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セミナーレポート「第2部 東日本大震災被災地域の水産加工品を海外に売り込め!販路回復・開拓パネルディスカッション」

コーディネーター:
株式会社バイヤーズ・ガイド
代表取締役社長
永瀬 正彦
パネラー:
日本貿易振興機構(ジェトロ)地域統括センター長(東北)兼
仙台貿易情報センター所長
長谷部 雅也
「SANRIKUブランド水産物輸出プロジェクトチーム」会長
(株式会社阿部長商店 代表取締役)
阿部 泰浩
パネラー:
石巻復興水産加工品「日高見の国」輸出グループ幹事会社
(末永海産株式会社 代表取締役社長)
末永 寛太
株式会社電通ビジネス・クリエーションセンター
エグゼクティブ・ディレクター
金井 毅

海外展開を考える前に、現地の状況について

永瀬氏:日本国内は「少子高齢化」、「人口減少」など消費量低下の要素が多くある中、規制緩和により、安価な輸入品が多く入って来て、食品メーカーにとっては厳しい状況にあります。そういった中で、国外に目を向けて商売を考えたときに、現地の実際の状況はどうなのでしょうか?

金井氏:弊社で行った「ジャパンブランド調査2016」においてタイ・ベトナム・フィリピン・シンガポール・マレーシア等のアジアの国々が特に日本のことを好きであるという結果が出ました。
そういったアジアの国々でも日本料理店がかなり浸透してきていますが、家庭料理として日本食が出るまでには至っていないため、小売ではなく外食向けの提案のほうが可能性として大きいと思われます。
中国ではコンビニで日本のおでんが買えるのですが、そのつゆには八角が入っており、より現地の方が好む味にし、進化させています。より多くの人に買っていただくためにはこういった努力も必要です。

パネラー 金井 毅 氏

長谷部氏:今年の9月まで3年ほどシンガポールのJETROで所長をしていたのですが、ASEAN諸国は景気が悪い中でも日本食レストランが増えています。しかし、需要が増え、たくさんの商談会が開かれた結果、供給が急増し、以前ほど新規参入しやすい状況ではありません。今後の活路としては日系のレストランだけでなく、いかにローカルなレストランに売り込んでいくかだと思われます。水産品の需要も増えていますが、高級店は自分で築地から仕入れているというところも多いです。現地での営業をインポーター頼みにしていてはなかなかアピール出来ませんので、ハードルが高く感じられるかもしれませんが、実際に現地に売り込みに行くのも手です。不安でしたらJETROの支援をぜひ活用して下さい。

パネラー 長谷部 雅也 氏

実際の取り組みについて

永瀬氏:実際に輸出の取り組みをされている企業の方々に取組内容や、苦労をした点などを教えてください。

阿部氏:10年ほど前、さんまの国内需要としては10万トン程度のところ、25万トンもの漁獲があり、大漁貧乏の状態になっていました。この時に「日本のさんまを海外に売りたい」と思ったのが始まりです。まずは、当時さんまを食べる文化のあったロシアに出向き、缶詰工場などへ飛び込みで営業を行い、2年ほど現地へ通い続け、信頼できるパートナーを見つけることが出来ました。それからは年間5~6千トンほどを売り上げていましたが、震災後は国内の販路も戻らず、また規制がかかり輸出も出来ず、とにかく売れるところに売っていくしかないという状況でした。そんな時に目を向けたのが東南アジアです。
この地域では、付加価値を付けた製品を主に販売していますが、原料と違って1社ではなかなかコンテナがいっぱいになるほどロットがまとまらないため、県の垣根を越え、「三陸」として青森・岩手・宮城の企業が協力して取り組んでいます。現在は国内と同じ仕様で製造していますが、今後は現地の趣向に合わせて変えていく予定です。海外の販路開拓は人頼みでは出来ず本当に難しいです。さらに近年、国内の原料が値上がり傾向であり、為替の変動も大きく、値上げの話をしなくてはいけない場面が多くあります。先方は安定した価格で販売したい思いがあるため、その理解を求めるのに苦労しています。

パネラー 阿部 泰浩 氏

輸出拡大モデル事業(復興庁)、JAPANブランド育成支援事業(経産省)等を活用

  • 取組①「SANRIKU」ブランドの策定
  • 取組②海外販路開拓活動の展開
    ・海外での試食商談会(フィリピン、タイ、シンガポール等)
    ・海外バイヤー(フィリピン、タイ)の産地招聘(工場視察、産地での商談)
  • 取組③海外量販店等における販促活動の展開
    ・SANRIKUブランドコーナー展開(フィリピン)
    ・スーパー等でのプロモーション活動(フィリピン)
  • 取組④「株式会社三陸コーポレーション」の設立
SANRIKUロゴマーク

末永氏:震災を機にゼロからのスタートとなり、国内の市場は成長が望めないと感じ、「輸出」を始めました。もともと立ち上げていた「日高見の国」というブランドで海外へも売り出すことにしました。当初は何のつてもマニュアルもなく、出展した展示会では「おいしいね」という評価をいただくだけで終わっていました。そういったことを何度も繰り返し、何とか契約を取り付け香港・台湾向けの「殻付きカキ」から輸出をスタート。「殻付きカキ」はアメリカ・オーストラリアからも安価なものが入ってきており、その地域との差別化のために、背景にあるストーリーをきっちり説明し、価値を理解していただくことに注力しました。
これは、補助があるからできることなのですが、香港・タイなどのバイヤーに産地まで来てもらい、生産現場を実際に見ていただきました。海外のニーズを生産者と一緒に直接聞くことが出来るため、商品づくりがスムーズに進みました。併せて、観光にも力を入れていきたいので、景色を見て、釣りをして、美味しいものを食べて三陸という地域の良さを感じていただきました。
また、日本製品だから、海外向けだからといって高く売れるといったことは全くありません。常に価格競争の場でもあります。特に運賃コストは大きな問題です。今は補助があるのですが、小口の場合、船便だとコンテナに混載になるため、現地でその商品がどのような扱いになるのか分からなくなる可能性もあります。さらに、航空便だとかなり割高です。今後こういったコストについてどうするかも考えなくてはいけません。輸出事業において企業単体では弱いと思います。現地に赴きバイヤーと継続的なコミュニケーションを続け、信頼を築くためにもJETROの支援や補助事業の活用はかなり重要です。

パネラー 末永 寛太 氏

輸出拡大モデル事業(復興庁)、JAPANブランド育成支援事業(経産省)等を活用

三陸ブランドの確立について

永瀬氏:今後、三陸ブランドを広めていくためには何が必要だと思われますか?

金井氏:まずは本腰を据えて取り組むという姿勢を見せることが大事だと思います。ブランド力のある北海道も何十年もの時間をかけ、海外に向けてアピールを続けているのです。日本国内でも分からない人が多い「三陸」についてPRしていくためには、スマートフォンにどう情報を発信していくかということも大きいのではないでしょうか。調理や食べている動画(日本語でしゃべって、訳のテロップを入れる)なども有効だと思います。商品にまつわるストーリーや食べ方などアピールしていくことが大事です。また、日本に観光に来た外国の方は見たものや食べたものをSNSを通じて世界に発信してくれます。言わば日本のPRマンとなってくれるのです。そして投稿を見て興味を持った人がさらに現地に訪れるという流れが生まれます。観光と食は表裏一体。体験プログラムや食を地域ぐるみで提供していくことが大切です。また、とにかく食べさせるのも手です。例えば干し柿を海外の人に食べさせると「ジューシーなドライフルーツ」という評価だったりします。こういった反応が見せ方の展開につながるヒントになることもあると思います。
また、個々の製品の価値について棚卸しを出来ていない企業が多い気がします。チャンスを活かすためにも何が自分たちの取柄なのかしっかり把握すべきです。
(「製品の価値の棚卸し」について関連記事はこちら

長谷部氏:地域からすぐに海産物を連想させるようなブランド作りが必要だと思います。キーワードは「広域連携」と「双方向」。三陸は複数の地域で連携できるところが他にはない強みです。
双方向とはインバウンドとアウトバウンドを有効的にやっていくこと。三陸のブランド化を加速させるためには、産業観光の視点が大事です。バイヤーだけでなく、現地のジャーナリストマスコミを呼んで体験型イベントを行い、現地に帰ってどんどん報道してもらうのも一つの手だと思います。それに加え大学間の連携、文化・人的交流も含め双方向でやっていかないとなかなかブランド価値は向上していきません。現在この方式でやってブランドとして成功しているのは、佐賀の有田焼、新潟の燕三条、産業観光の方式を取り入れることで、産官学で連携が続いています。三陸でもやっていただきたいと思います。

まとめ

永瀬氏:「奪う合えば足りない、分け合えば余る」という相田みつをさんの言葉があります。震災前は企業間でライバル視して、シェアを取り合っていたと思いますが、震災を機に、点でなく面で展開し、広域連携をとることにより、三陸ブランドとしてマーケットを海外で取っていくことが出来れば、一社一社で分け合えるような規模になっていくのではないでしょうか。ぜひ「三陸」を国内外に向けどんどんアピールをしていってもらいたいと思います。今後輸出をお考えの方がいらっしゃれば、とにかく現地に行ってみることです。マーケットの流れは速いので、いつかやろうと思っている間にどんどん出遅れてしまいます。まずは情報収集のためJETROに相談したり、関連した補助事業が出ていることもありますので、それらを活用することをお勧めします。

コーディネーター 永瀬 正彦 氏

※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。