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セミナーレポート 「東北復興水産加工品展示商談会2023」

セミナーレポート③ 海外輸出ノウハウ・水産コーシャ(ユダヤ教徒)
欧米輸出・インドネシアBPJPHハラル認証セミナー

 東北復興水産加工品展示商談会2023(9 月26 日・郡山)において、近隣諸国に頼らない水産品の輸出戦略セミナーとして、コーシャ(ユダヤ教)、ハラル認証(イスラム教)等を紹介、またそのための体制づくりについて、現状やノウハウが語られました。

第1部 コーシャの基礎

コーシャジャパン株式会社
代表取締役社長
ラビ・ビンヨミン・Y・エデリー

 私はユダヤ教の中でももっとも敬虔で戒律が厳しいといわれる超正統派、ハバッド・ルバビッチ派のラビ(宗教指導者)です。1999 年に夫人とともに来日以後、日本に在住しています。ユダヤ教にはアルコールの禁忌がなく、日本酒も大好きです。
 東日本大震災では救援物資として焼き芋の配布活動をおこなったり、イベントを企画したりする等、被災地支援のために奔走しました。
 ユダヤ教ではコーシャという食べ物に関する定めがあり、その規則に則った食材や調理方法を守って生活しています。コーシャジャパン株式会社はこのコーシャの日本初の認定機関です。
 認証を取得するにはクリアすべき点はありますが、自然食品を使用する日本の伝統食品等は条件さえそろっていれば認定取得までの期間が短い場合も多いので、ぜひご検討ください。

コーシャジャパン株式会社
秘書兼マーケティング担当
上田 匡将
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〈ユダヤ教について〉

 ユダヤ教は唯一絶対にして万物の創造主の神様がいると考える宗教です。自由意志を尊重し、無理に布教はしません。神様は一つなのでルールも一つで、ユダヤ教の戒律はラビでないときちんとした解釈はできず、そのため、ケースごとの判断にも関わります。

〈コーシャとは〉

 コーシャは「適したもの」という意味をもつユダヤ教の食事の戒律で、近代的な完全衛生基準とは独立した考え方です。イスラム教がハラル、ユダヤ教がコーシャ。ハラルはアルコールがダメですがユダヤは問題ありません。
 原料まで遡ってすべてコーシャでなくてはいけないのが特徴で、認定では原料メーカーまで視察に行く場合があり、また、使用する加工機器にも戒律に則っている必要があります。
 2011 年には獺祭(旭酒造)が自社製品の差別化のためや、ユダヤ人が大勢いるアメリカ市場獲得のためにコーシャ認証を取得しました。コーシャ認証があることで、世界中のユダヤ人ネットワークに発信できるほか、世界の人々にも、長期安定な規定で、しっかり監督された安心・安全な食品であることが認識されるといったメリットもあります。

〈3つのカテゴリー〉

 コーシャには3 つのカテゴリーがあります。
 肉と乳を混ぜてはいけないのが基本で、肉、乳、そして肉もミルクも関係ないカテゴリーのパルヴェがあります。調理機器も同じで、肉もミルクも使う場合は2 セット必要となり、包丁等も、何に触れたかが関わるので要チェックです。

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 魚は基本的には鱗とヒレがあればコーシャです。コーシャでないのは虫で、寄生虫が入ってない養殖魚が理想ですが、表面に寄生虫が出ていなければ問題ありません。厄介なのは加熱調理品で、加熱されたその日にラビが確認(審査)しなければなりません。

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〈コーシャ承認取得について〉

 視察はラビが赴き、社会科見学のように全工程を案内していただきます。
 コーシャジャパンの場合、申請は無料で、その後に工場視察等が必要になる場合は経費がかかります。最短1 ヶ月で認証が取得でき、製造工程の変更が必要だと期間が延びます。

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 その他、弊社では、ケータリングやコーシャ品の販売や、ユダヤ人のお客様向けにホテルや伝統工芸品に関するサービスを提供しています。また、全世界へのコーシャ製品供給を支援しています。
これらコーシャ・ユダヤのトータルサポートを行っておりますので、皆様のお役に立てることを願っています。

第2部 海外輸出の基礎と実際 の応用スキルについて

株式会社ノーパット
代表取締役社長
久保 勇太

〈株式会社ノーパットの取り組み〉

 弊社は、国際輸送手配、翻訳、商社機能等世界に目を向けた企業様へサービスを提供する会社で、2023 年5月から、“海外営業部ドットコム”というサービスの展開を開始しました。このサービスは簡単に言えば、「海外営業部門のアウトソーシング」で、企業の皆様の海外展開における様々なハードルを越える手助けをしています。

〈海外進出における課題〉

 これまで私たちが行った取り組みの中で多く寄せられた海外進出において課題となる事項についてお話いたします。

  • 1、言語の問題  ジェトロ等はいいバイヤーを紹介してくれますが、その後は自社努力が必要です。もし魅力的なオファーがあったとしても、自社で対応できる人材がいなければ、言語的な対応ができないと話はそこで終わってしまいます。

  • 2、海外からのメールの管理  海外からのメールでの問い合わせは、重要なビジネスチャンスです。ほとんどの企業様は、このようなメールをスパムメールとして処理しまいがちですが、このようなメールの対応がスムーズに対応できるとビジネスの展望を広げることができます。スパムだと思っていた案件が実は大口の取引につながった事例もあります。

  • 3、展示会で知り合った海外の取引先への対応  展示会等でせっかく名刺交換しても、海外というだけで腰が引けてしまう方も多いかと思います。しかし、日本のバイヤーと同様、適切な対応をすることで、3 分の1 から2 分の1は返信があり、見積もりが欲しい、もう一度、話を聞きたいといったことに発展する場合がありますので、海外展開したいと思っている企業様は、対応いただく努力をしていただきたいと思います。

  • 4、問い合わせフォームの見直し  海外の方が日本の製品を調べる方法は実はとてもシンプルで、Google、検索エンジン、SNS 等です。そこで興味を持つと、ホームページを見て翻訳ツールを使い解読して見ています。しかし、そんな海外の方が、問い合わせたくてもできないフォームの企業も見受けられます。その際に、海外の方が入力できるフォームを作っておくと、海外の方が安心してアクセスできることとなり、商談の幅が広がります。

  • 5、海外向けの英語カタログ  海外からの問い合わせを受けて、次に必要なのが英語のカタログです。今は、簡単に作れるようなシステムがあります。商品の詳細情報を英語で記載する必要がありません。貴社の商品ページへユーザーを誘導してGoogle 翻訳等の翻訳ツールで読み理解いただく仕組みです。そのため、英語が苦手な方にも簡単にご利用いただいております。

〈海外進出における課題解決に向けたサービスの提供〉

 弊社では、海外進出を考える企業の皆様をサポートするサービスを各種取り揃えております。
 言語的な対応が難しくても、各国の企業と日本のメーカーのミーティングに、ネイティブのスタッフが通訳として同席しフォローいたします。必要な書類の作成やノウハウのレクチャー等も全て対応します。
 また、展示会等で海外バイヤーと名刺交換したら、弊社に写真を送っていただければ、御社の代わりにお礼メールを送ります。
 このほか、ホームページの多言語化も無料。今あるホームページに、各国語のバナーを出すことでページビューを増やし、問合せにつなげます。海外輸出に不可欠な英語のカタログも、WEB 上での展開を提案。メーカーサイトに飛ばし、そこにSNS やポジティブな記事を載せることで信用をアップさせます。
 ハラルやコーシャのお話がありましたが、弊社のようなサービスを活用すれば出ていける国が増えると思います。

第3部

インドネシアハラル認証について
一般社団法人ハラル・ジャパン協会
代表理事
佐久間 朋宏

〈ハラル認証について〉

 ハラル認証は、イスラム教の教えに合致した食品や製品であることを証明する国際的な認証で、イスラム教の国への進出時には必要です。イスラム教の国は50 カ国以上で世界人口の約1/4 を占めます。その中にはハラル認証のいらない国もあり、必要な国もあります。
 コーシャはアメリカ、EU が中心、ハラルはシンガポールとマレーシア、インドネシア、一部中東等のアジアがメインの地域となっています。特に東南アジア諸国は、ハラル市場が拡大、認証商品への需要が高まり、日本からの輸出品にも求められています。そこにアクセスするには認証取得が不可欠です。

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 ムスリム(イスラム教徒)にとって安心のマークであるハラル認証を行う団体は、世界で300を超えます。国際認証ではありますが、世界統一基準がないため、どの団体の認証であるのか選択が大切です。

BPJPHハラル認証について
一般社団法人ハラル・ジャパン協会
インドネシア支部
BPJPHスーパーバイザー
リナステアリングルーム

〈インドネシアやハラルの基礎知識〉

  • インドネシアについて

     人口は約2億7300万人で87%がイスラム教徒です。暑い国なので甘いものや辛いものが好まれますが、納豆やラーメン、刺身等、日本の食べ物も人気です。

  • ハラルについて

     「ハラル」は許可されているもの、「ハラム」は禁じられているもののこと。その中間のものが「シュブハ」です。水産物は基本的にはハラルですが、加工された場合、その加工のプロセスや、使われている調味料や保管場所、運搬方法がハラルであるのか等、一見すると分からないため、認証が必要となってきます。

〈BPJPHハラル認証の獲得について〉

 インドネシアのハラル認証の交付は、2019年以降、政府のハラル製品保証実施機関(Badan Penyelenggara Jaminan Produk Halal:BPJPH)が行うようになりました。
 認証取得は、事業者、BPJPH、ハラール検査機関(Lembaga Pemeriksa Halal:LPH)、インドネシア・ウラマー評議会(Majelis Ulama Indonesia:MUI)の4つの機関を通し行われます。最終的に認証決定機関であるファトワ委員会を経て、認証証明書を発行。その事業者は認証証明書とロゴをダウンロードできます。

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〈ハラル・ジャパン協会のBPJPHコンサルティング〉

 当協会には、ハラルスーパーバイザーがいるために、安く早く簡単に認証取得ができます。書類準備や窓口の立ち会いも可能で、BPJPHとLPHとの連携があるのでスムーズです。
 また、インドネシアのテストマーケティング等もできます。
 BPJPHハラル認証を取得したい、インドネシアに輸出したい、そんな時、是非当協会にお問い合わせください。

セミナーレポート⑤ 「東北の水産加工品の可能性を探る」

令和5年9月27日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて「東北の水産加工品の可能性を探る」と題したセミナーが開催されました。
本セミナーでは、自身の商品開発エピソードを交えながら、水産加工品の価値づくりについてお話しをいただきました。

魚の達人
漫画「築地魚河岸三代目」
アドバイザー
小川 貢一

<はじめに>

 私は、祖父が興した家業の築地市場内店舗「堺静(さかしず)」にて仲卸業に従事し、漫画「築地魚河岸三代目」のモデルとしても知られ、ビッグコミック(小学館)連載「築地魚河岸三代目」ではストーリーテーマに加え、築地市場及び全国の漁業関係取材地の総合監修を務めました。
 また、同名映画「築地魚河岸三代目」でも築地取材地コーディネート、料理調理等を含む総合監修を担当され、築地仲卸業27年~築地4丁目にて13年間の魚料理店親方を経て、現在は豊洲で仲卸顧問や魚食文化の普及のお手伝いを行っています。

<消費者の魚食への意識>

 特に首都圏では家庭で魚を食べることが非常に少なくなっています。理由はいろいろありますが、魚料理の意識調査(「男女1000人に聞いた食事・調理・魚食動向 ~コロナ禍を経験して~」大日本水産会 2022年6月発表)にヒントがありそうです。
 この調査によると、内食(家庭)での調理における意識は「時短・簡便」「体と健康によい」「コストを下げる」「レパートリーを増やす」「安心・安全」の順となりました。
 魚を避けられる理由としては、「手間、臭い、骨がある」という点が上位になっています。調理前の下処理や食べた後の生ごみの問題等、消費者が求める「時短・簡便」と反する点が敬遠される理由となっているようです。また、どうしてもお肉に比べるとコストがかかってしまう点もあります。
 逆に、魚を食べる理由としては「EPA・DHAや蛋白質等の優れた栄養・健康機能」等、健康のためという点が大きく、これらの必須脂肪酸を摂取するには、やはり魚の重要性を皆様も理解されています。

<オンリー1の価値作り話題作り>

 商品開発ではどうやって消費者の“不”を解消するかが重要です。匂いが手につきやすい「不満」、骨が喉に刺さったら危ない「不安」、下処理や調理に手間がかかる「不便」、「不満・不安・不便」の3つの“不”を解消する加工品商品作りを、今後は考えるといいと思います。
 私が開発したもので、ぶつ切りの鯖を長時間かけて煮込んだ鯖味噌があります。煮魚を食べたいお年寄りが、骨がよく見えなくて困っているという話から開発を始め、商品化しました。骨まで食べられるように約7時間煮込んだもので、自分のお店でもランチに出したら毎日行列ができました。
 このように、消費者の不満不便の解消を考えることが商品開発には大事です。これは高齢者向けでしたが、お子さんにも喜ばれました。骨取りではないので、魚の骨がどんな風になっているのかまで教えることができたので食育にも良かったと思います。
 商品開発では、オンリー1の価値作り・話題作りも必要です。この鯖味噌は築地ということもあり、東京でもすでに馴染みがなくなった江戸甘味噌を使いました。江戸時代に作られていた味噌ですが、今東京でも2~3社しか作っておらず、それを使って他にはない商品を作りました。

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<ネーミングを変えることで、消費者が見る価値が変わった>

 もう一点、話題作りということで、別の例を紹介します。
 大分県の姫島のひじきで、当初は、高級路線で出していましたがなかなか受けませんでした。漁師さんから話を聞くと、このひじきは1年のうちに2日しか獲ることのできない幻のひじきとのこと。それを全面的に出そうと考え、パッケージも「姫島幻の2日ひじき」に変更しました。パッと見て情報がわかるパッケージにしたことで、売上が3~4倍になりました。売れ残っていたものが、今や予約待ち状態で、アワード等を受賞したり、村おこしの返礼品になったりと成功しました。同じ賞品でもネーミングを変えることで、消費者の見る価値が変わったという好例です。

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<「売れる」を実現する3つの価値>

商品を売れるものにするためには下記3つのポイントが重要です。

  • ①消費者にとって自分は「何屋」か ひじき屋ですとか鯖味噌屋ですとか、そういったことをしっかり明確にする。

  • ②消費者にとって自分の商品を「買う理由」は何かを見極める 年に2日しか獲れないなら欲しい、骨まで食べられるなら子供にも年寄りにもいいからこれを買いたい、そういった気持ちを指す。

  • ③消費者にとって自分は「誰」か ここは非常に難しいが、例えば、姫島の1年のうち2日間だけの漁をする人間の存在を明らかにする。これが価値となる。

こういった商品を販売すると、消費者はわかりやすく消費欲が増すと思います。

<目先を変えて商品開発>

 今後の課題で一番大きいのが原料事情です。特に、加工品の主原料である、鮭、サンマ、サバ、イカ等が東北で獲れなくなっています。これらが安定供給されなければ、商品作りは難しくなります。こういった商品は歴史があって継承してきたものが多く、このままだと食文化の継承もできなくなるといった懸念があります。
 従来の加工品作りが難しいとなると、今度は新たなものを開発しなくてはなりません。
 例えば、ブリを使ったツナ缶は、これまで主原料としてきたマグロやカツオの漁獲量の低迷や世界的な需要の拡大で調達が難しくなっている中、比較的漁獲が安定しているブリを使って将来的な供給への不安を払しょくする試みとして開発されました。
 また、近年では温暖化の影響で北海道では馴染みの薄い「ブリ」の漁獲量が急増しています。鮭の定置網に入ったブリは生出荷しかできないため、二束三文で売るか、下手すればミール原料としての値段しか出ませんでした。そこで、町ぐるみでブリの処理場を建て、製品を作り、高付加価値化して、新たな名産としてふるさと納税の返礼品にしようという取組もあります。

<変わる水揚げ事情に対応>

 温かい海の魚であるサワラも、今は北海道や東北で獲れるようになりました。フグ、トラフグも東北で揚がっています。さらに、三重県の方で大量に獲れるようになったのがアイゴという魚で、トゲがあったり磯臭さが強かったりする未利用魚です。ウツボもそうです。南の方では干物にして食べますが、硬い小骨が多いので加工品には向きません。網も壊してしまい漁師さんたちは困っています。
 このように、獲れる魚の事情が変わってきています。でも、まだまだ東北の方は食べられる魚が揚がっています。それをどう加工するかを考えると、可能性はあると思います。
 さらに、これからは天然魚が当てにならなくなるので養殖が重要になります。特に三陸の方は、養殖というと、宮城の銀鮭等が頭に浮かびますが、それ以外にも、牡蠣、ホタテ、ワカメ等の養殖が盛んで、地域によってブランド化もされてきています。それらをいかに加工品にするかということも必要になってきます。
 原料事情はますます厳しくなると思いますが、目の前にあるものをどう使っていくのか、その食材の良さをどうやって一般の方に知ってもらうか、そういう目線を持ちながら商品づくりを行っていただければと思います。

セミナーレポート⑥ 「『復興』×『水産業を取り巻く環境の変化』にかかる現状と今後の対策」

令和5年9月27日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて「『復興』×『水産業を取り巻く環境の変化』にかかる現状と今後の対策」と題して、セミナーが開催されました。
沿岸地域の基幹産業である水産加工は、原材料や人手不足、海面温度上昇等様々な課題に晒されています。こうした困難をどう乗り越えるのか、地域で成功事例を持つ3社の取り組みを紹介するとともに、有識者も交えたパネルディスカッションが行われました。

はじめに

ファシリテーター
東北学院大学
地域総合学部 地域コミュニティ学科教授
柳井 雅也
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 今回のテーマである水産加工は、沿岸地域の基幹産業ですが、今、漁獲高減少、人手不足、海面温度上昇等が課題として挙がっています。
 水産加工業は、震災前と比べて、経営体数ベースで戻っているのは約6割。そのうち、業績が9割以上戻ったのが2割と、実質は1割ほどしか震災前の状況に戻っていません。さらに、多くの課題に直面し、経営環境も激変しています。
 この現状の中、今回お呼びした企業の代表の皆様や水産に造詣の深い先生方の事例を通して、課題解決の参考にしていただければと思います。

復興に関する現状

復興庁 企業連携室
参事官
芳田 直樹
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 東日本大震災後、地域差は見られるものの、被災地での水産現場の復旧自体は進んでいます。
 被災した漁港施設は令和5年度3月末ですべて復旧作業が完了しました。しかし、震災前と比べて、漁業を営む経営体は減少しており、震災前の7割以下となっています。
 とりわけ水産加工業においては、令和5年の水産庁のとりまとめた調査によると、被災6県の加工業者における売上の状況について80%以上回復したと回答した事業者は約半数にとどまっており、依然として売上の回復が遅れていることが分かります。理由としては原材料や人材、販路の不足が挙げられます。

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海洋環境の変化による影響

復興庁企業連携室
磯崎 眞志
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 日本近海における海面水温は、過去100年間で平均して1.24℃上昇しており、この上昇率は世界平均の倍です。
 数日から数年にわたり、急激に海水温が上昇する「海洋熱波」という現象の発生頻度は、過去100年間で大幅に増加しています。過去に豊富に獲れていたサンマ、スルメイカ、サケ等の漁獲量が減少し、地域の産業に深刻な影響を与えています。従来水揚げの少なかったタチウオ、フグ、マイワシ等が獲れるようになり、漁獲量は2010年以降、増加傾向にあります。

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各社の取り組みについて

株式会社北三陸ファクトリー
代表取締役CEO
下苧坪 之典
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 北三陸ファクトリーは、三陸の海藻を扱う事業を経て、2018年に設立しました。
 岩手県洋野町は日本一のウニ産地でしたが、ここ10年で水揚げが13分の1に減少。作業環境、ウニの生産現場における課題点等を考え、2年前に工場を立ち上げてFSSC 22000を取得。輸出体制を整えました。
 出荷先は、国内の高級レストランや、海外の香港、台湾、シンガポール等で、直接納める仕組みを構築しました。これまで洋野町のウニは他の地域と一緒に三陸産として出荷していましたが、これを8年前に「うに牧場」というブランドを立ち上げたことにより、魚価が上がり、漁師さんに残るお金も増えてきました。

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 課題もいくつか抱えています。まずは魚価の低迷です。2022年度はロシアからの水産物が日本に過去最高量入ってきたため、ウニが市場に溢れたことで、魚価が低迷しました。付加価値の創造として、⽣産者と消費者を結び付け、安心安全をお届けするため、経済産業省の事業でパッケージにトレーサビリティのQRコードを導入しましたが、判断はお客様次第です。
 さらにもう一つの課題は、ウニによる「磯焼け」です。「磯焼け」とは、大型の海藻の大部分が沿岸の一部で枯れてしまう現象で、藻を食べてつくしてしまうウニによる「⾷害」はその原因の一つとなっています。磯焼けの進⾏を止めるために、全国でウニの駆除が推奨されていますが、駆除されたウニは身がやせており、商品価値がなく廃棄されているのが実情です。
 そこで、北三陸ファクトリーは、こうしたウニを使った「うに再生養殖」の事業を開始。北海道大学をはじめとした研究機関や事業者との協力のもと、この痩せウニを再生するための配合飼料や育てるためのカゴを開発し、特許を取得しました。実績として、北海道八雲町の漁師さんとの取り組みでは、廃棄に5円かかっていたウニを500円で流通できる事業を整えることができました。
 磯焼けは世界中の問題です。5年ほど前にオーストラリアで調査を行い、三陸の技術が世界で有用なことを確認。2023年4月には、オーストラリアで現地法人を立ち上げ、水産業の技術開発に投資しています。

<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井  氏:目の付け所や「うに牧場」等、覚えやすいネーミングも素晴らしいです。
    この事業の付加価値等もあれば教えてください。
  • 下苧坪 氏:洋野町には、本州で唯一のウニ種苗センターがあり、年間250万個を孵化させて放流しています。最初の1年は陸上で、2〜3年目に海で6cmほどまで育て、他ならそこで刈り獲るところを、もう一度「うに牧場」に戻して育て、4〜5年で出荷しています。そういった取り組みのおかげで、日本で唯一殻つきで出荷できる地域になっています。
株式会社ヤマナカ
代表取締役会長
髙田 慎司
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 ヤマナカは2007年に創業し、翌年2008年に法人化しました。設立当初より養殖水産物に特化した事業構築を行い、国内はもちろん、アメリカ・中国・シンガポール等計13カ国への輸出をおこなっています。2019年にはベトナムに現地法人も設置し、生産から販売まで一貫した牡蠣養殖システムを構築しています。

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 宮城県は、ホヤ、ワカメ、ホタテ、牡蠣、海苔等を養殖していますが、養殖業者は減る一方です。2010年には約4,205名いた生産者も、震災の影響もあって2015年には2,521名まで減少しています。
 特に牡蠣の生産者は2010年には1,141名に対し、2021年には399名まで減りました。生産額も去年は牡蠣の価格高騰のため数字としては戻ったように見えますが、生産量は1/3程度で、低所得・剥き子不足・高齢化・担い手不足等の問題が重なり、生産者は減少の一途をたどっています。
 また、ヤマナカの主力商品は宮城県産の養殖ホタテですが、温暖化による海洋環境の変化によって、原因不明のへい死が発生。さらに毒性プランクトンによる貝毒で長期間の出荷停止が重なった2018年の水揚げは最盛期の1/4にまで減少しました。
 この対策として、宮城県では2018年に自主規制の一部を緩和し、認証を受けた会社が処理し、貝柱なら流通できるようになりました。すると、一斉に貝柱だけが国内市場に供給され、値崩れを起こしました。
 そこで、弊社は設備投資して冷凍し、直接輸出を行うことで、地域の事業者にも利益を落とし、漁業者の所得向上に繋げる活動を行っています。

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 まだ準備段階ですが、高水温に耐性を持つホタテ稚貝の陸上養殖の研究を、研究施設や大学と連携しながら進めています。

<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井 氏:なぜ養殖に目をつけられたのでしょう。
  • 髙田 氏:創業当時、漁業は豊漁であれば値段が下がり、少なければ高くなるというものでした。
    しかし、養殖水産物なら、生産者数等を把握すれば、取り扱い数の計算が立ちます。
    確実な事業計画を目指したことがきっかけでした。
株式会社マルリフーズ
営業部 部長
阿部 純也
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 マルリフーズは、福島県の相馬市にある海水と川水が混ざった汽水域松川浦辺りに会社があります。
 1993年の創業からアオサの高品質加工を行ってきました。原料は主に福島県産ですが、被災時にお世話になった愛知県産も一部使用しています。
 マルリフーズの課題は、原料となる松川浦あおさの生産量が減少したことです。松川浦あおさは、震災前、全国第2位の生産量を誇っていましたが、現在は当時の2割程度にまで減少してしまいました。
 もうひとつは、新たな販路の開拓が進んでいないことです。そのため、これまでずっと業務製品一筋でやってきましたが、販路開拓に向けた活動の一環として、2020年には、BtoCの商品開発を開始しました。相馬の漁師の浜言葉で「ものすごい」という意味の「すてっぱず」という言葉を使って、「すてっぱず松川浦」という地域ブランドを立ち上げ、国内は元より、世界にも売り出そうとしています。
 日本発の食品安全規格であるJFS-B規格や、マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)認証も取得し、安全性もアピールできるように努めています。
 今後も生産量だけでなく品質等にもこだわりながら、売り先や販売方法を変えながら売上の向上を目指していきます。
 この他にも、1日あたり10kgほどのアオサの残渣が出ますが、これまでは飼料活用等に活用されてきました。しかし、今後は、さらなる有効活用研究を、地元の大学や高校等に協力を仰ぎ進めています。

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<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井 氏:アオサの残渣の話がでていました、残渣の活用方法として、乾燥パウダーという手段もあります。
    乾燥パウダーにするのには、高温(80℃)で処理する方法が一般的なのですが、栄養素が9割程度も飛んでしまいます。しかし、低温乾燥法であれば栄養価も残りますので、水産加工業の皆様も乾燥パウダーにする際はこういった点も考慮してみてください。

多魚種漁獲漁業、海洋環境の変化に対する展望

岩手大学 農学部
准教授
石村 学志
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 日本の沿岸漁業の多くは、多魚種漁獲漁業です。定置網漁業や底曳漁業は、海洋環境の変化と共に資源量や分布の変化で主要漁獲が大きく変わり、水産加工業にも影響を与えています。
 その中にあって、宮古の底曳漁業には他と圧倒的に違う点があります。年間漁獲量の変動はあるものの、漁獲高は上がり続けています。日帰り操業で限られた漁場や、特定の魚種は追いかけません。震災後、マダラが小さくなった等の魚種の変遷はあっても、漁獲量と漁獲高の主要漁獲の魚種の変遷が、時間軸と一致しないのが特徴です。
 震災、コロナ、海洋環境変遷といった困難を経験しても、漁獲高を伸ばすことができた要因は、魚の漁獲位置が変わり続ける日本の海を受け入れたゆえの多種漁獲だからと考えています。単なる種類の多さではなく、魚それぞれが代替されない価値を持つことで成り立ちます。
 日本には四季があり、寒流暖流が入り乱れています。変化し続ける海や魚種、魚食の多様性により、多魚種漁獲業も漁業だけではなく、経済活動として、海から社会に、加工業は漁港から消費者までの一連の流れを、この多様性でも継いでいくものと考えます。おそらく困難な時期はまた訪れます。その中で、また日本の海から考え、そこに応じた形が何か、そうした議論を作っていきたいと考えています。

<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井 氏:僕たちは漁獲量等全体の方を見る傾向があります。
    魚種に目をつけ、変わっていくところも大事だという気づきを与えていただきました。