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企業紹介第129回宮城県五光食品株式会社

独自製法で旨味凝縮、
大粒のカキに乗せた世界進出の夢

古今和歌集の歌などに詠まれ、松尾芭蕉もその姿を眺めたという宮城県塩竈市の籬が島(まがきがしま)。外周150メートルほどの小さな島の前に本社工場を構える五光食品は、「カキと牛タン」という珍しい組み合わせの製品作りをしています。

古来、数々の歌人が歌に詠んだ籬が島

「当社は、もともとこの場所にあった、かき小屋(カキ専門の飲食店)の事業を継承しています。当社が事業を引き継ぐ2008年以前から、カキと一緒に牛タンも扱っていたようです。詳しいことはわかりませんが、おそらく仙台が近いこともあったからでしょうね。その後、2010年からは当社工場で加工も行うようになりました」(常務取締役の平間正行さん、以下「」内同)

五光食品常務取締役の平間正行さん

工場は1階がカキ、2階が牛タンとそれぞれの加工場を分けて「みやぎHACCP」を取得しています。また、旨味成分を閉じ込めたまま冷凍保存することが可能なハイパーフリーザーを擁し、カキと牛タン、どちらも通年加工しています。

「加工は薫製(くんせい)と炙(あぶ)りがメインとなっています。現在の柱となっている商品は『かき一夜干し UV-Aウマァミーノ』です。紫外線を照射して乾燥させる特殊な方法で、カキの旨味成分を凝縮させています」

ウマァミーノは2019年に第29回全国水産加工品総合品質審査会で農林水産大臣賞を受賞するなど、県内外で高い評価を得ています。

宮城県産の大粒カキを使用した人気商品「ウマァミーノ」

宮城からカキがなくなり北海道に渡って原料探し

自社工場での加工を始めた翌年の2011年、これからという時に東日本大震災が起こります。平間さんは会社で被災しました。

「当日はたまたま定休日でしたが、私も含め3名ほどが健康診断から帰ってきて会社にいました。地震があって机の上のパソコンなどが落ちましたが、津波は経験がなかったこともあって、ゆっくりと身構えていました。それでも大きな津波が来ているから高台に避難するようにとアナウンスがあり、私たちも避難しました」

松島湾の島々が津波を防ぐ形となり、松島湾内の津波はそれほど高くはならなかったようです。それでも五光食品の工場は1メートルほど浸水し、電気系統が故障。1階にあったカキの原料は廃棄処分となりました。また、フォークリフトやトラック、社員の車が流される被害もありました。

「工場は1カ月ほどで復旧しましたが、いかだなどの養殖施設が津波で流されて、原料のカキが手に入らなくなり、その年の秋口には北海道の産地をいくつか回りました。結局、北海道から帰ってきた後に、同じ宮城県内の女川から仕入れることができましたが、当時はそのくらい先行きが見えない状況でした」

震災後は新たな販路開拓を目指し、それまで他社に委託していた燻製加工も自社工場で開始。燻製やオイル漬けなどカキ加工品の開発に力を入れ、販売先からも好評を得ていました。しかし、下処理におけるボイル工程で煮汁にせっかくの旨味が溶けだしてしまうため、カキのおいしさを100%出し切れていないことを課題に感じていました。そして、その課題を解決する方法として、ボイルの代わりに「天日干し」することを思いつきます。太陽の光に当てることで、殺菌効果を得られ、水分量も低下させることができるのではと考えたのです。それからは試行錯誤を繰り返しますが、なかなか思ったような成果は得られませんでした。

様々な方法を模索する中、八戸工業大学の青木秀敏教授が天日干しと同じ効果をもたらす紫外線A波(UV-A)照射による新製法を開発していることを知ります。そして、産学連携により、紫外線を照射する共同で実験を行い、生カキ用のUV-A照射乾燥機を開発させました。その結果、UV-Aを照射したカキは水分が抜け、甘味、旨味成分量が増大することが分かりました。実は、ここで開発されたUV加工カキというのが、現在の主力商品となる「UV-Aウマァミーノ」です。

震災前は生ガキの出荷が中心でしたが、震災後、高付加価値商品の製造、販売に大きく舵を切った五光食品。この当時の思い切った決断がすべて現在の業態につながっています。

商品力は十分。課題は営業力と販売力の強化

「ウマァミーノ」はカキのおいしさを存分に引き出した製品として高い評価を得ていましたが、売上に伸び悩んでいたため、従来の営業方法、販売方法を見直す必要がありました。そこで販路回復取組支援事業の助成金を活用し、商品デザインを一新しました。

「パッケージを変更して、「ウマァミーノ」のギフト商品化を進めました。また、お酒のおともに食していただこうと、ワイン、日本酒、ウイスキーのそれぞれのお酒に合う「ウマァミーノ」も用意しました」

商品バリエーションを増やして生まれ変わったウマァミーノ

ワイン向け「ウマァミーノ」は、抱卵前の栄養豊富なカキを使ったクリーミーな食感。日本酒向けは、藻塩で漬け込み、潮の香りで旨味を引き立たせるもの。ウイスキー向けは牡蠣汁につけてカキの風味をさらに濃くしています。

助成金ではこのほか、作業を効率化させるべく除水機、高圧洗浄機、結束機といった新しい機材も導入し、生産体制の安定化も進めています。

「高圧洗浄機は女性も扱いやすく、工場内の至る場所で使われています。加工用機材の網の目部分は従来、ブラシで洗っていましたが、高圧洗浄機のおかげで半分の時間で済むようになりました」

作業行程で付着したパッケージ表面の水を風で飛ばす除水機

好調の通販から活路を見出し、いずれはヨーロッパへ

目下、懸念となっているのは、3店舗あるカキと牛タンの飲食店の運営です。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で売上は4割減。それまで、県外からバスツアーが組まれるほどの人気ぶりでしたが、団体客がまるまる消えてしまったのだそうです。

「今も団体様のご予約が入った時に備えて常に準備はしています。しかし新たな誘致もできないので、お客様が戻るのをただ待つしかないという状況です」

カキの食べ放題が人気の「塩竈かき小屋本店」

そんな中、明るい材料は通販部門の好調です。

「2020年はコンビニの通販で販売させてもらい、3カ月で2万パック売れました。予想以上の売れ行きで一時は在庫がなくなったほどです」

ウマァミーノのほか氷温熟成の製品も通販で人気

通販需要に手応えを感じる平間さんの期待は、海外にも膨らみます。すでにハワイでのイベントに出品の実績があり、現地でも評判だったようです。

「今後は『ウマァミーノ』の海外展開をヨーロッパにも広げていきたいですね。フランスのような国ではカキを食べる文化もある。でも常温品でそのまま食べられるものは、なかなかないでしょう。当社の『ウマァミーノ』は常温でもおいしいので、通用する可能性は十分あると思います」

味には絶大な自信を持つ平間さん。あとはこの商品力を活かしてどう展開していくか。改革中の営業力・販売力が強化されれば、遠い夢ではないかもしれません。

五光食品株式会社

〒985-0001 宮城県塩竈市新浜町1丁目10-1
自社製品:かき一夜干し、燻製かき、炙りかき、牛たんほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。