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企業紹介第47回福島県株式会社村山栄次商店

震災での打撃を契機ととらえた経営改革顧客のニーズに応えるための商品づくり

福島県いわき市。県下最大の港・小名浜港の目の前に工場を構える株式会社村山栄次商店。
小名浜港で揚がるサバ、イワシ、サンマ、アジなどを選別、冷凍して、缶詰などの加工用原料、また養殖用のエサとして出荷するほか、鮮魚用の氷の製造も行っています。

村山栄次商店は、明治期、2016年3月に代表取締役に就任した村山榮三さんの曽祖父・村山栄次さんによって、茨城県大津で創業。当時は、サバ節や煮干し、イワシなどの煮物などを取り扱っていたそうです。祖父の正太郎さん(のちに栄次と改名)、父の栄一さん、栄一さんの兄弟と「村山栄次商店」の名は受け継がれ、1960年、福島県いわき市小名浜に工場を設立。榮三さんは創業から6代目にあたります(法人設立は1949年)。

株式会社村山栄次商店 代表取締役 村山榮三さん
 株式会社村山栄次商店 代表取締役 村山榮三さん

榮三さんがこの仕事に携わるようになったのは、22歳の頃。18歳から東京の築地市場で仲買人として住み込みで働いたのちに同社で入りました。

「工場に入ってからはその後工場で長く勤めている人に混じって仕事を一から覚えました。父からは、とにかく毎日市場には顔を出せ、と言われて、毎朝5時半に小名浜市場に出向くことから始めました」(村山榮三さん・以下「」内同)

18年ほど前、30代半ばで市場での売り買いを任されるようになった榮三さん。当時は水揚げ量も多く、最盛期、漁獲量が増える時期に安く大量に仕入れ、一気に加工という手法でした。ですが、水産庁が資源管理型漁業の方針を打ち出すなか、10年ほど前から水産加工業者のなかでも魚のサイズを細分化して選別する流れが進み、それに伴って、市場での買いつけの状況が悪くなってきたそうです。榮三さんは、その頃から経営体質改善の必要性を感じ始めたと言います。

「これまで、たとえばサバなら200g~300gのサイズのものを缶詰などの加工用に、それより大きいサイズを鮮魚用、小さいものを養殖のエサと3段階にしか選別していませんでした。脂がのっていて単価の高い魚が揚がっても、手を出せずにいたんですね」

震災前の同社売り上げの内訳は7割が養殖用エサ。3割が加工用原料でした(製氷分を除く)。

「安い時期に大量に仕入れて、サイズの小さい魚を養殖用のエサとして出荷することに頼っていたのでは今後生き残れない。これからは、薄利多売の経営体質から、付加価値をつけて利益率をあげていかないといけないと考えていました」

震災の前の年には、榮三さんが、父の栄一さんに「工場の生産ラインを変えたい」と持ちかけて検討を始めていたそうです。当時の代表取締役・村山彰さんとも話し合いを重ね、今後の村山栄次商店の方向性を模索していた矢先、2011年3月、東日本大震災とその後起きた原発事故に見舞われたのです。

「工場はもうだめだ」と一度は思うも取引先の一言で再建を決意

小名浜港のあるエリアは太平洋に対して南向きに位置するため、津波をまともに受けることによる建物の損壊は少なかったものの、浸水被害は甚大。同社も工場内2mまで浸水し、設備機器すべて、トラック、フォークリフトなども使えない状態になりました。

「地震が起こった日、道路も瓦礫だらけで会社まで来るのも大変でした。やっとの思いでたどりついて最初に工場の状態を見た瞬間は、『もう再建は無理だな』と思いましたね。でも、とにかくお客様に納品する商品が冷蔵庫にあったので、それだけでもなんとかしなくてはと動きました。うちの工場は小名浜エリアでも被害が大きかったんですが、近隣の同業者の冷蔵庫は無事だったところが何軒かありました。みんなそれぞれ、うちは何トン預かれるよ。うちは何トン空いているからって声をかけてくれて。がれきをどかしながら道路をつくって、工場内も泥でいっぱいでしたが、フォークリフトが通れるだけのスペースを確保して、冷蔵庫の浸水部分の凍ってしまった部分をはがしながら、荷物を運び出し、声をかけてくれた同業者の冷蔵庫に商品をなんとか運びました。その矢先に原発事故が起きて、避難しろ……ですよ」

榮三さんは従業員には「避難するように」と声をかけ、機関士らと工場に残り復旧作業に当たったそうです。

「近隣の同業者の間でも、うちがもう辞めるんじゃないかと思われていたと聞きました。水産加工業というのは、ヨコのつながりで会社が回っている部分が大きいんです。たとえば、船を1艘、港に呼ぶとしても、うち1軒だけで揚がる魚を全部買えないので、たとえば、何軒かで100トンずつ買って初めて処理できる。自分の会社だけが残ってもやっていける商売ではないんです。でもうちの被害の大きさを見て、周囲も気を遣っていたのでしょう。やって欲しいと強く言われることもなく、どうするか見守っていてくれたように思います」

一時避難していた従業員が小名浜に戻りはじめた同年の3月末、これまでずっと同社から氷を買っていた鮮魚販売店の顧客から「氷、なんとかなりませんか」と相談がありました。当時製氷室に1本135㎏の氷の塊は残っていたものの、保冷用にするための細かく砕く機械が動かないので難しいと説明しましたが、返ってきた言葉はこうでした。

「自分たちでハンマーで細かく砕いて使うから出してほしい」

「その言葉を聞いて、やらなくちゃいけないなと強く思いました。ヨコのつながりがあって支え合っているからこそ、この地域の水産加工業がなりたっているんだと。そこからの動きは早かったですね。工場を再整備して、利益構造を変えるなら今やるしかない。そう思いましたね」

震災前から働いていた従業員もひとりも欠けることなく戻ってきました。震災のあった2011年の5月には一通りの設備の修理を終え本格稼働したものの、原発事故の風評被害による影響は大きく、同年の売り上げは原発震災前の3分の1に減少。ですが、同社では売上も設備も震災前に戻すことだけを目標にはしませんでした。もともと念頭にあった細かな選別のための工場のラインの増設を具体化していったのです。

「震災前から売り上げが3分の1となっている製氷工場の修理、再整備も課題ですが、現在の会社の状況から考えると、製氷にかかる設備投資は妥当ではない。だったらなおさら鮮魚、加工用原料として出す魚の付加価値を高めて売り上げを増やしていくしかない、とも思いました」

顧客のピンポイントなニーズに対応できるような体制づくりで利益率を高める

従来は前述のとおり魚のサイズによって3種類に選別していた工場のラインをもっと細分化できるよう、2015年に「重量選別機」を導入。これによって魚を50g単位8段階、従来の選別と合わせると10段階に選別できるようにしたのです。さらに従来はパンに入れ冷凍、そのまま出荷していたものを、それぞれ箱詰めした商品にできるようにしました。

従来からあった選別機。ローラーの幅より小さいサイズの魚が下に落ちていく。
 従来からあった選別機。ローラーの幅より小さい
サイズの魚が下に落ちていく。
2015年に導入した重量選別機。50gごとに設定し8段階にわけて選別している
 2015年に導入した重量選別機。50gごとに設定し
8段階にわけて選別している

「たくさんの商品をつくる加工業者は、パッケージのしやすさや見栄えなどの点から、この商品にはこのサイズの魚を使うなどピンポイントでの商品を求めているんですね。高い精度で規格がそろった原料なら、加工製品を作る際に選別する工程が減らせます。どんな魚が揚がっても対応して商品にする。この体制を整えた結果、キロ単価が2倍近くになった例もあります」

この機器を導入した当初は、あちこちの取引先に「一度見るだけでもいいから見てほしい」と積極的に声をかけ営業、「これなら欲しい」と新規の顧客を獲得できたそうです。
原発事故後、操業規制がとられていた小名浜港でも、回遊魚をはじめ放射能の影響の安全性が確認された魚種では、水揚げ量も増えつつありました。一方、同社では細分化した商品のニーズに手ごたえを感じていたものの、資材不足により処理量が増やせずにいたのです。

そこで、販路回復取組支援事業を利用して2016年に導入したのが、軌道に乗りかけた新ラインでの生産量を増やすための機器等です。

同じサイズの魚が集中しても頻繁にタンク交換をしなくていいように、選別した魚を入れるタンクを背の高いものに変更。それに伴い、高さのある「コンベアー」を導入しました。これにより、ラインを止める回数が減り、作業効率がアップしました。

そして、魚を凍結するための「冷凍パン」を増量。「その日揚がった魚をできるだけ早く加工したかったのですが、資材が足りなかったため、朝、いったん冷凍した商品を型から出す作業が必要でした。冷凍パンを増量することで、朝揚がった魚の処理作業がスムーズにできるようになりました」と村山さん。

細かい重量選別によって箱詰めされた段ボールそれぞれにラベルを貼る「ラベラー」は、これまで事務所でラベルをプリントアウトしていた作業の煩雑さを解消。また、段ボール同士の間の通風を確保した状態のまま重ねられる「冷凍棚」の利用で、冷凍効率を高め、冷凍庫のキャパシティ125トンを最大限に使えるようになりました。

コンベアーとタンク
 コンベアーとタンク
冷凍パン
冷凍パン
段ボール間の通風を確保し、冷凍効率を高める冷凍棚
 段ボール間の通風を確保し、
冷凍効率を高める冷凍棚
ラベラー。すべての箱に商品情報を記載したラベルを貼ることで、細分化された商品のロット管理に活用
 ラベラー。すべての箱に商品情報を記載したラベルを
貼ることで、細分化された商品のロット管理に活用

付加価値、商品力をさらに高めて社名を入れた独自ブランドに

これらの機器、設備の活用により、1日あたりの生産量が約20%増加、また年間製造トン数も、当初15%増の見込みが、今年度は30%増となりました。売り上げの内訳も、3割が養殖用エサ。7割が加工用原料(製氷分を除く)と震災前と逆転しています。2017年1月の決算では、売上高を震災以前よりも伸ばし、着実にその復興の歩みを進めています。

また、選別精度の強化や加工原料の箱詰めといった付加価値をつけた商品は、タイ、ベトナム、アフリカ向けの輸出量増、単価のアップにもつながったそうです。

「2015年に重量選別機を導入して今年で3シーズン目、お客様からの評価も高く、きちんとよい製品をつくれば売れるという手ごたえは感じています。それには、お客様との話のなかで、今年はどういう設定にすればニーズに応えられるかをキャッチする必要があります。同じ魚でも重量設定をその年、その年で変えていかないといけない。自分の思い込みだけで製品を作ってしまってはだめなんですね。今はまだ試行錯誤の段階ですが、まずは前年度の売上20%増を目指しています。今後は、国内外のお客様から村山栄次商店の商品を買いたいと指名してもらえるように、箱に社名を入れた独自ブランドとしても売っていけるようにすることが目標です。独自ブランドという大げさに聞こえますが、自分の名を入れるのは、商品には自信をもって最後まで責任をもつという姿勢の表れ。そうした姿勢で製品づくりに取り組んでいきたいですね」

「東日本大震災での被災を、かねてから考えていた課題に取り組む契機とし、常に先を見据えて、新たな製品作り、経営体質の改善に取り組んできた村山栄次商店。村山栄次商店の名が刻印された独自ブランド商品が国内外で見られる日も遠くないでしょう。

株式会社村山栄次商店

株式会社村山栄次商店

〒971-8101 福島県いわき市小名浜字栄町13番地
自社製品:加工用原料、養殖用エサ、鮮魚用氷

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。