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企業紹介第179回千葉県合資会社杉山商店

社員全員、同じ意識で向きあう 商品力への自信

日本でも有数の水揚げ量を誇る銚子港のほど近くにある合資会社杉山商店。イワシ、サバ、アジなどの鮮魚の選別、缶詰原料となる冷凍イワシや冷凍サバ製品などの加工を手掛けています。

現在、代表社員を務める杉山 武重(たけしげ)さんの祖父・元吉(もときち)さんが大正期に個人商店として創業し、当初は地元で揚がるイワシを使った煮干しの製造を行っていました。その後、父・武夫さんに代替わりし、昭和28年(1953年)に合資会社杉山商店として法人化。このころはサバの文化干しや青切りなどの加工が中心だったそうです。その後、平成2年(1990年)に武重さんが3代目を継ぎました。

武重さんは銚子港に仕入れにくる加工業者の中でも、2、3番目の年長者となる大ベテラン。その日に揚がったさまざまな魚種の鮮度、脂の乗りなどを見極め、顧客のニーズに合った商品にするために現場に指示を出す司令塔です。

「当社は、お客さんから缶詰原料や加工用の原料、ほかにも養殖のエサなどさまざまな用途の注文があります。用途ごとにサイズの大きいもの、小さいもの、脂の乗りなどそれぞれ異なりますので、そうした細かいニーズに合わせた魚の仕入れと選別が、商品の良し悪しを左右します」と武重さん。

杉山商店代表の杉山武重さん

社長を支えるのは、武重さんの妻、百合子さん、長女の杉山明子さん、次女の飯倉陽子さんと夫の浩孝さん、三女の杉山景子さんら16人の従業員。明子さんら全従業員が、その指示を的確に把握して商品加工の現場に立ちます。

「大きな規模の会社、工場ですとサバならサバ、イワシならイワシをずっと扱う所も多いですが、当社はその日に揚がったさまざまな魚種を扱います。どうしたら仕入れた魚を活かせるか、試行錯誤しながら日々変化があるところが、自分がこの仕事に向いているなと思う点ですね」と話すのは、大学卒業後家業に入り今年で23年目、将来は会社を継ぐことを決めている明子さんです。

代表補佐を務める杉山明子さん

取材に伺った9月上旬は、時期的に魚の水揚げが少なく、電気代削減のための冷凍庫の防熱工事をおこなっていたという明子さん。武重さん、明子さんはじめ同社の4人が冷凍設備の保安業務を行う国家資格・冷凍機械責任者の資格を持ち、閑散期には工場の整備にあたっていると言います。

同社では、以前国内での販売が多くを占めていましたが、2005年頃、大口顧客の倒産などを機に海外輸出に方向転換を図りました。商社を通じてタイやアラブ諸国などに向けた輸出に力を入れ輸出業が軌道に乗った矢先の2011年3月、東日本大震災に見舞われたのです。

選別作業機械化のアップデートで人にしかできない作業に注力

高台に位置する同社は津波による浸水被害はなかったものの、大きな揺れで建物の一部に亀裂が入りました。さらに原発事故による影響で、関西方面の取引、海外への輸出が減退、売上は震災前の3割減となったのです。

減少した売上を回復するため、新たな輸出先の開拓にするにあたり、国ごとに異なる輸出施設登録を新たに取得し、インドネシアやベトナムへの輸出も図ってきました。しかし、これまで必須ではなかった産地証明書や放射性物質検査報告書などの準備も必要となり、人手不足の中、さらに事務作業が増加。生産量を増やそうにも人員が限られいる中では難しく、震災前の水準に売上を戻すためには、作業の効率化を図る必要がありました。

そこで、杉山商店ではボトルネックとなっている3つの工程を洗い出し、販路回復取組支援事業の助成金を活用し機械化を行いました。

課題となっていた工程の1つ目は、パレットに積み重ねられた空パンを、必要に応じて1枚ずつ供給する工程。ここには自動空パン器を導入しました。

「従来も同じ工程で使用していた機械はあったのですが、2枚重なった状態のままコンベアに流れてしまったり、逆にパンが落ちないまま進んでしまって、そのまま何もないところに原料が投下されることもありました。そのため、作業者がつきっきりで確認しなくてはならず、問題が起これば毎回ラインを止めて対応していました。その点新しく導入した機械では、確実に1枚ずつ落ちるので、ラインが止まることもなくなりました」

自動空パン器。しっかりとした爪で1枚、3.5㎏のパンを押さえつつ、1枚ずつ供給する

2つ目は、原料の入った冷凍パンを積み上げる工程。ここでは、自動で流れてくる原料入りの冷凍パンの上に、桟木(さんぎ)という木材を置いて隙間を作り、凍結庫に入れた際に冷気を通しやすくします。この作業を何度か繰り返し、パレットの上に一定の高さまで積み上げていきます。

従来の設備では、この冷凍パンが積みあがる位置が2階相当の高い場所にあり、はしごを上った高いところで作業しなくてはなりませんでした。また、一定の時間間隔で次の冷凍パンが流れてきてしまうので、冷凍パンの位置がずれていてもそのまま自動で次の分が流れてきてしまい、バランスが悪いまま積みあがるため、倒れてしまう危険もありました。

そのため、安全面からもぜひ改善したかったと明子さんはじめ、陽子さん、景子さんは口を揃えます。この工程には新たに自動生積機(パレオート)を導入しました。

「今回導入した機器はパンが積み上がると自動でパレットが地下に下がっていくため、作業者は地上と同じ高さで作業できるようになりました。また、ボタンを押すと次のパンが流れてくる仕組みため、パンが真っ直ぐ並んでいるか確認してから次のパンを積み上げることができるようになって、途中で倒れてしまうこともなくなって安全性が増したんです。パンを積み上げる場所も2か所に増えたので、もし一方で問題が起きてもラインを止めずに作業を続けられるようになりました」

自動生積機。下にパレットが下がっていくため定位置で作業ができるように。パレットが崩れラインをストップさせることもなくなった

3つ目は重量計測の工程。従来はコンベアを流れてくる生原料が入ったパンを適宜引き抜いて、いわば抜き打ちで計量し、規定より少ない分量にならないように調整をするという状態でした。

しかも何も入っていない状態のパンだけでも3.5㎏あり、原料が入ると20㎏近い重さになるため、計量するのもかなりの重労働となっていたのです。

そこで、この工程に再計量コンベアを導入し、コンベアにパンが載ったままの状態ですべてのパンが自動計量できるように改善。基準を外れる重量の場合はランプで知らせてくれるため、手で持ち上げる労力が無くなり、作業負担がかなり軽減されました。

自動生積機再計量コンベア。赤、緑、黄色のランプが点いて重量不足などが一目瞭然にわかる

これらの機械導入の結果、1時間当たりの生産量で比較すると、これまで3名の作業者で660ケースを製造していたものが、機械導入後は2名で900ケース製造できるようになりました。

「社員からも作業が楽になった、負担が減ったという声が上がっています。なによりここで生まれた余剰人力を、当社のウリでもある検品作業にあてることができた点が大きいです」(明子さん)

同社では、以前から選別作業の工程に別途コンベアを追加して、傷がないか、他の魚の混入はないかを人の目でチェックし省いていく検品作業に注力していました。

「検品では傷があって使用できない原料をこちらで極力除いています。そのため、同じ10㎏の冷凍原料でも、お客さんのところで原料として使用できる正味量が他社よりも多く、私たちの製品を選んでもらいやすくなっています。当社ではこの作業を最終の検品の工程だけではなく、各工程にたずさわる全社員が行うことで、二重、三重の目でチェックする体制を作っています。機械にはできない作業に人力を充てられたので、検品の精度をあげることができました」(明子さん)

さらに、今回導入した新規ラインは魚に触れる部分が総ステンレス製。従来は鉄製だったため、潮風による錆などの異物混入が発生することがありましたが、現在はその心配もなくなり、近年ますます厳しくなっている輸出製品の品質向上にもつながりました。

全社員が同じ意識で商品と顧客に向き合う

杉山商店には、商社のバイヤーをはじめ、末端の販売先などさまざまな顧客が、連日絶えることなく買い付けと見学にやってきます。その際に杉山商店の社員が一緒について案内することはなく、訪れた営業担当者は自由に工場での作業をチェックするそうです。計量器を持参し、原料を計り、鮮度や品質を確認するなど、その目は非常に厳格です。

「お客さんも銚子で揚がる魚のことを熟知されている方たちですので、シビアではあるのですが、直接お話できることで、具体的な用途や仕様を聞けて、『それなら◯月◯日に揚がったイワシはいかがですか?』とか、『○○の船が獲ったサバがあります』など、こちらから提案することもできます」(明子さん)

今回導入した機械についても、工場を訪れたお客さんに対して、品質管理の大きなアピールポイントとなっており、これをきっかけとして一時疎遠になっていた販売先とも取引が再開したそうです。 

さらに特筆に値するのは、同社の全社員が日々工場を訪れる営業担当者と、商品についてやり取りをしていることです。

「お客さんが自由に見学されていくので、どの社員が商品について尋ねられても同じ対応ができるようにと思っています。そのためにということもありますが、だれかが急な事情で欠けても作業が滞らないように期間ごとに配置換えをするなど、全員がどこの工程に入っても品質の担保ができるようにしています」(明子さん)

従業員は全員正社員として雇用している同社。同じ意識で商品と顧客に向きあう。これも大きな強みと言えるのでしょう。

「社員みんな、本当に仲が良くて。みんなで釣りに行ったり、野球をしたりしています(笑)。みんなで一緒に作業をしてみんな一緒に帰る、これがウチの基本。だからこそ作業のなかで改善できる点も共有しやすく、結果的に商品への理解や同じ意識をもつことにもつながっているのかもしれません」(明子さん)

次期社長としてさらなる働く環境への改善を考えているという明子さん。

「今後も、力のある人にしかできない工程を機械化したいと考えています。それができれば体力のない方や女性でも、安全に体への負担なく仕事をしてもらえますし、品質の高さ、顧客のニーズにきめ細かく応える当社の強みをもっと生かせるのではと思っています」(明子さん)

社員の平均年齢は30代前半という杉山商店。社員全員が同じ意識で商品と仕事への誇りをもって働いている。明るい高台に建ち、風がよく通るこの工場で、未来の水産加工業への光を感じました。

現場に立つ明子さん。杉山商店では女性従業員のフォークリフト免許の保有率も高い。若い人材の新規雇用も増えており、経験問わず活躍できる環境が整いつつある

合資会社杉山商店

〒288-0002 千葉県銚子市明神町1-75
自社製品:イワシ、サバ、アジなどの鮮魚の選別、冷凍加工 等

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。