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企業紹介第132回千葉県有限会社マルカ加藤水産

「魚は煙を出して焼くのが一番おいしい」を追求する

有限会社マルカ加藤水産(千葉県銚子市)社長の加藤準一さんの朝は早く、午前5時から工場に立っていることもあるといいます。

人手不足の中、自身も労働力だと語る加藤準一さん

「まだ社員は出社していませんが、その日の作業の準備をしています。私自身、朝の準備から夕方の片づけまで、工場内で作業をしています。今日はサンマ、サバ、ホッケの干物をつくっていたところです。自分で買い付けに行くこともありますが、市場にいると待機に時間を取られてしまうので、知り合いに買い付けを頼むことも少なくありません」(有限会社マルカ加藤水産 代表取締役 加藤準一さん、以下「」内同)

マルカ加藤水産は1963(昭和38)年に、現会長の父・輝吉さんが創業。現在の工場は27年前に建て替えたもので、同じ場所で3棟目になります。

「祖父は港の市場で魚を買い付けて、天日干しを作っていました。その後、当社を設立した会長(父)が築地の場外市場で商売をしている親戚から、『サンマの開きを作ったらいいんじゃないか』とアドバイスをもらい、その通りにしたら注文がたくさん来るようになったそうです。2020年はサンマが不漁でしたが、銚子ではキンメ、カマス、メヒカリ、真イカ、サヨリなど、いろいろな魚が水揚げされるので、量は多く出なくても味にこだわって付加価値の高いものを出せるように加工しています」

同社が魚の加工時にこだわっているのは、「水」です。ヤシガラ活性炭で細菌の繁殖を抑え、天然サンゴカルシウムでミネラルバランスを整えた水を、解凍や洗浄、漬け込み、仕上げに至るすべての工程で使用しているのだそうです。

「魚の生臭さがなくなるので、魚が苦手な人でも食べられるという声を聞きます。『ここの魚じゃないと子供が食べてくれない』と言われることもあります」

水にこだわり、一枚一枚丁寧に加工されている

震災後の価格競争に参加せず、守り続けた品質の保持

地元の高校を卒業後、同じ千葉県内の卸売市場で働いていたという加藤さん。その職場で社会人としての基礎を学び、22歳の時に銚子に戻ってきました。

「以前の職場は魚も野菜も扱う市場だったのですが、魚の目利きはしたことがありませんでした。そのため当初は鮮魚の買い付けに行っても、どの魚がいいのかわからなかった。でも地元ということもあって、中学や高校の先輩がいろいろなところにいるんです。魚の目利きも先輩に教えてもらいました。誰かが教えてくれるというのは、地元育ちの強みですね(笑)」

マルカ加藤水産で働き始めてからは、加工品の味付けなども担当。独自色を出していきながらも、同社の根幹である品質へのこだわりは父の輝吉さんから受け継いでいます。しかしそれまで築いてきた販路の一部を、2011年の東日本大震災で失ってしまいました。

「当社の地区では地震による被害は、建物の軽度な損壊にとどまりましたが、原料のホッケを預けていた仙台の冷蔵庫は津波の被害に遭ったために、大きな損失がありました。さらに困ったのは、震災後に東北地方のお客さんが廃業してしまったことです」

震災の年に落ち込んでしまった売上を回復させるべく、加藤さんは周囲に相談して新たな販路を探します。しかし震災による原発事故の風評被害もあり、思うように進みません。そしてやっとのことで売上を半分ほどに戻したところで、今度は原料高という壁にぶつかります。

「うちのような規模の会社は、価格競争では勝てません。実際、値下げできなかったことで、私たちから離れてしまったお客さんもいますが、一方で残ってくれたお客さんもいます。うちの品質を認めてくれて、継続して買ってくれている方も多いのです」

価格競争に参加せず、おいしいものを提案していくというスタンスも、父・輝吉さんから受け継いだものです。

パワーアップした冷凍機が増産・新商品提案に寄与

品質重視のマルカ加藤水産ですが、人手不足解消のための作業の効率化が課題となっていました。そこで加藤さんは販路回復取組支援事業の助成金を活用し、生産量を増やすにあたり、ボトルネックとなっていた部分に新しい機材を導入します。

「支援事業を利用して、新たに冷凍機を導入しました。急速冷凍が可能になったことで、これまで冷凍保管庫として使っていた冷蔵庫を、凍結庫としても使えるようになったんです。サバ、真イカ、カマス、サヨリ、メヒカリなどの水揚げがあった時に買って、その日のうちに凍結しています。加工用原料として在庫を確保できるようになったので、計画的に生産でき、新商品の企画も立てやすくなりました」

新しい冷凍機により冷凍時間が大幅に短縮された
凍結と保管の二役をこなす冷凍庫内

また、同時に導入した温水高圧洗浄機は省人化に役立っています。これまで3人で行っていた清掃作業も、温水高圧洗浄機により1人で行うことが可能に。余った2人分の人員を加工に回せるようになりました。

手作業で行っていた清掃も温水高圧洗浄機で効率的に

人から人へ、口コミで広がってきた自慢の味

2020年のコロナ禍においては、外食産業への流通ルートが狭まり、マルカ加藤水産の売上も下がってしまいました。それでも仕事のペースは変わらなかったといいます。

「逆に家で食べる人が増えて、家庭向けの製品を加工している同業者が忙しくなり、その手伝いをしていたので手が空くことはありませんでした。また、私たちも『おうちごはん応援セット』と銘打って、干物のセットを自社の通販サイトで販売するようにしました。これは応援の気持ちでやっていることなので利益は出ていませんが、知ってもらうきっかけになればいいなと思っています。当社はふるさと納税の返礼品なども、制度が始まった頃から宣伝の機会になればと思い提供しています」

自社の通販サイトで販売されている「おうちごはん応援セット」
サバ、アジ、ホッケ、銀鮭など多彩な魚種が入っている。

マルカ加藤水産の豊富な商品ラインナップは、銚子港に水揚げされる魚が多様であることのほかに、ギフト用として充実していったという経緯もあるそうです。同社は自社サイトでも製品を販売していますが、昔からのお客さんは電話やFAXで注文を送ってきます。毎年決まった時期に、常連さんからお歳暮送付リストも届くそうです。

ギフト商品を伸ばしていきたいと考える加藤さんは、インスタグラムも開始。まだそれほど投稿はできていないと言いますが、これまでもラジオの企画に参加するなど、媒体を選ばずに情報発信をしています。知ってもらって、食べてもらえれば、そのよさがわかってもらえるはずだという自信のあらわれなのでしょう。実際にこれまでも口コミでお客さんが増えていきました。

「最近は『骨がないものがいい』『家で焼かなくて済むものがいい』という話をよく聞きます。でも私は、骨が付いていて、家で煙を出して焼くようなものをつくっていきたいと思います。それが魚のいちばんおいしい食べ方だと思うからです。ニーズが変化していることは知っていますし、新しいことをやっていくことも必要だと思いますが、あくまでうちのメインは、煙を出して食べる魚。これはずっと出し続けるつもりです」

この仕事をやっていていちばん嬉しいのは、お客さんから「おいしかった」と言われた時だという加藤さん。マルカ加藤水産の魚を待つ人たちのために、今日も作業場に立ち続けます。

事務を担当する妹の江美子さんとも息もピッタリ

有限会社マルカ加藤水産

〒288-0068 千葉県銚子市内浜町1848
自社製品:サンマ、サバ、ホッケなど各種干物

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。