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企業紹介第21回青森県株式会社 丸重宇部商店

大型サバの新鮮さをキープする「大→中→小」の選別ライン

柔らかな日差しの差し込む午前11時台。鮮魚選別ラインの“終着点”の一つに作業員が集まり、流れてきた新鮮なサバを次々に箱詰めしていきます。サバの中でも特に大きなサイズのものだけを選んだ八戸の地域ブランド「八戸前沖銀鯖」の出荷です。

鮮度を落とさないように箱詰め作業はスピーディーに行われる
鮮度を落とさないように箱詰め作業はスピーディーに行われる

鮮度を落とさないように箱詰め作業はスピーディーに行われる

中型・小型に選別されたサバは冷凍室へ
中型・小型に選別されたサバは冷凍室へ

鮮魚販売や水産加工など手がける丸重宇部商店(青森県八戸市)では、機械による効率的な鮮魚の選別作業が行われています。この日も水揚げされたばかりの大量のサバがおおよそ同じサイズごとに分けられていきました。鮮魚として即日出荷されるのは大型のサバのみ。中型や小型のサバは急速冷凍されて、出荷まで冷蔵庫で保管されます。

かつて同社では、手作業によって鮮魚を一つずつ選別していました。しかしそれでは増え続ける需要に対応できないため、選別機を一台、また一台と購入し、合計3台の選別機を揃えるまでになりました。これらを一つのライン上で稼働させ、工場に入ってきた魚を3回に分けて選別しています。丸重宇部商店社長の宇部修司さんは、選別ラインへの投資を続けた理由を次のように語ります。

X線検査機で異物混入を防ぐことも「当たり前」になりつつある
丸重宇部商店の2代目社長、宇部修司さん

「当社で多く取り扱っているサバの場合、しめサバ用には大きなサバ、缶詰加工用には小さいサバが使われます。お客さんによって求めるサイズが異なるので、要望に応じられるように選別をしています。鮮度を保ったままスピーディーに選別できるように、機械化を進めてきました」(宇部修司さん、以下「」内同)

港に水揚げされる魚の大きさは千差万別。工場に運ばれてくる段階では大きい魚も小さい魚も交ざった状態です。それらを選別してサイズごとにまとめるのも、魚の付加価値を高める方法の一つ。新鮮でサイズが揃っているから、注文が寄せられるのです。

津波の塩害により相次ぐマシントラブル

ところが丸重宇部商店の選別ラインでは、東日本大震災を境にトラブルが起こるようになりました。津波による塩害の影響です。八戸港の目の前にある同社の工場には、1.8メートルの津波が押し寄せていました。

「従業員はすぐに帰らせたので人的被害はありませんでしたが、津波が引いた後に工場に戻ると、床は泥だらけの状態でした。冷蔵庫の場所は少し高くなっているので、冷凍していた原料はギリギリのところで被害を免れましたが、外に置いてあった社用車やトラックなどの車両はほぼ全滅。無事に残ったのはフォークリフト1台だけでした。震災から1カ月後に工場の稼働を再開しましたが、一度海水に浸かった機械はその後も故障が相次ぎました。選別ラインもその一つですが、大掛かりな装置なので簡単には買い換えられない事情もありました」

大量の魚を扱う選別ラインが止まるのは同社にとっても大きなマイナス。そこで宇部さんは復興支援の助成金制度を活用し、鮮魚の選別ラインを一新することにしました。機械が新しくなったことで、生産能力は20%も向上したといいます。

さらに省人効果もありました。新しい選別ラインでは、作業にかかる人員を従来よりも3人減らすことができたので、その分の人員をフィーレ加工など人手が足りていない作業に回しています。

八戸港から工場に運ばれたサバはすぐに選別ラインに乗せられる
八戸港から工場に運ばれたサバはすぐに選別ラインに乗せられる
丸重宇部商店の工場内では魚の加工も行われている
丸重宇部商店の工場内では魚の加工も行われている
機器導入前は3名で作業していたが、導入後は1名で運用している
機器導入前は3名で作業していたが、導入後は1名で運用している

助成金では他にも空皿供給機とアキュームコンベアを新たに購入。凍結の際に使用する空皿容器は枚数も多く運搬には人手がかかっていたので、これも省人効果を発揮しています。しかし同社には今も修理をしながら使っている機材が多く、「まだまだ直したいところはたくさんある」と宇部さんは言います。

選別を「小→中→大」から「大→中→小」に

新しくなったのは機械だけではありません。選別ラインでは、システム全体を見直すことで、鮮魚をより新鮮な状態で出荷できるようになったといいます。

「従来の選別ラインでは、小さな魚から順に選別し、大きな魚が最後まで残る仕組みになっていました。しかしこれだと、鮮魚として出荷する大きい魚が選別されるまでに時間を要してしまいます。そこで新しい選別ラインでは、最初の機械で大きな魚を選別するようにしました」

選別する順番を「小→中→大」から「大→中→小」にすることにより、即日出荷される大型魚がこれまでよりも短時間で箱詰めされるようになったというわけです。選別機に通す回数が減ったことで、魚体への負担も軽減されました。

この選別機に魚を流し込むと、小さな魚はバーの間をすり抜けて下に落ちていく
この選別機に魚を流し込むと、小さな魚はバーの間をすり抜けて下に落ちていく
大型魚は重量選別機によって重量ごとに分けられる
大型魚は重量選別機によって重量ごとに分けられる

父から「現場に行って稼げ」と言われた若手時代

丸重宇部商店は1965年(昭和40年)創業。宇部さんの父である現会長の宇部重雄さんが、魚の行商から始めたそうです。

「当時はまだスーパーがない地域が多かったので、市場で仕入れた魚を山間部などに持っていくだけでも、海に近い町より少し高く売れていたそうです。その後、魚の加工を始めるようになり、私が物心ついた頃には両親は自宅兼工場で仕事をしていました。いつもトラックの音がしていたのを覚えています」

3人きょうだいの長男である宇部さんは、働く両親の背中を見ながら育ち、2代目社長に。父・重雄さんからは、「現場に行って稼げ」とよく言われたそうです。

「現場は常に人手不足なので、行けば必ず何か仕事がある。現場で荷受けや積み込みをよく手伝っていました。時間までにトラックを出さないといけないのでとにかく慌ただしかったですね」

現場で仕事を覚えてきた宇部さんには、あるこだわりがあります。

「経費や手数料などを引くと赤字になることもあるので、商品を少しでも高く売るために差別化をしないといけません。その方法はいろいろあると思いますが、鮮魚中心の当社は鮮度で差別化を図っていくつもりです。『あそこの魚は鮮度がいいね』と評判になればいい値段で買ってもらえますが、逆に『あそこの魚は鮮度が悪い』というイメージが付いてしまうと安く買い叩かれてしまうこともあるので」

「丸重の魚は新鮮だ」と言われ続けるために、宇部さんはこれからも鮮度にこだわり続けます。

株式会社丸重宇部商店

株式会社丸重宇部商店

〒031-0831 青森県八戸市築港街1-3-53
自社製品:サバ、タラ、カレイ、イカほか
(魚介類販売、水産加工業)

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。