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セミナーレポート 第25回「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」

セミナーレポート① 「高鮮度で美味しい国産ムラサキイカのご紹介」

 令和5年8月23日、「第25回ジャパンインターナショナルシーフードショー」において、「高鮮度で美味しい国産ムラサキイカのご紹介」と題したセミナーが開催されました。
 本セミナーでは、漁業者・市場・研究機関それぞれの立場から見たムラサキイカの特徴と需要について、お話しをいただきました。

ムラサキイカ漁業の概要
一般社団法人全国いか釣り漁業協会
会長
中津 達也
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<ムラサキイカについて>

 スルメイカは外套長が30cmほどであるのに対し、ムラサキイカは60cmほどに達する大型のイカです。海上で見ると赤紫っぽい色をしていますが、皮を剥ぐと身が白いのが特徴で、主に夏場の5〜9月にかけて、太平洋を中心にアメリカ大陸付近まで漁が行われています。

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 標準和名は「アカイカ」といいます。同じ「アカイカ」の名前が付くイカに南米産の「アメリカオオアカイカ」というのがありますが、こちらはえぐみが強く生食には向かないことから、差別化を図るため「ムラサキイカ」という名称で市場に向けてPRを行っています。
 元々は珍味や加工用に使用されてきましたが、生食用イカの原料不足から、“胴”は刺身・寿司ネタに、“耳”は塩辛に、“足(ゲソ)”は天ぷら・惣菜に、“軟骨”は唐揚げの原料に使われます。刺身は肉厚で柔らかくて甘味があり、「コウイカ」や「モンゴウイカ」の食感に似ているため、寿司ネタとしても人気があります。

<ムラサキイカ漁の操業>

 いか釣り漁船には通常2種類の操業パターンがあります。ひとつ目は、「ムラサキイカ」と「スルメイカ」の兼業で、主に八戸等で5〜9月にムラサキイカ漁を、9月以降は日本海でスルメイカ漁をおこないます。ふたつ目は、「スルメイカ」の専業で、主に石川県等で6〜12月にスルメイカ漁を行うものです。

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 2023年は、スルメイカ漁の水揚げ量が思わしくなかったこともあり、ムラサキイカ漁は、2回目の出漁に向かう漁船が見られています。ムラサキイカは、1航海での水揚げ量こそ限定的ですが、2航海が実施されているここ2年間は、漁獲量・価格共に上昇しています。イカ類の品薄感から今年も900円/kg強で取引されています。水揚げは9割近くが八戸で、続いて函館となっています。

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 ムラサキイカ漁の最大の特徴は、一本釣りなので混獲がなく、地球に優しいということ。船上で解体~凍結を行うため、鮮度を維持でき、胴、耳、ゲソ、軟骨など部位ごとに分けて凍結しているので必要な部位だけを販売できるため無駄がなく、非常に合理的です。

市場からみるムラサキイカの現状
株式会社八戸魚市場
橘 隆明
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<出漁数と漁獲量の推移>

 2013年度は、いか釣り漁船92隻中、29隻(31%)がムラサキイカ漁でしたが、現在(2023年度)は、いか釣り漁船38隻中、25隻がムラサキイカ漁(66%)と、いか釣り漁船が激減しているなかで、ムラサキイカ漁の割合は10年前と比べても倍以上となり、重要な漁業資源まで成長しています。
 これまで漁期は8月の1回のみでしたが、2019〜2020年から2回の水揚げがはじまり、水揚げ量は約3,000〜4,000tと安定供給が可能な水準となりました。2023年度は3年ぶりに夏漁が実施され、漁獲量は4,000tを超える可能性があります。

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<現状と今後>

 ムラサキイカは主に乾燥珍味として利用されてきましたが、近年では生食用としても流通し、その独特の食感が好まれています。
 単価の推移をみると、例年は400〜500円/kgですが、昨年(2022年度)は漁獲量が少ないことで900円/kgと例年の倍以上で取引されました。特に“胴”部分は、ほとんどが刺身原料であったためか、1,000円/kgを超えました。
 今年(2023年度)は夏期2航海で4,000t以上もの水揚げ量が見込まれ、さらに2024年度は北海道や石川県からの出漁も加わる見込みで、さらに増える見込みです。
 このように、「ムラサキイカ」の潜在力は大きく、「スルメイカ」も動向が不透明であることから、今後も需要増大が見込まれています。

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ムラサキイカの利用加工について
地方独立行政法人青森県産業技術センター食品総合研究所
佐藤 慶之介
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<研究所紹介>

 青森県産業技術センター食品総合研究所の前身は青森県水産物加工研究所で、イカを中心とした水産加工の振興を図るべく設立されました。同法人内の水産総合研究所では、「ムラサキイカ(アカイカ)」に対する試験操業による資源調査や、国内の研究機関と共同で水温変動の定置観測を行う等、青森県の産業を支えています。

<ムラサキイカ加工の変遷>

 イカの加工品は、昭和30年代前半に関西地方でスルメイカを裂いたサキイカがはじまりとされ、その後、生のスルメイカを原料とするソフトさきいかが開発されました。昭和40年代にはスルメイカの水揚げ量の減少により、代替原料としてムラサキイカの需要が高まりました。昭和50年代から平成にかけては、ムラサキイカの原料特性や加工に関する研究が進み、肉厚で柔らかく、味も良くて、なおかつ安いことから、利用が拡大しました。漁獲量も年間約20万tに達しましたが、国連決議により公海流し網漁業が禁止され、水揚げ量が減少しました。その後にアメリカオオアカイカが代替利用されるようになりましたが、外套長が1mを超えるアメリカオオアカイカは塩化アンモニウム由来の異味や加熱時の収縮等の問題があるため、他のイカ類と違って、それらを改良するための工程を追加する必要があります。現在、日本国内では輸入のアメリカオオアカイカの利用が拡大しているといわれています。

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さきいか

<ムラサキイカの優れた加工特性>

 ムラサキイカはスルメイカに比べ、肉厚で、可食部はスルメイカが72%なのに対し、ムラサキイカは76%と歩留まりがよい一方で、タンパク質や水分等はほぼ同じです。加熱による変化では、ムラサキイカの方が水分や重量変化が少なく、粉砕肉を加熱凝固させた場合、スルメイカはある温度帯に達すると脆くなりますが、ムラサキイカは幅広い温度帯に対してもしなやかさを保つという特徴が見られます。その他にニュージーランドスルメイカ、トビイカ等と比較しても、あらゆる加工に向いており、このような特性から加工品の代表原料となったものと考えられます。

<生食普及支援のための研究>

 イカ胴肉の構造については、肉部分がミルフィーユ状で、皮は4層から成っていますが、皮には主にコラーゲンが含まれており、肉部分を構成するタンパク質よりも硬くて、熱によって収縮します。天ぷらを揚げる際にパチンという音がするのはこれが原因です。
 加熱によって生の時よりも軟らかくなり、最も軟らかくなる温度帯は50〜60℃で、高温になると皮が凝固して、色が肉に移りやすくなります。ただし、イカの種類によって異なります。
 スルメイカの第4層の厚さは約40〜80μmですが、ムラサキイカはそれよりもやや厚く、皮が口に残りやすいため、刺身や寿司ネタに利用するには課題となります。その解決策としては、いちど半解凍してから、折り曲げて剥離し、平らな状態で再凍結する必要があります。その他の解決策として、皮に筋を入れることで、皮感を除去することができます。

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筋入れした ムラサキイカ寿司

 また、ある研究メンバーから「解凍後一日冷蔵で寝かせることで旨味や甘みが増す」といった意見があったため、試験を行ったところ、イカの甘み成分となるプロリンやグリシン等である遊離アミノ酸量が全体的に増加することが分かりました。しかし同時に、アルギニン等の苦みを伴う成分も解凍直後に比べ増加することも確認されています。今回は中間報告として一部研究結果を紹介しましたが、最適な条件については、今後検証する必要があります。

開発調査センターの取組
一般社団法人全国いか釣り漁業協会
会長
中津 達也
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<調査開発センターにおけるアカイカに関する研究>

 水産研究・教育機構に属する開発調査センターでは、主にアカイカ(ムラサキイカ)に関する技術開発を行っています。

 アカイカ(本講演では標準和名アカイカを使用する)は、亜熱帯から亜寒帯に広く分布し、南北に回遊しています。オスよりメスの方が大きく(同体長40cm)、かつては流し網で10万t以上も漁獲されていました。漁期が短く、幅広い漁場でまばらに分布しているため、見つけるのが大変です。

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 このことから、開発調査センターではアカイカをどのように発見すべきかといった研究も進めています。海水温は一様でなく、海中に暖かい水の塊と、冷たい水の塊ができますが、これまでの調査でこの境目の部分にイカの群れが見られると考えられています。また、海水中のDNAを分析して、生息の有無や、生物量を特定する研究も行っています。

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<需要の開拓>

 アカイカはこれまで生食に向かないとされ、珍味として使われていました。しかし、イカ類が不足している近年、鮮度が非常に良い状態で水揚げされているという点で刺身や寿司ネタでる使われるモンゴウイカの代替原料を目指して様々な取り組みがなされています。
 これまでは海外産のモンゴウイカの漁獲量が多かったのですが、現在ではピーク時と比べて1/10以下と減少しているため、1,200円/kg以上の高値となるケースもあります。ここにアカイカが入りこむ余地があるのではないかと考えています。現在はスーパー等に活路を見出すべく、モンゴウイカの加工業者へアカイカを提供しながら、需要開拓の可能性を探っているところです。

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セミナーレポート② 「福島第一原発事故後の水産物の検査について」

 令和5年8月25日、「第25回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」において、「福島第一原発事故後の水産物検査について」と題したセミナーが開催されました。本セミナーでは、放射線に関係する基礎知識や最新の水産物のモニタリング結果等についてお話しをいただきました。

水産庁 研究指導課
課長
長谷川 裕康

<本格操業に向けて>

 平成23年の原発事故直後、福島県内のすべての漁協が漁業を自粛せざるを得ない状況でしたが、平成24年6月からは出荷制限のない魚種に限り、試験操業()を開始しました。
 最初の試験操業では、浸透圧調整機能により外部の水質から影響を受けにくく、セシウムが排出されやすい魚種として、沖合の無脊椎動物(巻貝、タコ等)が対象となり、その後徐々に漁獲魚種・海域を広げていきました。
 令和3年4月からは、試験操業を本格的な水揚げ拡大を図る移行期間として位置づけられましたが、震災の直前の25,914トン(平成22年度)に比べ、令和4年度は5,604トンと2割程度にとどまっており、漁獲量回復が最も課題となっています。
※「試験操業」とは、出荷できる魚種を選定しながら、検査してから販売までの状況を見るもので、モニタリングのためのサンプリングではありません。

<福島県産魚介類の放射性セシウムの検査体制と出荷制限>

◆福島県による公的検査

 セシウム等の放射性物質が基準値を超えるかを判断することが主な目的で、出荷制限魚種も含めて定期的に実施されています。国の基準値(100ベクレル/kg)を超えると出荷制限が行われ、基準値が安定して下がるまで解除されません。
 福島第一原発から汚染水が漏れ、非常に濃度の高いセシウムが海中に広がり、魚に影響を及ぼした2011年から検査を開始し、現在までに7万件以上の検査を実施しています。最初は基準値を超えるものが全体の3分の1ほどありましたが、2017年以降は、全体の99%が基準値の1割以下の非常に低いレベルになり、最近ではごく稀に見つかる程度です。

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◆漁協による自主検査

 水揚げ日ごとに出荷予定のすべての魚種に対して放射性セシウムの検査をしています。
 検査は、魚を三枚におろし、ミンチにしてから検出器にかけるといった非常に手間がかかるものです。また漁協では、国の基準値(100ベクレル/kg)の半分である50ベクレル/kgを自主規制値として設定しています。50ベクレル/kgを上回った場合は出荷を自粛。当然のことながら、国の基準(100ベクレル/kg)を上回った場合は水産庁へ報告がなされ、出荷停止になります。
 検査数は、海域拡大や魚種増加に伴い、検査件数自体が年々増加し、現在では合計10万件以上になります。
 検査結果のほとんどが50ベクレル/㎏以下で、2018年以降は99%が検出限界値(8ベクレル/㎏)未満となっています。

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◆出荷制限の推移

 検査の結果、当初は100ベクレル/kg以上となった40種類以上の魚に出荷制限がかかっておりましたが、セシウムの検出が減少したことで、出荷制限が段階的に解除されていきました。2020年には一時的に“0”になりましたが、2021年には再びクロソイで基準値を超えたため、引き続き出荷制限を行っています。

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<基準値について>

 食品からの被ばく量を年間1ミリシーベルトに抑えるために、食品の放射性セシウムの基準値は1kgあたり100ベクレルに設定されています。但し、100ベクレル以下なら安全で、これを超えたからといって危険なわけではありません。1ミリシーベルトの被ばくは、約77,000ベクレルものセシウム摂取に相当しますが、基準値ぎりぎりの食品でも1食あたり10ベクレル程度なので、約8,000回を食す計算となることから、非常に保守的な計算によって基準値が設定されています。
 なお、年間1ミリシーベルトという基準値は、安全と危険の境界ではありません。ICRP(国際放射線防護委員会)から提示されたものであり、自然放射線からの被ばく量の範囲内で受け入れ可能なレベルを示します。

<目標は達成されているのか>

  • 厚生労働省
     厚生労働省では、平成23年度から実際に流通する食品を購入し、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量を推定する「マーケットバスケット調査」を行っています。令和4年度の調査では、年間放射線量は最大0.0008ミリシーベルト/年程度であり、目標の1/1000程度であることが分かりました。
  • コープふくしま
     平成23年度から陰膳方式による実際の食事に含まれる放射性物質の測定を行っており、これまですべてのサンプルで検出限界値1ベクレル/kg未満という結果になりました。
  • 福島県庁
     避難指示が解除された区域を中心に、県内の一般家庭の日々の食事(日常食)に含まれる放射性物質の濃度を調査する「令和4年度福島県における日常食の放射性物質モニタリング調査」においても、1年間食べ続けた場合の内部被ばく線量は、放射性セシウムによる最大値が0.0026ミリシーベルトと推計され、十分低い値であることが分かっています。

これらの調査結果から、福島原発事故の影響は少しずつ緩和され、放射性物質の濃度も低くなっていることが分かります。

<トリチウムのモニタリングの概要について>

 精密分析は、海藻類・貝類を含めた豊富な種類を対象に、これまで224検体を検査してきました。1kg当たり0.4ベクレル程度を検出限界にして測定したところ、すべてにおいて検出されませんでした。海水のトリチウム濃度も変化が見られないという結果も出ています。
 令和5年度からは、できるだけ早くモニタリング結果を公表し、風評被害を抑制すべく、翌日または翌々日に結果を得られる迅速分析(出限界値10ベクレル/㎏)もあわせて実施しております。分析期間は処理水放出後1ヶ月程度を見込んでおり、福島第一原発の放出口から北側4kmと南側5km程度離れた2地点で毎日迅速分析を実施しています。

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 このような検査結果を踏まえ、処理水放出後も何ら変化が起きていないということを皆様に知っていただき、不安を解消できればと考えております。これらの結果は、水産庁ホームページでも公表しておりますので、ぜひご覧ください。

水産物の放射性物質調査の結果について(水産庁)

セミナーレポート③ 「世界初!鮮度管理基準を持ったほやのブランド『ほやの極み』のできるまで」

 令和5年8月25日、「第25回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」において、「福世界初!鮮度管理基準を持った「ほや」のブランド『ほやの極み』のできるまで」と題したセミナーが開催されました。本セミナーでは、「ほやの極み」ブランド化に向けた取り組みや今後の展望等についてお話しいただきました。

宮城ほや協議会 会長
一般社団法人ほやほや学会 代表理事
田山 圭子

<ほやほや学会、宮城ほや協議会の紹介>

 「ほやほや学会」は、「ほや」の認知度向上を目指して2014年に設立し、様々なイベントを通じて、ファンをプラットフォーム化しながら、「ほや」を扱う方々に繋ぐ活動をしています。一方で「宮城ほや協議会」は、「ほや」の品質向上やブランド化を図るべく、宮城県内の企業25社が中心となって2021年に設立し、県、大学、漁協等の協力を得ながら活動しています。

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<ほやについて>

 「ほや」は2,300以上の品種がありますが、食用はごくわずかです。日本では「まほや」と「赤ほや」が主流ですが、韓国ではこれに加えて「白ほや」と「えほや」も流通しています。その他の国では、フランスやチリ等、海に面した国で食されています。
 「ほや」は脊索動物で、どちらかといえば魚や人間に近い分類となります。流通している「ほや」の大半は養殖で、牡蠣殻やロープ等に種付けされます。主に初夏が旬で、2月頃から市場に出回り、5月~7月末に最も身が大きくなります。宮城県は「宮城の魚10選」に選ばれるほど生産が盛んで、全国シェアは1位を誇ります。
 2010年には、韓国での需要が徐々に高まったことが起因し、宮城県内の生産量は一時8,000tまでありましたが、東日本大震災による原発事故の影響を受けて韓国が青森県・岩手県・宮城県からの輸入を規制したため、北海道からの輸出量こそ増加していますが、宮城県からの輸出はストップしてしまいました。

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<ほやのブランド化にむけて>

 「ほや」を苦手に思う理由の一つにこの特有の匂いというのが多く挙げられます。しかし、実は産地の新鮮な「ほや」は、嫌な臭みがほとんどありません。
 そこで、「宮城ほや協議会」が考える「ほや」の魅力を最大限PRすべく、美味しい「ほや」の基準を“見える化”することに努めています。
 劣化の要因仮説として、時間経過・真水・温度・殻の汚れ等をあげ、2018〜2021年にかけて調査を行いました。
 “えぐみ”や“甘み”は味覚センサーで測定し数値化させ、その他に時間経過、糞の有無、配送・梱包方法は追跡調査を実施しました。結果は、水揚げ2日後までは味の変化が少なく、3日後以降は苦味・渋味の数値が上がりました。さらに、加工現場で内蔵を除去した生身の方が味の変化が少ないという結果も出ました。

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 さらに2020年からは、豊洲市場や大田市場で「ほや」を扱う方に直接ヒアリングを実施したほか、石巻から大田市場への配送を様々なパターンで実施し、温度変化・時間経過別に臭気成分の測定を行いました。これにより、7時間以上高温に晒すと一気に臭気成分が上がることが判明しました。宮城大学にも依頼し、現在も調査を継続しています。

 また、品質基準を決める上で、最も参考になったのは官能調査でした。時間経過・糞の有無・真水等で異なる条件の「ほや」を試食した結果、最も評価が低かったのは水揚げ後3日経過したもので、次に水揚げ後1日経過して真水にさらされたものでした。海で育った「ほや」は、真水を吸ってしまうと殻が張って見た目が美しくなりますが、これは刺激を受けて殻が硬くなったためで、実際には弱ってしまって、時間が経過すると徐々に品質が落ちていくのです。
 一方で高評価だったのは、水揚げ後すぐに捌いた後2日経過したむき身商品や、水揚げ後3日経過の糞を取り除いたもので、糞も味に影響することが官能調査で明らかになりました。

<「ほやの極み」ブランド認定>

 この結果から、水質・温度管理・時間管理の3つの要素で適した管理方法を整理し、さらに関係者のチェック体制も図りながら、「ほやの極み」ブランドの基本条件として運用しています。

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 ブランド認定を受けた「ほやの極み」は、①殻付き、②生のむき身(殻を剥いて内臓・糞を取り除いた状態)、③冷凍むき身の3種類に分かれます。店頭で陳列されている「ほやの極み」は、冷凍「ほや」を解凍した商品として販売しているものになります。
 「ほや」はどの加工形態でも味に大きな違いはありませんが、“殻付き”が一番好まれます。しかし、“殻付き”の場合、ブランド基準では水揚げから「2日以内に消費」することと定められているため、遠隔地では殻付き「ほやの極み」を食べることが非常に困難です。“生のむき身”は“殻付き”同様に、①真水を吸わせない、②温度を一定に保つ、③12時間以内に処理することが条件となります。
 一方で“冷凍むき身”は、解凍後1日以内に消費することが条件ですが、広い地域で食べることができます。

<導入事例>

 ブランド認証を受けるには、「宮城ほや協議会」の会員であることが条件となっています。これは、一緒に成長していきたいという考えが込められています。2022年5月からこの認証制度を開始し、現時点で「ほやの極み」を登録した事業者は8社で、商品数は14種類です。うち“殻付き”が4種類、“生のむき身”が4種類、“冷凍むき身”が6種類となっています。

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 2022年に関東エリアで寿司チェーン店を展開するがってん寿司様で「ほやの極み」の提供が開始され、ブランドマークを活用しながらPRを行いました。夏フェアや東北フェアにも参加し、想定以上の売れ行きがありました。「ほや」は売れにくいケースもありますが、「ほや」が好きな方は一人で4皿食ベる方もいらっしゃり、思った以上に反響があったとの評価をいただきました。

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 2023年からは、スーパーのカスミ様でフェアを開催していただいた他、バロー様系列店でも“殻付き”が人気でした。スーパー島田屋様では、朝採りの「牡蠣」と「ほや」を新幹線で配送しながら、当日中に売り切ることができ、来年も取り扱いたいとの話がでているほどでした。

 一方で飲食店では、「ほやの極み」ブランド独自の商品作りを行い、水揚げ日や入荷日を“見える化”して、店頭で鮮度の良さをアピールしながら提供を行っています。この見える化によって、賞味期限が短いことは気にならなくなったとのご意見をいただきました。期間終了後は、“塩辛”や“蒸しほや”等を展開いただく予定です。

 「ほやの極み」は、特に品質へのこだわりを差別化のポイントと捉えてくれる販売先・提供先において、“刺さる”商品だと思っています。今後はブランドイメージや認知度の向上を図っていきながら、さらに多くの店舗に製品を提供できるように努めていきます。