことは大変助かっています。少し前も急に太刀魚が獲れたので買い付けましたが、自然に任せるだけでなく、獲れた時にストックしておくことで生産が安定するのはありがたいなと思います」

前浜で獲れた原料で作った「太刀魚の天日干し」
水揚げも少しずつ戻り、常磐ものを届けられる機会も増えてきた

お客様にも地球にも「優しい」気遣いを忘れない

設備も整い、新たな一歩を踏み出した三陸水産では、さっそく新製品の開発に余念がありません。幅広い魚種を扱うだけでなく、切身、スモーク、干物、缶詰など可能な製造方法も多岐にわたるため、新製品の可能性は無限大。今扱っている商品数も250点にも及ぶのだとか。

「機械に頼らず手作りの部分が多いので、様々な加工法を自由に試しています。無添加にこだわる分、どうしても作れない商品もありますが、知見のある方に教えていただいたり、自分で色々調べて、なるべくお客様の要望を叶えていきたいです」

「お客様の求めるものを形にしたい」という意識は社員全員に浸透しており、全員が日々創意工夫し、お互いに試食や意見交換を繰り返しながら、商品開発に取り組んでいるのだそう。商品開発の責任者である工場長も、「チームワークばっちりだし、社長も製品のダメ出し以外は優しくて、本当にアットホームな職場なんですよ」と教えてくれました。

そんな三陸水産の、今の一押し商品はスモークサーモン。天然の鮭を使っているので、臭みがなく自然で柔らかい味わいになるのだそう。調味料ももちろん無添加で、数種類のスパイスもオリーブオイルも、全てオーガニックのものを使っています。

好評な新製品のスモークサーモン。程よい塩加減と桜チップの燻製の香りの相性が良い人気商品

「もともと人気だったのですが、良い原料が手に入らず一時期生産できなかったものを、最近やっと復活させることができました。お客さんの反応も良いので、もっと味付けのバリエーションを増やしたり、魚の種類を変えて展開できないかと考えています」

常にお客様のことを考える姿勢が徹底している三陸水産では、商品開発だけでなく、梱包も届ける先のことを思って社員が1つずつ丁寧に箱詰めしています。包材は、発泡スチロールから更に進化し、段ボールに最小限の仕切りをつけ、よりゴミが出にくい仕組みに変えているのだとか。

包材には新聞紙、段ボールなどリサイクル可能な資材を利用

利益だけを追求するのではなく、お客様や社員、そして地球にも優しい三陸水産。アットホームで穏やかで、地に足のついたこのような企業こそが、今後の社会のスタンダードになっていくのかもしれません。

三陸水産有限会社

〒970-0101 福島県いわき市平下神谷出口24-1
自社製品:海産自然食品(海藻類、切り身類、魚卵類、干物、調理済食品 等)

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。