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連載復興水産販路回復アドバイザーに聞く

第4回「魚食の健康的価値を伝える情報発信を」

被災企業に対して、商品開発や販路開拓につながるさまざまなアドバイスをする復興水産販路回復アドバイザー。それぞれ専門分野を持つ皆さんへのインタビューを通じて、被災企業が一日もはやく復興を遂げるために必要な情報をお届けします。今回は企業の情報発信や健康分野に詳しい日経BP総研メディカル・ヘルスラボの客員研究員、西沢邦浩さんにお話を聞きました。

西沢 邦浩 氏

西沢 邦浩(にしざわ・くにひろ)

1984年に小学館入社。1991年日経BP社入社。開発部長として新媒体など事業開発に携わった後、1998年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に就任。2005年から同誌編集長。現在、日経BP総研メディカル・ヘルスラボの客員研究員及び株式会社サルタ・プレス代表取締役。2015年より復興水産販路回復アドバイザーに就任。

人手不足の状況でもPR担当者は必要不可欠

西沢さんは日経BP総研メディカル・ヘルスラボで普段、どのようなお仕事をされていますか?
西沢さん:私はもともと、健康分野の雑誌で編集の仕事をしていました。2011年頃から、企業側の情報発信にかかわる仕事にも携わるようになり、日経BP社を退社した現在は同社の日経BP総研メディカル・ヘルスラボで客員研究員を務めながら、自分で立ち上げた会社で健康医療分野の情報発信を中心としたコンサルティングの仕事もしています。
気仙沼の水産加工業者と大手コンビニなどがサメ肉を使ったつみれのスープを共同開発した際に、西沢さんは情報発信の面からサポートされていました。具体的にはどのようなことを?
西沢さん:サメ肉の健康効果に関する研究、ならびに商品開発にあたってのコーディネートやアドバイスから始め、その成果を踏まえて、サメ肉食の魅力を詰め込んだ小冊子をつくりました。サメ肉がいかに健康にいいか、サメ肉を使ってこんな料理ができる、江戸時代から人気の練り物・はんぺんの原料はそもそもサメ肉であるといった情報を入れて、サメ肉のポテンシャルを伝え、健康に関心のある人たちに興味を持ってもらうことを念頭に置きました。女性の健康と美に関する情報を提供している「日経ヘルス」の編集に関わっているスタッフがつくったものなので、読み応えもあると思います。サメ肉つみれのスープの発売のタイミングでは、テレビや新聞などニュース系メディアを呼んで記者会見も開きました。このような一連の情報開発とそのコミュニケーション戦略を担当したわけです。
冊子をつくることで、水産加工業者にはどのようなメリットが?
西沢さん:たとえば水産加工業者がサメ肉製品の魅力を流通に伝えようとするとき、「サメ肉を食べるとこんなにいいことがあるんです」ということを自分で説明しなくても、その冊子を渡すだけで伝えられます。薬機法(従来の薬事法でH26年11月改正)に抵触することもあり、自社の製品と一緒に配布することはできませんが、まとまった形でサメ肉についての情報提供が行えるわけです。また、読み応えある記事形式にしておくと、テレビなど他のメディアが関心を持ち、サメ肉や関連商品が大きく取り上げられる可能性もあります。「北海道のコンブをPRしたい」という依頼を受けたときにも、コンブの機能成分や料理のレシピ、コンブだしの歴史など、コンブにまつわる素材を収集・分析し、必要なのにない情報は新たに開発しました。それをやはり、他のメディアも使いやすいように正しいデータを入れるなどの配慮をしつつ冊子にしました。メディア関係者や流通の商品採用関係者が「おもしろそうだからうちでも取り上げよう・置いてみよう」と思えるような要素を詰め込んでおくことが大切です。
出版メディアを通さず、自分たちで独自に冊子をつくっている会社も参考になりそうな話ですね。そういった読み物よりも、情報を早く広めたい場合は?
西沢さん:プレスリリースを活用するのも一つの手です。ただし、プレスリリースもただ出せばいいのではありません。商品にどんなに魅力があってもそれが伝わらないと意味がないので、まず目に飛び込んでくるプレスリリースのタイトルやサブタイトル(タイトルを補足する短文)で、「おもしろそうだな」と思わせる必要があります。それも最初は難しいのでPR会社の協力を仰いだほうがいいかもしれませんが、できれば社内に一人、そういうことができる人材を育てることをおすすめします。プレスリリースの書き方が誰もわからないのであれば、PR会社や広告会社などが開いている講座などに社員を参加させてみるという手もあります。
ただそういった方法はコストもかかりますし、東北被災地では人手不足などの理由からPR担当者を配置する余裕がない会社も多いと思います。
西沢さん:おっしゃるとおりです。ただ、今は水産加工に限らず食品メーカーはどこも人手不足です。その中でも伸びている企業は、商品担当者が自分たちで歩いて、流通やメディア関係者との接点をつくり、一生懸命商品の魅力を伝えています。それが1社で難しいのであれば、何社かでお金を出し合ってPR担当者を立ててもいいと思います。
プレスリリースよりも簡単な方法としては、SNSを利用した情報発信もあると思いますが、それも有効でしょうか?
西沢さん:もちろん、SNSも有力な情報発信手段の一つです。ただし、この場合も工夫は必要です。たとえば新鮮な魚を使い、その魚をよく知る者ならではの料理を見せたり、その魚にまつわる歴史やおもしろいエピソードを載せたりしていく。内容が魅力的であれば多くの消費者の心をつかめるでしょうし、ホットな反応があればメディア関係者の目にもとまりやすくなります。ひと昔前と違って、今は自分で努力さえすればいろんな人たちに情報を届けられる時代ですから、SNSをうまく活用できるかどうかも非常に重要になってきています。

健康志向の時代、魚の加工品はますます重要性を増していく

出版業界、ヘルスケア業界に詳しい西沢さんの視点から、昨今の水産加工業界はどのように見えていますか?
西沢さん:サバ缶やカニカマなどがヒットしたこともあり、ようやく魚加工品ブームが到来しそうな兆しが見えますが、まだ魚の本当の価値が消費者に伝わっていないと思います。竹輪(ちくわ)が何からできているか、知らない人も多い。魚は良質な脂質として話題になっている魚油(DHA、EPA)がとれるだけでなく、免疫力を高めたり生活習慣病予防に役立つことで世界的注目を集めているビタミンDが豊富に含まれているのに、それがきちんと成分表記されておらず、これらの成分と魚の健康効果を伝えるための努力もほとんどされていないのが現状ではないでしょうか。健康に関心がある人たちは、サプリでこうした成分を摂取しようとしますが、魚油を政府がすすめる1日1グラム分取ろうとすると、高齢者にはのむのも難しいような大きなカプセルか、小さ目のカプセルだとたくさんの数をとるしかしない。そういう意味で今後、魚の加工品が果たす役割はますます大きくなるでしょうね。機能性成分を増量した魚加工品も、もっと登場してしかるべきだと思います。
若い人たちの間で、魚が食べられなくなっているという現状もあります。
西沢さん:魚のにおいが嫌だからとか、魚をさばくことができないなどの理由で、若い人たちの魚の消費量が減っています。若い人たちにどう食べてもらうかを考えていかないと、新しい市場を開拓できません。
若い人たちに魚や魚の加工品を食べてもらう工夫として、たとえばどういったことが有効ですか?
西沢さん:2019年に入ってもブームが続いているカニカマを例みとってみましょう。魚加工品であるカニカマはタンパク質が豊富。色素成分も赤ピーマンやトマトなどの色素を使っているから体にいい。テレビなどでそのように紹介されてから、カニカマの生産が追いつかないほど忙しいメーカーもあります。でもこれも、何もしないとそこで終わってしまう。ある日ブームが終わったときに備えて、一歩先の工夫をしておく必要があります。
「一歩先の工夫」とは?
西沢さん:たとえば、色素成分を魚由来(鮭・イクラなどの色素)に変えれば、すべて海のものでカニカマができます。また、カニカマにはあまり多くないと思われるDHA・EPAを添加してカニカマ1パックでサバ缶やイワシ缶1個分程度の量が取れるようにすれば(つまり十分な量のDHA・EPAをとれるように設計すれば)、今より価格が上がっても買う消費者は多いのではないか。もちろん、機能性だけではありません。おいしそうに見せる工夫も必要です。ある会社が、中米で製造されている、ツナのオリーブオイル&ハーブ漬けを、感度の高い消費者層に人気の商品に育てました。このオイル漬けは瓶詰め製品で、デザインもよく、中が見えるようになっている。缶詰は外から中身が見えませんが、見えたほうが購入欲をそそることもある。若い世代の魚離れや、魚の原料不足などの課題もありますが、こうした一歩先の工夫をすることで、ヒットが生み出せるチャンスが到来しているのは確かです。
最後に、東北の被災企業へのメッセージをお願いします。
西沢さん:ピンチはチャンスという言葉もあります。厳しい現実のなかで、そう簡単にはいかないのは当然ですが、復興は旧弊の改善を伴わないと未来への道が開きにくいことも事実ではないかと思います。ですので、これまで効率が悪い部分があったのであれば、白紙の状態から新しい設計図を引き直す機会だというとらえかたもしてみてほしい。世界で魚人気が高まっている中で、豊かな三陸の海は、必ずや重要度を増していくはずです。震災で工場などを失ったことで受けた無力感や大きな喪失感を拭い去ることは困難ですが、逆に震災前にはやれなかったことを一つでも二つでも始めてみたいものです。東北は底力のある地域。ぜひ、豊かな海の幸の持ち味を生かしたおいしい製品をつくって、それをしっかり消費者のもとに届けると同時に、積極的な情報発信をしていただきたいですね。

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。