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企業紹介第126回宮城県熊栄産業株式会社

漁船を持つ会社ならではの高鮮度商品で開く
6次化への道

「うちの強みは鮮度のいい製品を出せるということ。それこそ活魚に近い鮮度で出せます。ここが最も差別化できるところです」

鮮度の違いを明確に打ち出す熊栄産業の3代目社長、
熊谷友孝さん

そう自負するのは、宮城県気仙沼市の熊栄産業社長の熊谷友孝さん(以下「」内同)。そこまで言えるのには理由があります。

もともと漁船経営から始まった同社は、現在もその事業を継続。つまり生産者であり、加工業者でもあるのです。

同社の定置網漁船で取れた魚の一部は、市場を通さずにそのまま自社工場に運ばれます。そのため、鮮度の高い状態から加工することが可能です。

「法人化した当時(1968年=昭和43年)、当社は魚肉ハムの原料供給をしていました。現在は鮮魚出荷、フィレ加工を中心に行っています。扱っている魚種はサンマ、サバ、カツオ、タイ、アナゴなどのほか、定置網で取れる少量の魚も扱っています。他社が真似できない商品を作っていこうというコンセプトで商品開発をしています」

小規模でも付加価値の高いものを出していく

東日本大震災の当日、工場で地震に見舞われた熊谷さんは、すぐに従業員全員に避難を指示しました。全員、私物を持たずに避難したため、津波で流された免許証などはすべて再発行することに。そこまでスピード感を持って避難させたのは、熊谷さんが漁船経営という海に立脚した仕事をしているため、地震や海の変化には常に敏感だったからです。「あの時は、いつもとは様子が違い、危機的状況が予想された」と当時を振り返ります。

従業員は全員無事でしたが、工場が津波で流されてしまったため、しばらく作業はできなくなりました。気仙沼の魚市場が再開した6月頃から、従業員の方を再び集め、生鮮出荷から事業を再開。震災から3年後には、現在の場所に工場を再建し、加工用の機械を揃え、従来のフィレ加工に加えて、焼き加工、一夜干しなどにも挑戦しました。

「もともと加工の幅を広げるビジョンは持っていて、前処理の段階までは震災前から行っていたこともあり、対応はスムーズでした。ただ、この先も生き残っていくには、もっと大規模化していくか、小規模でも高い付加価値を生み出していくかのどちらかです。当社の工場部門は10数名規模なので、すぐに大規模化することはできません。そこで付加価値の高いものを出していくことを徹底することにしました」

定置網漁船で取れる魚の中には、量は少ないけれども価値のある魚もあります。幸い、こういった魚の価値を認める販路が震災後も残っていたため、そうした売り先に商品を納めることができました。

しかし、漁はいい時もそうでない時もあり、原料供給は不安定です。また、消費者や販売先から求められるニーズも多様化してきました。限られた人員と当時保有していた機器では、新しい依頼に対応できないというケースも出始めたのです。

時代のニーズに合わせた新機材導入で新規顧客獲得にも成功

そこで熊谷さんは販路回復取組支援事業の助成金を活用し、多様なニーズに応えていくための機器を導入しました。

「自動炙り機では、新商品としてカツオの炙りを作りました。このサンプルを持って営業を続けていたら、取引先を通じて商品に興味を持ってくれた方がおり、美味しいと好評を得て新たな顧客獲得につながりました。カツオの炙りで自信を持てたので、今後は別の魚種でもやってみるつもりです」

干物加工に使用する冷風乾燥機も、その仕上がりに満足しているようです。

「冷風乾燥機で作るソフト干物は、外側はカリッとしながらも中身はふんわりと仕上がって、お客様にも好評です。乾燥と同時に殺菌もしているので、衛生管理に取り組む当社の方針とも合う機器です」

冷風乾燥機は子供にも食べやすいソフト干物の加工が可能
多様なラインナップの揃う熊栄産業のソフト干物

この他に、フィレマシンや包装用機器など、人手不足に対応する機械も導入しており、少人数でも注文に対応できる体制を整えています。

「少なくてもいいから欲しい」の声に大きな手応え

新しい機器の導入により、安定した数量を揃えられるようになった熊栄産業では、今後はネット販売を強化していきたいと言います。

「アンテナショップを持つ構想もありましたが、環境が整わず一旦断念しました。しばらくは、立ち上がったばかりの自社サイトでのネット販売に力を入れていきたい。生産、加工をやってきた強みを活かして、今後は販売も含めて6次化のスタイルでやっていければと思います」

今後のテーマは機器との組み合わせ。新しい機器を導入したことで、機械がいかに大きな役割を果たしてくれるかと気づいた熊谷さんは、小回りを利かせて多様な商品を出していきたいと言います。

導入したクリアサーマルバンド
(熱印字が可能なフィルムタイプの包装)装着機を使った商品

「手応えはあります。『少量でもいいからいいものが欲しい』という声は多くあり、百貨店などからもオファーをいただいています。新型コロナウイルスの感染拡大でなくなった話もありますが、ありがたいことに、また別のところから『欲しい』という声をかけていただいているので、今後も引き続き、少量でも付加価値の高い商品を出していけば、きっと上手くいくと思っています。売れ筋の商品が揃ってくれば、人を増やしていくことも考えたいですね」

今の規模のままでいるつもりはないと、拡大のチャンスをうかがっている熊谷さん。足元をしっかりと固めながら、漁船を持つ会社としてその強みを活かした商品作り、販路開拓を続けます。

熊栄産業株式会社

〒988-0031 宮城県気仙沼市潮見町6-21
自社製品:カツオの炙り、マグロのたたき、ソフト干物ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。