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企業紹介第135回千葉県丸仙水産石田商店

鮮度にこだわるからこそ、
美味しくて見た目もきれいな製品ができる

丸仙水産石田商店は、現在、社長を務める石田憲治さんの父である晴司さんによって、昭和40年に九十九里浜にほど近い匝瑳市で創業されました。最初はカタクチイワシの煮干しを製造していましたが、当時、近隣で毎日2,000~3,000tものマイワシが水揚げされていたため、その後は主力をイワシの丸干しに切り替え、以来、50年以上丸干しを作り続けています。

丸仙水産石田商店 社長 石田憲治さん

「煮干しは10~12月の3か月しか仕事ができません。なぜかというと、それ以外の時期のカタクチイワシは脂が乗りすぎていい煮干しができないんです。その点、マイワシは、当時1年のうち9か月くらい毎日のように揚がっていたので、これを原料として使う丸干しイワシであれば、煮干しよりも長い期間、仕事ができます。そこで丸干し製造に切り替えることにしました」(丸仙水産石田商店 社長 石田憲治さん、以下憲治さん)

憲治さんは高校を卒業してすぐに家業を継いだそうです。その間、一貫して丸干しの製造を続けていますが、その製法にはいろいろな変化がありました。

例えば以前は天日干しで製造していましたが、衛生上の観点から20年以上前に完全密閉した工場内での冷風乾燥に切り変えました。また時代の変化にあわせて、塩の分量も減らしています。

「本当は塩が多い方がきれいにできるんですよ。イワシは弱い魚なので、塩を多く使った方がきれいに固まって傷みにくいから。でも、今の時代は、健康を気にする人も多いので、なるべく塩分を控えて甘めに作っています。毎日、製品の味をチェックしているので味には自信があります。自分で言うのもなんだけど、美味しいですよ」(憲治さん)

一方、創業時から変わっていないものもあります。それは鮮度に対するこだわり。
憲治さんは入社した当初から買い付けの際は「一番鮮度が良く、一番高いものを買ってこい」と父親に教えられていたそうです。以来ずっと「一番高いものを真っ先に買う」ことを続けています。製造段階においても、少しでも傷がついている原料ははじいて、きれいな魚だけで製品を作っています。

イワシの丸干し。上が合格品で下がはじかれたもの。
納得のいく製品づくりのため、わずかな傷も妥協しない。

「トラックいっぱいに一番良い原料を買ったら、鮮度の落ちるものを買うより10~15万円は高くつきますよ。でも鮮度が悪いと結局ロスがたくさん出るし、一番鮮度が良い脂の乗っているイワシは、やっぱり甘くて美味しいんですよ」(憲治さん)

良い製品づくりのため、必ず一番いい原料を仕入れる

そうやって製造したイワシの丸干しは好評を博し、震災の前までは15人の社員総出で作業しても「作っても作っても間に合わない」くらいの勢いで売れていたのだそう。

しかし、その流れを変えてしまったのが震災でした。

風評被害でやむなく行った値下げが利益を圧迫し続けた

東日本大震災のあった3月11日、憲治さんは市場で地震に遭遇しました。大きな揺れに驚き、工場に引き返すと従業員はまだ仕事の真っ最中。即刻作業を中止し、皆を避難させたのだそうです。その後、状況判断をするために1人で自宅に残りましたが、電気が止まっていたためTVやラジオからの情報も入らず、電話も通じず、ずっと状況が分からなかったのだそう。

「23時ごろにやっと通じた電話は、近隣の同業者からのものでした。“こっちは津波がひどいが大丈夫か”と聞かれて、初めて近くに津波が来ていることを知りました。ウチの工場は海から300mくらいの場所なので心配しましたが、翌日に見に行ったら、ちょうど冷蔵庫の手前で波が止まっていました。ウチより北も南も波にやられたけど、地形の関係で、このあたりだけ波が来なかったみたいです」(憲治さん)

津波の被害はなかったものの、地震で工場の壁が崩れたり、冷蔵庫の中が割れたりの被害はありました。また海外から来ていた技能実習生のほとんどが帰国してしまいました。

震災から数日後、電気が復旧したころには、残った従業員でなんとか仕事を再開することはできたのだそうですが、その直後から風評被害の影響を受けることとなりました。

「震災の2~3日後から製造を開始しましたが、すぐに“放射能検査をしてください”“水の検査をしてください”など次々に要請されました。銚子港に揚がった原料を使うので、表記としては千葉県産だけど、イワシがとれるのは茨城沖でしょう。だから風評被害が大きかったんです。何度も検査をして、一度も国の基準値を上回ったことはなかったけれど、“千葉県産は使えません”と言われて、それまで何十年も商品を納めていたスーパーとの取引を失ったりもしました」(憲治さん)

風評被害の影響で憲治さんは、「これからどうなるんだろう」「今後も商売を続けていけるのだろうか」と不安な気持ちで毎日を過ごしていたのだそう。そして、販売数量を確保するために値下げに踏み切ります。しかしその値下げが、売上がなかなか回復しない悪循環を生んでしまいました。

「今考えるとガマンして値下げをしなければ良かったなあと思いますが、当時は今まで売れていたものが急に売れなくなって、そういう状況が3~4か月も続いて、値段を下げるしかないと追い込まれてしまったんですよね。でも一度値下げしたものを元の価格に戻すのは難しくて・・・。ウチの製品は食べたら絶対に美味しいんだけど、ウチでしかできない珍しい商品というわけではないし、最終的にはやっぱり安いものが選ばれることも多いんです」(憲治さん)

そして風評被害が収まってからも、値段を下げたままでの取引が常態化してしまいました。新規顧客の開拓のためサンプルを積極的に送るなどの営業努力も重ねましたが、今でも売上は震災前の60%程度に留まったままです。しかも最近は原料が減り、価格も高騰。「一番高い良い原料を買う」ことを貫く丸仙水産石田商店にとっては、ますます利益を確保するのが難しい状況となりました。

新しい設備と、自慢の「良い原料」で、新たな商品の製造を開始

そんな状況を打破しようと、販路回復取組支援事業で導入したのが冷凍機とエアコンです。まず冷凍機は、今までより大量に、速く冷凍できる「馬力のあるもの」。これにより、処理能力が上がり、良い原料が揚がった時に大量に買い付けをすることが可能になりました。また冷凍作業を1度に集中してできるようになったため、その他の作業の効率も上がったのだそうです。

導入した冷凍庫で大量の凍結が可能になった

また、今までは、自社で使用する丸干しイワシ向けの原料を凍結するだけで手一杯でしたが、冷凍能力が上がったことにより、余力が生まれ、現在は佃煮、缶詰に使用するイワシやサバ等の冷凍原料の生産にも取り組んでいます。

「自社で使用する丸干しイワシの原料になる脂の乗ったマイワシが獲れるのは、主に6月~12月。それ以外の脂が少ない1~5月のマイワシは、大きさを選別し、小さいものは佃煮、大きなものは缶詰の原料として加工用の冷凍原料を製造しています。いつもウチで買っているような、良いもの、きれいなものを選別して冷凍するとかなり需要があるんです」(憲治さん)

今年はサバが不漁だったため、イワシを中心に佃煮や缶詰の原料を製造していましたが、原料価格が下がればサバなど他の魚種でも缶詰原料の生産が可能になります。

また、エアコンの設置も作業の効率化に一役買っています。従来は場所によって温度のむらがあったため、作業できる場所が限定的になり、工場内にデッドスペースができていましたが、今回エアコンを導入したことで、場所を効率良く使うことが可能になったのです。さらに、夏場でも工場の温度が一定に保たれるようになり、製品がより傷みにくくなりました。品質が向上することで、丸干しイワシのツヤもより一層増すのだそうです。

新しく導入したエアコンにより工場の温度がむらなく一定に。傷みにくい環境にすることで製品のツヤが増す

若い世代に向け、イワシの健康効果を訴求したい

今までは丸干しイワシ一筋でしたが、今後は佃煮、缶詰の凍結原料を積極的に行い、第2の柱を作っていくと語る憲治さん。また、丸仙水産石田商店には、もう1つ明るい話題がありました。それは娘の恵梨さんと、恵梨さんのご主人の隼太さんが後継者として、自分たちの世代に向けた新しい取り組みをどんどん考え始めていることです。

「今の時代、魚離れなどと言われているし、若い人はあまり丸干しを食べないと思うんです。でもイワシはタンパク質が多く含まれているし、骨ごと食べられるのでカルシウムも豊富です。ウチの丸干しは塩分控えめなので、体にも良いと思っています。もっとイワシや丸干しの健康効果をアピールして若い人にも食べて欲しいんです」(丸仙水産石田商店 専務 石田恵梨さん)

後継者の2人と丸仙水産石田商店で働く技能実習生の皆さん
(一番右端中段が恵梨さん、その後ろにいるのがご主人の隼太さん)
技能実習生の皆さんのことを家族のように大切にしているそう

イワシの健康効果に最初に目を付けたのは、10年以上前から筋トレを続けるご主人の隼太さん。体づくりに欠かせない上質なタンパク質源としてイワシの丸干しを食べているのだそうです。

「最近の筋トレブームでタンパク質の摂取を意識している若い人も多いはず。なぜ、こんな良いものに誰も気づかないのか」と隼太さんは普段からもったいなく思っていたといいます。

現在は、「若者にイワシの丸干しを食べてもらうにはどうすればよいか」を日々ご夫婦で考えています。

「若い人に届きやすいのはインターネットだから、本当はネットでの販売も始めたいんです。イワシは単価が安いので、送料をかけてまで買うのかというところがネックでなかなか現実化が難しいのですが、若い人が食べてくれないとどんどんイワシの丸干しという文化が消えてしまうので、何か手を打ちたいと思っています」(恵梨さん)

後継者の2人は、水産とは無縁の学校を卒業。憲治さんからの働きかけもなかったそうですが、「家業を継がないなんてありえない」と自発的に継ぐことを決めたのだそう。

意欲的な若い世代の「新しい取り組み」と、創業以来変わらない「鮮度へのこだわり」が結びついた時、きっと今までにない付加価値が生まれていくに違いありません。

丸仙水産石田商店

〒289-3181 千葉県匝瑳市野手17132番地
自社製品:イワシ丸干し、イワシ・サバ凍結原料

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。