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企業紹介第170回茨城県株式会社あ印

独自製法でタコ加工のトップランナー、
営業の足をのばして販路拡大

タコの加工が盛んな茨城県ひたちなか市で、タコ、イカ、エビなどの水産加工業を営む「あ印」。その社名の由来は、現社長・鯉沼勝久さんの曽祖父でもある創業者・鯉沼兵介さんが使用していた屋号にあります。

「1887年(明治20年)の創業当時、鮮魚出荷やかつお節加工などを営んでいた兵介さんが、出荷用の木箱に屋号『あめ屋』の頭文字“あ”を焼印として押しており、自身の小型船にも『あ印丸』と名付けたそうです。そんな経緯から、兵介さんの息子・兵之介さんが、1957年(昭和32年)の会社設立時に社名を『あ印水産』としたのが始まりです」(株式会社あ印 営業部 部長 来栖圭一さん、以下「」内同)
※平成19年に社名を現在の『株式会社あ印』に変更

株式会社あ印 営業部 部長 来栖圭一さん

戦後、マグロの買い付けと販売で全国に販路を拡大していたあ印は、やがてタコを中心とした水産加工業者へと転換します。

「ひたちなか市はタコ加工の長い歴史があり、現在はタコ加工日本一の街を謳っています。当社は常磐地区でマダコが取れ始めた1950年(昭和25年)からタコのボイル加工に着手しました。1963年には常磐地区で初めて西アフリカ産のタコを冷凍輸入して加工を開始し、1970年に先代の勝一が社長に就任してからは、さらに輸入タコの加工を発展させ、メイン商材となるまでに成長させました」

昭和38 年頃のボイルダコ製造の様子

あ印は良い原料選びに力を入れていますが、そのおいしさを最大限に活かすため、加工法も大きく進化させました。これまでボイル加工時にどうしても湯に溶け出してしまっていたうま味を最小限にできないかと考えたのです。そうして何年にもわたり研究を重ね、2014年に誕生したのは、茹でることなく、蒸しのみで加熱するこだわりの「うま味凝縮製法」です。

「一般的な製法では、タコを乾いた蒸気で蒸してから茹でるのですが、その際には皮むけ防止のためにミョウバンなどの添加物も使用します。当社の製法では茹でる工程がなく、湯気による蒸し加工のみで加熱するため、タコ本来のうま味、あま味をぎゅっと閉じ込めることができます。食品添加物も不要です」

ソフトスチーマーを使った「うま味凝縮製法」で蒸し上げられたタコ。
ボイルをしたものに比べ、ふっくらと甘みのある仕上がりになる

あ印の蒸しダコは、ぷりぷりとした食感と、タコ本来の味を楽しめるのが特徴。原料は主にアフリカ産のタコを使用していますが、近年は、世界的にもタコの価格が高騰していることから、蓄積されたノウハウを活かして、これまで皮が硬いために日本では成功事例のなかったインドネシア産のタコ加工も行っています。安価なインドネシア産のタコも加わったことで、販売先側の選択肢も増えました。

震災で輸出がゼロに。売上回復を支えたのは新しい惣菜工場

東日本大震災では、地震による建物の損傷や停電などにより2週間ほど稼働がストップしたものの、津波による直接的な被害はなかったあ印。しかし、当時活発だった輸出が一時ゼロになり、国内向けも風評被害でその年の売上が2割ほど落ちるなど、中長期的にはその影響を受け続けました。

「稼働がストップし、商品の供給ができない間に、従来のお客さんが、他社との取引を始めて、そのままうちに戻ってこなかったというケースも少なくありませんでした」

販路を一部失ったものの、2014年にはHACCP対応の惣菜工場が完成し、そこから本格的に巻き返しが始まります。最新の機械により作業効率が上がり、主力のタコだけでなく、イカ、エビの加工品の生産量も増えました。

新しい惣菜工場の完成により増産体制が整った

惣菜工場ができたことで惣菜の商品開発が進み、2015年には新たに「海の食堂」ブランドが立ち上がりました。「ひとくち酢たこ」「タコのバジルマリネ」「エビのマヨサラダ」など、ラインナップを少しずつ増やし、おいしいだけでなく、簡単、便利に食べられる冷蔵品として人気を博しています。

封を切ればすぐに食べられる「海の食堂」シリーズ

水産庁長官賞や農林水産大臣賞を受賞するなど、品質にはもともと高い評価を受けていたあ印ですが、商品開発に際しては外部のフードコーディネーターやレストランシェフも招くなどして、おいしさにさらに磨きをかけています。

そうした積み重ねがあったからか、コロナ禍においても全体の売上は落とすことはありませんでした。

「コロナ禍では、レストランと居酒屋向けの製品は売上が落ちましたが、量販店向けのものは売上が伸びました。タコ、イカ、エビ以外の商材も取り扱いを始め、商品のバリエーションを増やしています」

震災後、一時はゼロになった輸出も、近年は北米やオーストラリア向けが好調。あ印のロングセラー商品「味一番 中華いか山菜」はアメリカでも人気のようです。

蒸したイカに山菜としょうがを加えて味付け。農林水産大臣賞も受賞

商談会は1回でもメリット、継続参加でさらに大きなメリット

あ印はさらなる販路拡大のために、コロナ禍でも営業活動を活発化させます。2021、22年には、復興水産加工業販路回復促進センターが実施する「復興水産加工業等販路回復促進指導事業」で実施している「消費地商談会」を利用して九州まで足を延ばし、『FOOD STYLE Kyushu』に2年連続で参加しました。

「これまでも大型の商談会には出展していましたが、続けて出ることに意味があるのだなと再認識しました。1回出ただけでも、うちの商品を知ってもらえたり、その地域で影響力のある商社さんを知ることができたりと、メリットはありました。ただ2回続けて出ると、1回目に様子見していたお客さんがまた来てくれて、すんなりと商談まで話が進むことも珍しくないのです」

「FOOD STYLE Kyushu 2021」に出展したときの様子

実際に参加することにより、地域による特徴や商習慣など学ぶことも多いといいます。今後も商談会のメリットを生かしつつ、販路拡大を進めていきます。

商談会には、常時開発している新商品も持参しています。この場が新商品アピールの場となると同時に、バイヤーなどからダイレクトに意見をもらう場にもなっているようです。

「たとえばソースイカという商品があるのですが、お客さんによっては『おいしいけれど、ぱっと見ではどういう商品なのか、どこのコーナーに置いたらいいか分からない』と言われるケースもありました。そこでトレーパックにして、お好み焼きの様にマヨネーズと青のりをかけて出してみたところ、どう食べるのかが一目で想像しやすくなり、惣菜コーナーですぐ採用されました」

通常販売している「ソースいか」を味や食べ方が想像しやすいようにお好み焼き風にアレンジ

地産地消をベースに新商品で販路拡大

代表取締役社長の鯉沼勝久さんはひたちなか商工会議所の「タコの街特別委員会」委員長も務めるなど、タコの食文化を広める活動にも積極的です。あ印では、地元の小学生を対象に、茹でダコ体験や紙芝居などを盛り込んだ「たこ教室」も開いています。子どもたちは生の状態のタコが茹でられてだんだんと丸まって赤くなるのを興味深く観察するのだとか。

「たこ教室」の様子(コロナ禍のため現在は休止中)

今後もタコ加工が主軸となる同社ですが、タコは原料高が続く状況。新しい産地、新しい魚種の開拓が、売り上げ拡大のカギを握ります。

「タコだけでは厳しい時代。地産地消をベースに広げていきたいですね。農業も盛んな地域なので、地元野菜を使った惣菜も増やしていけたらと思います」

そのためのベースとなるのは人材。水産加工業者の多くは今、人手不足に悩まされていますが、あ印は従業員の定着率も高いといいます。

「機械化による効率化が進んで働き方も変わってきたので、昔よりも休日が増え、残業は減りました。工場内にはまだ機械を入れられるスペースがあるので、効率化を今よりも進めていくことも可能です」

あ印では毎月3品の新商品開発を目標にしていますが、実際には月に1品できるかどうか。時間がかかるのは、プロダクトアウトではなくマーケットインで要望や意見を拾い上げながら開発しているからでもあります。

一方で、一旦商品ができれば、量産する体制も整えています。長い歴史と独自の製法。他社にない強みを生かして、販路拡大のスピードを加速させます。

株式会社あ印

〒311-1211 茨城県ひたちなか市沢メキ1110-9
自社製品:タコ加工品、イカ加工品 ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。