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企業紹介第92回宮城県株式会社千葉喜商店

「魚屋」としてのスキルを磨きながら探す「大事なこと」

「魚屋の仕事は朝早い。きつい。魚のにおいも付く。子どもの頃からそんなイメージを持っていたので、学生時代は『魚屋の仕事は継ぎたくないな』と思っていました」

鮮魚仲買と水産加工を営む千葉喜商店(宮城県気仙沼市)の常務取締役・千葉裕樹さんは、大学を卒業後、東京の水産商社に就職しました。エビの輸入や海外生産の企画など、そこでの仕事はダイナミックでやりがいがあったそうです。しかし震災からの再建を目指している両親を助けるため、千葉さんは10年間勤務した水産商社を辞め、千葉喜商店で働き始めます。

千葉喜商店の常務取締役・千葉裕樹さん。名刺には「魚や」とある
千葉喜商店の常務取締役・千葉裕樹さん。
名刺には「魚や」とある

「前職の社長からは、私がまだ学生だった頃に、『魚屋さんの仕事も面白いと思うよ』と言われたこともあります。正直まだそこまでは思えていませんが、スリルを感じることはあります。うちは規模の小さな会社ですが、仲買として魚を大量に扱うため、帳簿上はものすごい金額が動きます。買った魚が必ず売れるとは限らないので、売り買いではとても緊張感があります」(千葉裕樹さん、以下「」内同)

千葉喜商店の創業は、終戦間もない1946年(昭和21年)。千葉さんの祖父・千葉喜一さんが気仙沼で鮮魚店を開いたのが始まりです。今よりも水揚げの多かった時代は、商売も繁盛していたといいます。

「従業員の数は現在20人弱ですが、私が小学校の頃には50人ほどいて、大きな工場も建てました。しかしその工場は東日本大震災の津波により全壊しました。私は東京で働いていたので被災はしていませんが、震災から2カ月後に気仙沼に戻った時に、工場にはその残骸が残っているだけ。ただ、周りも同じように壊滅的な状況だったので、『うちの工場がなくなってしまった』というよりは、『街がこんなことになってしまったのか』という心境でした。正直、この状況から会社を立て直すのは難しいだろうな、と思いました。でも父はまだあきらめていませんでした。だからここまでやってこられたというのもあると思います」

2012年1月、千葉喜商店は新しく建てた工場から再出発しました。しかし千葉さんが東京の水産商社を辞め千葉喜商店に合流した2013年3月時点でも、先行きがまだ不透明だったといいます。

加工事業を伸ばして計画的な生産を目指す

千葉さんはまず、震災後に建てた工場の稼働率を高めるため、千葉喜商店が以前から手がけていたエビの刺し身加工の生産量を増やすことから始めました。エビの刺し身加工は、もともと水揚げがない日の従業員の仕事として震災以前から行っていたもの。千葉さんは前職の人脈を頼りに、売り先を広げました。

「海外産のエビの殻をむいてパック冷凍にしてから、ホテルや仕出し屋さんなどに出荷しています。刺し身用のエビはマーケットが限られていて、国内加工においては専門会社も少なく、大手が手を出しにくいジャンルなので、今後も続いていくと思います」

四反田工場の作業風景
四反田工場の作業風景
四反田工場で生産している「おさしみ用甘海老」
四反田工場で生産している「おさしみ用甘海老」

さらに、鮮魚の販路についても見直しを図りました。従来は鮮魚を市場に納めていましたが、水揚げ量などの状況によりその時々で値段が変わるため、自分たちで値段を設定して問屋にも卸すようにしたのです。他にも経費の見直しや他の魚種への転換、在庫の削減などに着手します。

潮見町工場より鮮魚出荷されるカツオ
潮見町工場より鮮魚出荷されるカツオ

「やり方次第でまだまだできるんじゃないか」

そう手応えを感じた千葉さんは、加工事業の充実化を図ることにしました。今も事業の柱はカツオをはじめとした鮮魚の仲買ですが、鮮魚は買いすぎると余らせてしまうし、買わないと商売にならない。損が出ることも珍しくない商売のうえ、近年は水揚げ量も減ってきたため、新しい流れを作ろうと模索しているのです。

冷凍機の導入で水揚げに左右されない計画的な生産が可能に

加工事業のベース作りを進めるため、千葉さんは販路回復取組支援事業の助成金を活用して、冷凍機(ブラストチラー&フリーザー)を導入しました。急速冷凍が可能な冷凍機で、凍結時の魚へのダメージを減らしてくれるのだそうです。

急速冷凍により魚加工品のダメージを減らす
急速冷凍により魚加工品のダメージを減らす
「戻り鰹こうじ漬」は主に地元のスーパーやギフト用に出荷
「戻り鰹こうじ漬」は主に地元のスーパーや ギフト用に出荷

この冷凍機は、2016年に気仙沼市潮見町に建てた新しい工場に設置。市場から買い付けた魚の加工場として稼働している潮見町工場では、戻り鰹こうじ漬やホヤなどの冷凍加工品を生産しています。その時の水揚げ量によって価格が大きく変動する鮮魚を多く扱う千葉喜商店にとって、季節に関係なく計画的に生産でき、価格も安定している冷凍加工品は今後も増やしていきたい製品です。

海外展開の夢を持ちつつ、プロとしての足固めをする

経営改革に前向きな千葉さんは、「職人気質」の父・英喜さん(千葉喜商店社長)と、経営方針について意見を交わすこともあるといいます。

「父は魚をたくさん買えた日は元気がよく、あまり買えなかった日はシュンとしている。お金のことはあまり気にしていない様子で、たくさん買えたかどうかにこだわっています。よく言えば職人気質なんですが……。父は『お前はお金のことばかり話すけれど、もっと大事なことがあるだろう』と私に言います。もちろん私もそれは分かっているつもりだし、お金以外のことを大事にしている会社が成功していることも知っています。魚の水揚げ量が多かった時代はそれでもよかったが、収益をしっかり確保するということもこれからは意識していかないといけない」

そうは言うものの、千葉さん自身も、「魚屋」としてのアイデンティティーを放棄しているわけではありません。むしろそれは、千葉喜商店が決して捨ててはならない土台であると強調します。

「うちがなぜお客さまに支持されているのか。それは当社の品質を評価してくれているからだと思います。魚屋としての鮮度を保つノウハウ、目利きのスキルが、品質の良さにつながっている。事業を広げるにしても、魚屋としてプロフェッショナルの部分を捨ててはいけないし、自分もここを極めてみたいと思います」

今はまだ、「お金以上に大事なこと」を探している段階だという千葉さんですが、ある夢があるといいます。それは海外展開。海外からの輸入に携わる仕事をしていた前職の経験やノウハウを活かしてみたいのだといいます。

「当社のこれまでの事業と合致するかどうかは分かりませんが、夢があったほうが働いていて楽しいでしょう。周りの人から見れば、『こんな小さな会社でそんなことできるわけない』と思われるかもしれませんが、だからこそ『やってみたい』という気持ちが湧いてきますね」


潮見町工場

株式会社千葉喜商店

〒988-0063 宮城県気仙沼市四反田80-4(本社・四反田工場)
〒988-0031 宮城県気仙沼市潮見町2-102-3(潮見町工場)
自社製品:鮮魚・冷凍魚(カツオ、メカジキなど)、冷凍食品加工(エビなど)

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。