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企業紹介第177回宮城県有限会社カネイ蒲鉾店

創業からの味「はんぺん油揚げ包み」に
コアな食材をアレンジしてどこにもない商品を

宮城県塩釜市で、はんぺん、おでん種や惣菜用のしんじょう、板蒲鉾などを製造、販売する有限会社カネイ蒲鉾店。三代目を継いだ代表取締役の伊藤和弘(かずひろ)さんと、その弟で専務取締役の伊藤憲弘(のりひろ)さんが中心となって会社を切り盛りしています。

専務取締役の伊藤憲弘さん
専務取締役の伊藤憲弘さん

店舗に入ってすぐ真正面にあるショーケースの中でひと際目を引くのは、婚礼用の細工蒲鉾。同店は、1960(昭和35)年、宮城県仙台市の蒲鉾店で修業を積んだ伊藤松太郎さんが、主に婚礼用の細工蒲鉾を製造、販売する「伊藤蒲鉾店」として創業したのが始まりです。(2003年に有限会社カネイ蒲鉾店に改名して法人化)

婚礼時の引き出物として用いられている細工蒲鉾
婚礼時の引き出物として用いられている細工蒲鉾

婚礼時の引き出物のほか、家の新築祝いや正月、敬老の日のお祝いなどに用いられてきた細工蒲鉾ですが、婚礼スタイルの変化などからその需要は減ってきています。同社では、和弘さんが二代目で父の勝造さんから技術を受け継いでいますが、細工蒲鉾を製造できる会社は塩釜地区では今や1、2社のみとなりました。現在も数は少ないと言いますが、宮城県北部の婚礼会場やホテル、個人からの注文に応えています。

憲弘さんはそれまでは「将来的に家業に生かせたら」という思いで、東京の食品関連の企業に勤め、飲食店の店長をしていましたが、今から約20年前の20代後半のときに家業に入りました。それは当時、カネイ蒲鉾店の売上構成の8割を占めていた細工蒲鉾の需要が減りつつあり、今後は徐々に惣菜蒲鉾の製造にシフトしないといけないと考え始めていた時期でもありました。

惣菜蒲鉾の売上を増やしていく上で、看板商品となったのが、同店が創業期から変わらず作り続けている「はんぺん油揚げ包み」。三角形にカットした油揚げの中に、はんぺんを詰めた商品です。同様の惣菜をかつては塩釜で2、3軒が製造していましたが、今では同店だけだそうです。

「すり身を詰める作業は、創業当時から今も変わらず、ずっと手作業でやっています。私が子どもの頃から日常的に食べていて、友達が家に来たときはバターで焼いておやつに出したりしていました」

創業から手作業で作り続けている「はんぺん油揚げ包み」。現在は、プレーンのすり身に、季節によって柚子や枝豆、チーズなどを入れた変わり種も製造
創業から手作業で作り続けている「はんぺん油揚げ包み」。現在は、プレーンのすり身に、季節によって柚子や枝豆、チーズなどを入れた変わり種も製造

震災で婚礼蒲鉾の受注がゼロにPRのノウハウを学んで新たな展開へ

2011年3月11日、突然大きな揺れに襲われ、工場の機械が損壊し、ライフラインが停止。この地域は津波の被害こそ少なかったものの工場復旧まで約1カ月を要しました。

「震災当日は金曜日で、翌日に婚礼用蒲鉾の注文が入っていたので、父と兄と出荷準備を行っていたところに突然地震が起こったんです。津波警報も出ていたので作業を中断して、みんなで高台に避難しました。揺れが止んだら続きをやろうと思っていたんですが、電気も止まり携帯もつながらない状態で、明日の結婚式は開催されるかも、集荷の便が来るのかも分からなくて。ラジオで徐々に被害の大きさが分かってきてからは、これは尋常ではない、納品どころじゃないと実感しました」

機械の損壊や原発事故による風評被害も大きな損害となりましたが、震災後は結婚式が激減し、婚礼用細工蒲鉾の受注はゼロになってしまったのです。売上は震災前の約4割減となり、新商品や販路開拓が急務となりました。

従来品だけではこれ以上の売上増加は見込めないため、スーパーのバイヤーや食品メーカーの要望を取り入れながら、ホタテやカキ、北寄貝など近海で水揚げされた魚介やチーズなどをすり身で包んだ新しい商品の開発に取り組みます。2020年には、チーズを混ぜたエビのすり身をフィリングとした商品のサンプルが完成しました。

商品はバイヤーなどから高評価を得るものの、既存の機械では量目調整や包む作業ができないため、人手不足の中、手作業で対応しなくてはならず量産が難しかったのです。また、包装の工程においても既存の機械では生産が滞ってしまい、受注に応えられない状態となっていました。

同じ頃、当時代表取締役社長を務めていた勝造さんが病気で急逝。兄の和弘さんがそのあとを継ぐこととなりました。

「新商品開発に一緒に取り組んできた亡き先代によい報告をするためにも」と和弘さん、憲弘さんはじめ従業員一同で、再度奮起。新商品の安定的な生産体制を整えることを目指すとともに、復興販路回復センターで提供するアドバイザー事業を活用し、2022年の東北復興水産加工品展示商談会出展(以下=展示会)に向けて具体的なアドバイスを受けました。

「2017年に初めて出展した際は、大きな展示会への出展が初めてで、どうしていいか分からず思ったような成果は上げられませんでした。しかし2022年はアドバイザーの方から事前にディスプレイ、チラシの作り方、接客の方法など、具体的にすぐにアクションにつなげられるアドバイスをいただけたので、準備も万端にできました。なにより自信をもって当日に臨めたことが大きかったですね。実際、かなりの集客があり今後の商品開発、受注につながる人脈も得られたのが大きな成果でした」

生産の安定化を図るための機器導入でラインナップを増やす

新商品の量産体制を整えるために導入したのが固形物包餡機です。これまでは手作業で1分当たり12個を製造するのがやっとでしたが、機器導入後は、25個程度まで生産が可能になり、大幅な効率化を図ることができました。

さらに、包装作業を効率化するためのストレッチフィルム包装機を導入。その結果、従来は1,200パックの製品を作るのに4名の作業員で9時間かかっていたところ、機器導入後は、3名で8時間ほどでできるようになりました。また従来の機器が、震災の際に軸が曲がってしまったこともあり、包装の際に約10%の不良品が出ましたが、導入後は3%に削減。フィルムやシールをはがす作業の労力、資材の節約にもつながりました。

「残業も減り、労働環境も改善しました。結果的に仕事の質もあがったと思います」

固形物包餡機ライン。同機の導入でラインナップが増え、商談の際に多様な提案ができるようになった

ストレッチフィルム包装機は、導入した初日から作業効率・不良品削減の成果が出た
ストレッチフィルム包装機は、導入した初日から作業効率・不良品削減の成果が出た
固形物包餡機で量産体制を整えることができた新商品「エビ&チーズ」。細かく砕いたチーズとエビを中に入れ魚肉で包み、さらにチーズをトッピングし表面に焼き色をつけた品
固形物包餡機で量産体制を整えることができた新商品「エビ&チーズ」。細かく砕いたチーズとエビを中に入れ魚肉で包み、さらにチーズをトッピングし表面に焼き色をつけた品

手作業の強みを生かして小ロットのニーズを掘り起こす

これらの機器の導入で生産の安定化と省人化が図れたことから、創業時から作り続けている「はんぺん油揚げ包み」は手作業による製造法を維持しながら、イチ押しの商品として包餡商品とともに商談の際に提案できる体制も整いました。

「手作業の強みを生かしていきたいと思っています。機械で全部作るのではないので、プレーンのすり身さえ作っておけば、小分けに作業ができ、取引先の要望に応じたオリジナル商品も1ケースから対応できます」

手作業ですり身を詰める作業は大変そうに思いますが、「全然苦ではないんです。創業時からこの製法でずっとやってきていて、私自身この商品に思い入れもあるからでしょうか。今も母、兄、わたしの3人で1日約2,500枚を作っています」と憲弘さん。今後は食べ方の提案も一緒にしていきたいと考えているそうです。

「煮ても焼いてもOKですし、毎日の味噌汁に入れるのもおすすめです。サプリメントで栄養は摂れるのかもしれませんが、人にとって食べることは、絶対に重要ですよね。高たんぱくで栄養価の高い点もPRしていけたらと思っています」

看板商品の「油揚げはんぺん包み」は、食べ方も一緒に提案していきたいと言う。軽く焼いてネギと七味を添えて。副菜にもお酒のおつまみにもぴったりだ
看板商品の「油揚げはんぺん包み」は、食べ方も一緒に提案していきたいと言う。軽く焼いてネギと七味を添えて。副菜にもお酒のおつまみにもぴったりだ

今後挑戦したいのは、地域の特産品を使った「油揚げはんぺん包み」のアレンジ商品です。前述の展示会では、宮城県の蔵王で牧場を持つチーズメーカー主催の観光客向けの催事で、その場で焼いた『油揚げはんぺん包み』を利用した商品をホットスナックとして販売してもらう機会を得ました。地域の生産者と直接つながったことで、利益率の高い販路を開拓できたことにも手ごたえを感じたと言います。

「例えば、塩釜の隣、多賀城市特産の古代米を使ってみないか、という打診をいただいていたり、震災の津波による塩害で稲作から転作を迫られた生産者さんと、そこで栽培するネギを使った商品を共同で試作したりしています。うちは大量生産の方向ではなく、そうした人とのつながり、手作業で小ロットも可能という強みを最大限に生かして、近海で採れた魚や地域ならではのコアな食材を使って、どこにもないカネイ蒲鉾店にしかできない商品を生み出していきたいです。それができれば、地域貢献にもつながっていくのかなと思っています」

家族で日々、一つひとつ作ってきた創業当時からの味を大切にしながら、丁寧に一本一本繊細な線を束ねて太い軸とできるように、人と地域をつなげていく。細工蒲鉾の技術で地域のハレの日を飾ってきたこの店が、食卓を彩る商品を生み出す。塩釜の地で、カネイ蒲鉾店の挑戦は続きます。

有限会社カネイ蒲鉾店

〒985-0001 宮城県塩釜市新浜町1-24-15
自社製品:魚肉練製品(はんぺん、しんじょう、板蒲鉾、伊達巻)、細工蒲鉾 ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。