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セミナーレポート「東北復興水産加工品展示商談会2025」当日セミナー

セミナーレポート① 売り手・買い手視点での水産加工品販路開拓・商品開発及びマーケティング・プロモーション・SNS活用について

 令和7年9月30日、「東北復興水産加工品展示商談会2025」において、「売り手・買い手視点での水産加工品販路開拓・商品開発及びマーケティング・プロモーション・SNS活用について」と題した講演が開催されました。
 本セミナーでは、売り手目線・買い手目線でどこを重視するべきか、マーケティングの具体手法等についてご講演いただきました。

講師
株式会社福田屋百貨店
執行役員 みらいEC事業部EC事業部責任者 部長
増山 敬之

はじめに

 福田屋百貨店は、栃木県宇都宮市に本社を構える、創業91年目の老舗百貨店です。GMS(General Merchandise Store)系モールとして、百貨店がプロデュースするショッピングセンターをテーマに栃木県内に3店舗を展開しております。

 当社では独自で電子マネーやポイントシステムを運用しており、ハウスカード会員(約30万人)、オンライン会員(約35万人)、公式LINE登録者(15万4,000人)、自社アプリダウンロード者(18万)に対して、自社ECサイトや楽天市場、Yahoo!ショッピングでも販売を行っております。

 本セミナーでは、これまでの経験を踏まえた水産加工品の販路開拓、商品開発、さらにはマーケティングやSNS活用に触れたいと考えております。

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売り手・買い手視点での販路開拓・商品開発について

  • 売り手(事業者)の販路開拓ポイント

     売り手(事業者)が販路開拓を目指すにはどのような取り組みが必要でしょうか。

    • 販路の多様化  販路を広げるためには「対策の複線化」が不可欠です。既存の卸や量販店への販売に加え、ECサイトへの出店、ふるさと納税など、販路を広げるためには現状を維持しながらこのような活動が必要です。

    • 百貨店・飲食店・ホテルのPB・OEM需要(惣菜、冷凍素材、簡便商材)への対応  百貨店は、高級感・限定性、ギフト・催事向けPB商品対応、安全性、表示対応、トレーサビリティーが求められます。飲食店は、安定供給、価格重視、厨房作業効率化(半調理品他)、オリジナルメニュー対応(味付け他)が求められます。ホテルでは、朝食・宴会向けの簡便・冷凍素材、高級演出、海外対応(ムスリム他)が求められます。このような需要に対して自社で生産体制を整えることが重要です。

    • 海外輸出  規格統一、言語対応(成分表示)、現地バイヤーとの提携により、海外の販売ルートを確保することが重要です。

    • 展示会・商談会への積極的な参加  展示商談会に積極的に参加し、小ロットや新規格をアピールすることで、新たなバイヤー獲得を目指しましょう。試食・サンプル提供をポーションタイプにして、それを製品化することもひとつのポイントです。出展するだけでなく、クロージングまでが重要ですので、事前にフォロー体制も構築しておきましょう。

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  • 買い手(バイヤー)視点での販路開拓への評価ポイント

     買い手(バイヤー)が仕入れにおいてどこを重視するかを理解しておきましょう。

    • 安定供給・物流体制  一定数量を定期供給できる体制か、季節・漁獲量変動に対応できる複数ルートを有しているか、リードタイム(注文~納品までのスピード)が明確かなど、もし初回取引でこれらが守らなれない場合は継続取引の可能性がなくなります。

    • 価格帯・商品力(商品の独自性や差別化)  市場相場に沿った価格か、原料高騰・漁獲量変動でも一定価格を維持できるか、他社にない強みがあるか、希少魚種やご当地原料が活用され味・素材・加工方法が他社より優れているか、他社(他商品)を分析してライバルの弱みを自社の強みとして提案できるか、といった点が評価のポイントになります。

    • パッケージの力・販促力  「パッケージはしゃべらない優秀な販売員」です。陳列映えするデザイン、視認性の高さ、埋もれない色使い、遠目でも特徴が伝わる文字、魅力的なコピーライティング、中身の見える透明窓つき包装、ビジュアル・レシピ提案・調理例などの記載で美味しさの表現や使う未来が想像できるものか、メインターゲットに刺さるビジュアルか、パッケージに表現しきれない内容もQRコードで専用サイトとリンクさせているか、こういった点を重視しています。

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  • 売り手(事業者)の商品開発ポイント

     売り手(事業者)が商品開発において重要視すべき点をいくつか挙げます。

    • 原料・素材の選定  品質の安定供給、価格変動による複数仕入先ルートの確保、冷凍原料・未利用魚・代替魚種の活用、安全規格(HACCP他)の対応、ストーリー性(地元漁港直送他)による差別化の背景が重要になります。

    • 加工・製造工程の工夫  用途・ターゲット別での形態の使い分け(業務用=大容量他、家庭用=個食パック他)、付加価値化(下処理他)、冷凍加工(IQF=ドリップを抑える、グレース処理=ドリップ軽減で品質維持)、真空パック、規格統一などの視点も取り入れましょう。

    • パッケージ・表示設計  視覚的訴求(写真・イラストで調理イメージをユーザーに伝える)、保存方法や調理方法のわかりやすい表記(写真やアイコン)、エコ表示(特にSDGsの取り組み)、法的表示対応(原産地や成分表示)を重視しましょう。

    • 販売ターゲット別の商品仕様  ターゲットによって仕様が異なります。百貨店・高級スーパーでは高級感・特別感・希少性、飲食店・ホテルでは下処理・均一規格・PB・OEM対応、量販店ではコスパ・簡便・少容量、海外市場では冷凍体制・長期保存・現地の味付けなどが挙げられます。ターゲット別のレシピ提案も重要で、子育て世帯は時短・栄養バランス、単身者は小分け・レンジ対応、シニア層には柔らか食・減塩などがポイントになります。

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  • 買い手(バイヤー)としての商品開発に関与する際のポイント

     買い手(バイヤー)が商品開発においてどこを重要視するかをいくつか挙げます。

    • 柔軟な改良・仕様変更への対応力  バイヤーは商品のみならず、事業者の姿勢もしっかり見ています。顧客層のニーズ(味付け、地域性、サイズ・形状変更他)に対して、事業者が柔軟に改良・仕様変更が対応できるかがポイントです。

    • テスト販売への対応  テスト販売時の小ロット対応はもちろん、売れ筋見極め後の本格導入に対応できるか、改善・改良に係るフィードバックに柔軟に対応できるかがポイントです。

    • 販促協力体制  売場・催事での試食サンプルや販促物の支援、SNSの共同発信(バイヤー+事業者)など、バイヤーは売れる商品を一緒に作ってくれる事業者を探しており、「共創パートナー」として信頼されることが、安定した長期的な取引につながります。

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マーケティング・SNS活用について

  • マーケティング

     マーケティングは、単なる販売促進や広告掲載ではなく、市場調査(ターゲットや需要の把握)、ポジショニング(他社との差別化ポイントを見極め自社のポジションを確認)、商品開発(ターゲットのニーズに合う仕様設計)、販路選定(どこに販路を決めるか)など包括的な活動を指します。

  • SNS活用

     SNSはマーケティングの一部でプロモーションの領域になります。目的別にプラットフォーム(Instagram、他)を活用しましょう。但し、こまめな更新が重要で、更新が何年も止まっている状態では印象がよくありません。使い方次第ではお金をかけなくても効果があります。

  • POP(販促ツール)の工夫

     事業者の販促ツールはバイヤーにとって非常にありがたいものです。販促ツールには、情報訴求型POP(キャッチーなコピーで自社商品を選ぶ理由を訴求する)、ストーリー型POP(生産者・作り手の画像をコラム風仕様で紹介する)、比較型POP(他魚種・他商品との比較を提案する)などがあります。消費者は以前まで「おいしそう」が刺さるポイントでしたが、最近では「便利そう」が刺さるポイントになっており、特に水産物はレシピ提案などによって調理のしやすさを提案することで購買されるポイントになります。

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まとめ

 販路開拓のポイントは、それぞれの立ち位置から見たポイントをしっかり掴むことが重要です。売り手は、バイヤーが必要とする項目を一つ一つ理解して新たな販路をつかむことが成功につながります。
 商品開発の視点では、自社の強み・独自性・差別化、こういったものを活かせるかがポイントとなり、マーケティングにおいても、自社の立ち位置をしっかり確立させるために事前の調査、ポジショニング、ターゲット設定、商品開発の連動が不可欠です。
 SNS活用は費用対応効果を考慮して、最大限に活かせる手法を取り入れましょう。

補足:最新トレンドについて

 最近の市場は、新しく生まれてすぐ消えてしまう小波の状態が続いており、いかに波に乗り、波が去る前に終息できるか、スピード感も必要です。2025年のトレンドをいくつかあげますので、参考とされてください。

  • 機能性食品

    健康志向や免疫力への関心などを背景に市場が拡大している。

  • 低糖・低塩(減塩)製品

    美味しさは維持したままダイエットや健康リスク低減につながるもの。

  • 発酵食品

    世界的なプロバイオティクスや腸活ブームで注目されており、長期保存が可能で旨味風味が増加する。

  • プラントベース食品

    植物性由来原料を使った食品で、体調管理を目的に近年需要が急拡大しており、おいしさや食感も向上し、従来の肉・魚の代替品として新しい食文化へ成長している。

  • 高タンパク食品

    3大栄養素のひとつで、簡便性や即食性に優れ、従来のアスリート向けからダイエット・フレイル予防など一般にまで広がっている。

セミナーレポート② いまさら聞けない?未利用魚・低利用魚とは?~海の資源を上手に利用するために~

 令和7年9月30日、「東北復興水産加工品展示商談会2025」において、「いまさら聞けない?未利用魚・低利用魚とは?~海の資源を上手に利用するために~」と題した講演が開催されました。
 本セミナーでは、日本国内でも関心が高まっている未利用魚・低利用魚の基礎知識と活用事例等についてご講演いただきました。

講師
一般社団法人大日本水産会
魚食普及推進センター 課長
早武 忠利

はじめに

 日本の国内市場には、年間で約700種類もの水産物が流通していると言われておりますが、この内一般消費者に認知されているのはせいぜい40~50種類程度です。これを除く650種類もの魚を如何に認知させるかが、これからの資源利用に向けた大きな課題と考えています。

 私達大日本水産会では、魚食普及推進センターのWEBサイトを通じて、魚食に係る様々な情報発信を行っています。現在では年間約500万件もの閲覧数に上りますが、なかでも「未利用魚」の特集ページは年間約5万人もの閲覧があり、メディア関係者、商品開発担当者、公務員などの実務に携わる方々の閲覧が多い傾向にあることから、これからさらに関心が高まるものと考えております。

 この特集ページを開設した背景には、メディアから「漁師はなぜ魚を海に捨てているのか」といった問い合わせが相次いだためです。実際にはすべてを廃棄している訳ではなく、安値で流通したり、飼料・肥料として利用したりするケースも多く、一部の漁師はこれを“捨てている”と表現する方もいることから、大日本水産会ではこうした誤解を正し、正確な情報発信に努めるため、このような活動を行っております。

世界中で魚類は人気

 なぜ今、未利用魚が脚光を浴びているのでしょうか。

 私自身は、2010~2012年までインスタントヌードルの具材などに使用されているイカの製造(フリーズドライ~乾燥)に携わっていました。当時は未利用魚とされていた原料のアメリカオオアカイカが500ドル/tで売買されておりましたが、これが2年後には3倍に、現在では10倍以上まで価格が高騰しております。これはあくまでもドル価ですので、円安の影響が大きい日本円では20倍以上もの価格高騰があったことになります。アメリカオオアカイカはえぐみが強く、2010年当時はエンペラ部分が廃棄されていましたが、現在ではスーパーの惣菜売場で見かけることも増え、味を上手くマスキングすることで貴重なたんぱく源として活用されていることが伺えます。

 アメリカオオアカイカを事例にあげましたが、2050年は世界人口が100億人を超えると予想されており、食糧不足が懸念されております。現在の世界食糧供給(重量ベース)は、約97%が陸地資源(農畜産物)で、約2~3%が海洋資源(水産物)によって賄われており、今後の世界人口増加に対応するためには、新たに南米大陸規模の畑を開拓する必要があると言われておりますが、実現が難しいことから、今できる取り組みとして、品種改良で収穫量を増やすことや、フードロスの削減、これまで食べられてこなかったものを食べるようにしようといった風潮が世界中で広がっています。

 こうしたなか、未利用魚が着目されているのには、世界人口増加によるタンパク不足を補う食材として注目されていることもありますが、水産物は農畜産物と比較して餌や水が圧倒的に少なく、非常に生産しやすい食糧であることが理由です。一例ですが、牛が1kg成長するために必要な餌(穀物など)を水に換算(バーチャルウォーター=仮想水)すると約2万ℓが必要とされているのに対し、魚は魚粉・大豆たんぱく質・食品残渣などを餌としているため、水をほとんど使用しておりません。このような背景から、未利用魚をうまく活用しようといった考えが進んでいます。

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島国日本の特徴を生かそう!

 日本は世界6位の海洋面積を誇り、南北に長いことから魚の種類も豊富で、刺身で食べられる程度の鮮度のよい魚が数百円で手に入るという恵まれた国です。しかし、温暖化の影響などが考えられますが、特定の魚種が獲れなくなったといった話題をよく耳にします。このようななかで人気の高いマグロやエビなどに注文が集中すると、当然価格は高騰し、さらに海外での需要も高まれば、国内にすら流通されない可能性もあります。
 現在も利用魚種の変更を求められている生産者・加工会社も増えておりますが、多種多様な魚が手に入る日本だからこそ、様々な魚の利用を検討する必要があるものと考えます。

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未利用魚・低利用魚とは?

 「未利用魚・低利用魚」は、人によって定義も名前も異なります。良いイメージでは「地魚」としてその地域で限定的に食されている高級な魚も含まれますが、大抵のイメージは、「未利用」「低利用」との名称がついていることから、安価、知られていない、一癖ある、手間がかかる、傷がある、サイズが不揃いなど、どちらかといえば悪いイメージが一般的ですが、こうした魚を適した加工(料理)で調理すれば利用価値は各段に高まります。

 一例として、サメは古くから「臭い」とか「美味しくない」といったイメージがついてしまっていますが、これは冷凍・冷蔵設備がない時代のことで、実際には脂がのって非常に美味しい魚で、気仙沼などでは刺身・寿司ネタとしても親しまれており、鱗さえ取ってしまえば、大型なので人手をかけずに加工がしやすく、骨も軟骨なので食べやすいといった特徴があります。

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 この他に北海道でよく売られている八角(別名:トクビレ)は、形が変わっているせいか、あまり一般には普及されていませんが、干物にするとホッケよりも脂がのっていて、甲殻類を食べているせいかカニ・エビのような風味があり、非常に美味しい魚です。

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 この他にもアイゴは、ヒレに毒があり、海藻を食べて生息する魚のため磯臭さが身に染みついていることから料理として見かけることは少ないですが、ヒレをキッチンバサミで切ってしまえば調理がしやすくなりますし、臭いも柑橘系(レモン)にあえれば美味しくいただけます。毒があっても、フグは親しまれている訳ですから特段の問題はありません。実際に三重県では給食としても活用されています。

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 魚の不漁が続いていた時期に、横浜市内の卸会社が小型で不揃いのサバを細切れにして学校給食に納入した事例があります。通常、学校給食はグラムが細かく決められているものですが、値段をつけにくい小型の魚を細切れ(端材)として納入することで、コストも下がったといった事例も聞かれています。学校給食はこうした未利用・低利用の納入について可能性が高いものと考えており、埼玉県戸田市ではボラやアカマンボウを学校給食に導入したケースが聞かれています。

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 但し、未利用魚すべてが美味しくて調理しやすい訳ではありませんので、注意が必要です。

おわりに

 未利用魚・低利用魚の活用は関心が非常に高いものの、残念ながら無尽蔵には湧きません。特に未利用魚・低利用魚は資源状況が判明されていないものも多く、利用し過ぎると無くなる可能性があるため、注意が必要です。

 身近にある魚を上手に漁獲し食すことで、海洋環境や漁村を守り、相場を安定化させ、ひいては世界から飢餓を無くすことにも繋がると考えます。

 大日本水産会では、未利用魚・低利用魚をはじめ、魚の正しい知識と食育、そして水産業を守るための情報発信を続けて参ります。

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セミナーレポート③ 東北の水産加工業の持続的発展に向けて

 令和7年9月30日、「東北復興水産加工品展示商談会2025」において、「東北の水産加工業の持続的発展に向けて」と題した講演が開催されました。
 本セミナーでは、震災の影響と水産業を取り巻く環境を踏まえ、漁師、仲卸、加工、行政それぞれの立場から何に取り組むべきか等についてご講演いただきました。
 第1部では、取組事例として、ご講演をいただきました。

復興庁の取組紹介講師
復興庁 農林水産・営農再開支援班
企画官
溝口 武志

 復興庁では復興に向けた直近の取り組みとして、大阪・関西万博のテーマウィーク(5月)に出展し、「よりよい復興」をコンセプトに、東日本大震災から力強く復興する被災地の姿を発信いたしました。6つのゾーンの内、「Kizunaゾーン」では、被災地3県(岩手県、宮城県、福島県)で復興に取り組む食品事業者(水産物を含む)を紹介するパネルや商品サンプルなどを展示しました。展示総数33品目の内、水産品が半数以上を占めております。

 商品サンプルにはすべてQRコードを添えており、スマートフォンなどから事業者サイトにアクセスできる他、試食体験コーナーでは、福島県産の「常磐ものの煮凝りとトマトのマリアージュ」、岩手県産の「洋野うに牧場の四年うにバタートースト」、宮城県産の「戸倉っこかきと海老のコク旨焼」など、合計6品を来場者に提供したため、復興庁展示コーナーの中でも特に好評でした。

 今年6月には「第3期復興・創生期間における復興の基本方針」が閣議決定され、ALPS処理水対策や、原子力災害被災地域における水産加工業の販路回復(開拓)、加工原料の転換などの水産業支援についても内容が盛り込まれており、復興庁ではさらに復興支援に取り組んで参りたいと考えております。

 本日は各分野から有識者をお招きし、これまでの取り組み事例を紹介いただきながら、これから東北の水産加工業が発展するために必要なことは何かをテーマに講演いただきたいと思います。

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東北の水産業の復興講師
一般社団法人アグロエンジニアリング協議会
代表理事会長
鈴木 康夫

 東日本大震災当時、私は宮城県産業技術総合センターに勤務しており、県職員として様々な実情を目の当たりにしましたが、若い職員達からはこれからの東北について、「リ・セットではなく、リ・デザインしなければいけない」という言葉がよく聞かれ、東北は旧に復すのではなく形を生み出すしかない、高い目標を掲げて挑戦するしかないと考え、震災から1年後の2012年4月に、盛岡・仙台・郡山に科学技術振興機構(JST)復興促進センターを立ち上げ、プログラムオフィサー(PO)として、残渣利用、養殖、鮮度保持など、現在にも通じるような研究開発プロジェクトに対する補助支援に携わりました。プロジェクトは3年で終了となりましたが、いずれも素晴らしい研究成果をあげたことから、事業継承としてアグロエンジニアリング協議会を設立し、現在は大学の先生が約30名、水産関連事業者が約10社、農業関連事業者が約51社登録されております。

 プロジェクトでは、「三陸ナマコ(完全養殖)」のブランド化、「塩竈かまぼこ手焼きマイスター(手焼き職人)」の創出・育成、「宮城県産大豆」の高付加価値化(超高圧処理で大豆のGABA含有量を20~30倍にする手法)など、いずれも水産業や農業の発展と販売促進につながる内容です。環境や価値観が変化するなかで、私達がこれから何をしなければならないのかをしっかり見据えて、支援を継続したいと考えております。

東北の水産地域の持続的発展に向けて講師
株式会社ジョイヤ
代表取締役 地域食農プロデューサー
桔梗 美紀

 当社は、食と農林水産業、そして地域・文化・歴史をつなぐことを目的に、事業企画から商品開発、営業戦略、販売戦略のプロデュースを行っている会社です。私はこれまで地域力創造アドバイザー、農林水産省プロデューサー・プランナー、経済産業省や商工会議所等のアドバイザーなどを務めて参りました。本日はこれまでに携わった事例をご紹介できればと思います。

  • 未利用魚を使った食品開発

     宮城県内の漁協、県庁、商工会議所、大学、産業技術センターが関わる産学連携事業において、嚥下予防食を含む高齢者・介護者向けの未利用魚を使った商品開発を担当しました。テストマーケティングを行ったところ、小さな子供のいる母親からの評価が高かったことから、レトルトパウチとして湯煎で温めるだけの加工品に仕上げ、高齢者施設の他、スーパーマーケットでも販売を行っております。

  • 一企業の復興から地域や産業を巻き込んでの復興

     先ほど同様の産学連携事業において、加工施設を整備したものの、商品づくりにお悩みだった水産加工会社に対して、ホヤ、ホタテ、カキを使った缶詰、燻製、カレー等の商品開発を提案し、さらに農泊を絡ませて「くる・みる・たべる・つくる・とまる」といった仕組みを構築しました。

  • 石巻市における水産業の復興

     石巻産「ホヤ」の認知度向上を目指し、日本遺産(文化庁)、SAVOR JAPAN(農林水産省)、100年フード(文化庁)などの登録の他、ホヤと地域野菜を食べ合わせるGI登録を行い、「ホヤ」を柱に郷土愛や食育などに繋げる活動を行いました。

  • 海資源の維持を目指した取り組み

     「ウニ」の生産力を上げるために、漁業者、漁協、県、町、商工会、国が一体となって取り組んだ事業では、海洋環境を守るためにブルーカーボン(藻場再生)を増やすことで、「ウニ」の品質を高め、さらに高付加価値・高価格に繋げることができました。

     これらの活動を踏まえ、一定以上の成果は見られたものの、人口減少による事業継承や担い手問題、そして自然環境の変化と資源管理の問題、さらに魚離れを防ぎつつどのように消費を促進させるか、新たな課題も見えておりますが、日本の海を守るためにも重要なのは食育だと考えております。

 第2部では、東北の水産加工業の持続的発展に関して、主要なパネリストによりパネルディスカッションを行なわれました。

パネルディスカッション一般社団法人アグロエンジニアリング協議会
代表理事会長
鈴木 康夫

株式会社ジョイヤ
代表取締役 地域食農プロデューサー
桔梗 美紀

石巻市長
齋藤 正美

有限会社木村水産
代表取締役
木村 一雄

漁師
英福丸船長
大澤 幸広

株式会社かね久
代表取締役
遠藤 伸太郎

鈴木氏(座長):  ここからは震災の影響に留まらず、海水温上昇や魚種の変化等の課題を加え、今後のトレンドをどう見定めればいいのかをディスカッションします。「海業」という言葉も聞かれておりますが、地域資源を最大限に活用したビジネスなども視野に入れて、これからどうしていけばいいのか皆様にご意見を伺いたいと思います。

大澤氏(英福丸船長):  私は石巻市表浜で穴子漁を行っております。表浜の穴子漁は100年もの歴史があり、昔は竹かごを使って小船で沿岸操業していましたが、現在は船も大型化し、沖合操業を行っています。1970年代からは運搬技術の向上によって活魚で出荷されるようになりました。1990年代に入ってからは、資源管理型漁業に取り組んでおり、現在はこの取り組みが宮城県の漁業方針でも採用されています。東日本大震災では、津波でほとんどが流されてしまったものの、残った漁船や漁具をかき集めて、2023年7月に操業を再開し、主要販売先である東京に出荷を行いました。
 表浜は真穴子で水揚げ量が国内トップクラスだった時期もあるほどで、ほとんどを豊洲市場(旧築地市場)に出荷しております。穴子は全国的に水揚げされておりますが、高水温の影響で東京湾の穴子出荷量が減少する7~8月は宮城県産穴子の引き合いが強くなる傾向にあります。豊洲市場の取り扱い状況を勘案しながら、獲り過ぎない漁業を目指し、取り組むことが重要と考えております。

木村氏(有限会社木村水産 代表取締役):  私は石巻市内で仲卸業と養殖漁業に携わっております。表浜漁港で水揚げされた穴子は6〜12月に豊洲市場へ出荷しており、漁期に入る6月初めには、表浜の漁協および漁業者は東京市場に出向いて、仲卸3社に対して売り込みを行っております。
 数年前までは福島県産、茨城県産と共に「常磐もの」として扱われていた宮城県産穴子ですが、脂の乗りがよく、品質が良いと評価いただき、今では「宮城もの」として扱われるようになりました。お陰様で販売量は着々と増えており、これまで活魚車に1,200~1,300kgを積載して週2回ぐらい出荷していましたが、現在は1,500kgを週3回ぐらい出荷するまでになりました。季節にもよりますが、特に7~9月は「宮城もの」の市場相場が上がっております。より一層知名度を上げて販売したいと考えております。

齋藤氏(石巻市長):  石巻市には穴子に限らず、さまざまな特産品があり、地理的表示保護制度(GI)や100年フードといった各種制度に認定・登録された食品が沢山あります。
 東日本大震災で被災した石巻魚市場は、新時代にふさわしい高度衛生管理型の産地卸売市場として再建され、全長875.4mを誇る閉鎖式水揚げ棟は、最も長い魚市場としてギネス世界記録に認定されています。
 一方で震災前と比較して水産加工会社は58%まで減少し、加工品の生産額も72.56%に留まっています。海水温の上昇、漁獲の減少、漁業者の減少など、水産業を取り巻く環境は一段と厳しくなっており、さらに物価高騰等の影響で水産物の消費は落ち込んでおります。販路回復、環境保全などの課題に継続して取り組む必要があることや、海洋環境の影響を受けにくい陸上養殖の普及・促進にも石巻市として取り組む必要があると考えております。

遠藤氏(株式会社かね久 代表取締役):  私は宮城県内で食品加工製造を営んでおります。当社では東日本大震災の翌年に「食のみやぎ応援団」を立ち上げ、加盟85社と共に様々な取り組みを行っております。海水温の上昇や水産資源の枯渇といった水産環境の変化を受けて、昨年6月から「みらい・バリュー・TOHOKU」という企画をスタートさせました。地元で邪魔者とされていたノロンボ(ナガヅカ)を使った「ノロンボフライ」や「うみの希望バーガー」、タコを加工する際に余った皮をかまぼこにした「たこ揚げクン」、気仙沼産モウカザメをフライにした「フカフカクリスピー」など、様々な企業・団体、大学等と連携して、低利用資源を有効活用した新商品を共同開発しており、エシカル消費の推進に繋げております。水産を取り巻く環境は厳しいものとなっており、このような活動がますます重要になるものと考えております。

桔梗氏(株式会社ジョイヤ 代表取締役):  みなさまのお話をお伺いしているとそれぞれの立場での対応をされており、大澤様をはじめとする漁業者の皆様が、獲り過ぎない漁業のためにルールをしっかり決めて漁獲を行われています。
 そして、木村様をはじめとする仲買の皆様が、漁師と卸市場とのコミュニケーションを図りながら、取引におけるバランスの最適化を図っていただいています。
 さらに、遠藤様をはじめとする加工会社の皆様が、加工技術・販売力によって、未利用魚をはじめとする地元産品の開発を行いながら地域を盛り立ていただいています。
 加えて、齋藤様(市長)は、民間では手の届かない部分を行政という立場からバックアップしているというところが見えました。
 水産業に限らず、地域の様々な課題を解決には、国、県、自治体が仕組みをつくり、伴走支援しながら施策を推し進めることが重要であると感じました。

セミナーレポート④ 【和食がんこ】水産加工品の価値を最大化するメニュー戦略とインバウンド誘客術

 令和7年10月1日、「東北復興水産加工品展示商談会2025」において、「【和食がんこ】水産加工品の価値を最大化するメニュー戦略とインバウンド誘客術」と題した講演が開催されました。
 本セミナーでは、インバウンド需要の獲得に向けた同社の取り組み事例等についてご講演いただきました。

講師
株式会社GANKO
代表取締役社長
小嶋 達典

会社概要

 株式会社GANKO(旧:がんこフードサービス株式会社)は、大阪を拠点に和食店を展開している飲食チェーンです。1963年に創業し、はじめは寿司店を営んでおりましたが、徐々に業態を拡げ、現在ではグループ全体で97店舗を展開しております。「屋敷業態」として、古い屋敷を改装して懐石料理を提供する店舗なども展開しており、お陰様で現在は全体の8~9割が海外からのお客様がご利用されております。当社は海外にも和食店を構えておりますが、今後さらに海外事業を拡大すべく、2024年に現在の社名変更(ローマ字表記)を行っております。

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2024年のインバウンド市場のまとめ

 インバウンドは年々拡大傾向にあります。2015年に1,973万人だった訪日客数は、コロナ禍(2019年)で一時的に減少が見られたものの、2023年に再び回復し、2024年には3,600万人にまで増加し、消費総額は過去最高となる8.1兆円を記録しました。

 都道府県別に外国人の延べ宿泊者数を見ると、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)に限らず、地方都市まで伸びていることが分かります。主にアジア圏からの訪日客が多く、リピーターが徐々に増えている傾向にあります。このような方々は、日本国内の様々な遺産、景勝地、郷土食、そして訪れた土地での人々との触れ合いを求めており、地方都市にまで足を伸ばしている傾向にあるようです。

 なお、渡航前の情報源として、旅行情報サイトはもちろんですが、個人(特に同じ出身国のブロガー等は信頼しやすい)のブログやSNSで情報を集める方も増えており、さらにアニメによる影響も絶大で、その舞台となった都市に外国人が押し寄せる現象も見られています。

 このように、訪日客の消費は「もの」から「こと」に移り変わっています。もちろんショッピングも楽しみのひとつですが、爆買いするよりは、世界遺産や景勝地を「観て」、おいしい日本食を「食べて」、伝統文化などを「体験して」、といった「こと」消費が上位を占めております。また、団体旅行から個人旅行へのシフトも目立っており、単独で好きなところ・好きなことを体験したいといった方が増えているようです。商売や感動に国籍は関係ありません。日本人でも楽しい・おいしいと感じることは、外国人も同じように体験したいと考えているのです。

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「がんこ」がやっていること

 「がんこ」では、日本人が美味しいと思っていただけるメニュー開発を基本としており、鮮度や産地にはとことんこだわっています。但し、外国人観光客の方にもおいしく召し上がっていただける工夫も忘れていません。例えば、寿司やお造り用に仕入れたものの多少鮮度が落ちてしまった生マグロは、生魚が口に合わない外国人にも喜んでいただけるステーキや竜田揚げとして提供しており、これが結果的に食品ロス削減にも繋がっています。

 こうしたメニュー開発においては、自社の料理人が発想するよりも、取引先である水産加工メーカーからの提案がカギとなっております。もちろん料理人もプロなので日々研究はしているものの、アイデアには限りがあります。食材をよく知る水産加工メーカーの皆様だからこそ知る調理法は非常に貴重なので、「外国人の口に合わないのでは……」等と難しく考えず、ぜひとも気軽にご提案いただきたいところです。

 また「がんこ」では、伝えることも重要視しています。例えば、メニューを多言語化したり、外国語が話せるスタッフを揃えて美味しさの理由や「値打ちもの」を外国人にも伝えたり、このような地道な活動を行うことで口コミに繋がり、さらなる顧客獲得に繋がるものと考えております。

おわりに

 お客様に食べていただく、購入していただくには、私達がお客様に寄り添う姿勢が非常に重要です。外国人は日本文化の体験を求めています。「がんこ」では、食事を楽しんでいただくだけではなく、料理教室(握り寿司等)、抹茶体験、折り紙体験などの体験教室を開催して、非日常的を楽しむ機会もご提供しております。利用者がこういった体験をSNSに掲載することで、それがまた口コミとなって、これから日本を訪れる外国人に広がっていく、こうした連鎖を経て、インバウンド需要の獲得、ひいては海外展開に繋がるものと考えております。

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セミナーレポート⑤ ALPS処理水海洋放出に係る取組について/福島第一原発事故後の水産物の検査体制について

 令和7年10月1日、「東北復興水産加工品展示商談会2025」において、「ALPS処理水海洋放出に係る取組について」「福島第一原発事故後の水産物の検査体制について」と題した講演が開催されました。
 本セミナーでは、福島第一原発事故およびALPS処理水海洋放出に係る検査体制とそれらを踏まえた水産物の安全性等についてご講演いただきました。

ALPS処理水海洋放出に係る取組について講師
資源エネルギー庁 電力・ガス事業部
原子力発電所事故収束対応室 室長補佐
渋谷 晃司

ALPS処理水の処分に関する基本方針の実施状況と今後の対策の方向性について

 ALPS処理水海洋放出を開始してから2年が経過しました。関係者の皆様のご協力により風評被害は最小限にとどまっているものの、経済産業省では引き続き安全性について広報を継続する必要があると考えております。日本政府でもALPS処理水の処分が完了するまでは全責任をもって取り組むことを方針としております。

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安全確保・情報発信について

 2023年より海洋放出を開始しておりますが、モニタリング結果および国際原子力機関の安全性の評価でも、ALPS処理水の海洋放出というものが、人や環境への影響がなく、安全であることが確認されています。

 ALPS処理水とは、放射線量の極めて高い汚染水をALPS処理することにより、トリチウム以外の放射性核種を国の規制基準未満に確実に浄化してタンクに貯蔵したものを指しております。なお、トリチウムは酸素と結びついて極めて水に近い状態になるため、水と分けることが難しく取り除く技術が少なくとも日本国内にはありません。そこで、海洋放出する際には海水で大幅(国の規制基準である1/40程度)に希釈させ、トリチウム濃度を1リットル当たり1,500ベクレルよりも低い値にしており、年間放出総量は原発事故前の放出量と同じ22兆ベクレルに制限を設けております。海洋放出は日本以外の原子力発電所でも一般的に行われており、海洋生物に影響があったということは報告がされておりません。

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 ALPS処理水海洋放出後も、東京電力が毎日迅速分析を行っている他、福島県、環境省、原子力規制委員会、水産庁などの関係機関でモニタリング結果を発表しています。これらの結果について、東京電力ホームページではすべての測定結果が掲載されており、経済産業省ホームページでは、一目でわかるマーク形式で結果が見られるようになっております。さらに国民の皆様に安心していただくためには国際機関を介入させる必要があると考え、国際原子力機関でも定期的な検査を行っている他、第三国(韓国、スイス、中国、フランス、他)による分析を行っておりますが、何れも安全性を評価いただいております。

包括的海域モニタリング閲覧システム(東京電力)

ALPS処理水に係るモニタリング(経済産業省)

 なお中国による輸入規制緩和については、中国政府が37道府県における水産物の輸入を回復する発出を行い、すでに一部輸出関連施設の再登録手続が開始されておりますが、宮城県や福島県をはじめとする10都県産水産物は輸入規制が継続されており、日本政府は引き続き中国側に撤廃を強く求めている状況です。

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風評影響対応・なりわい継続支援

 国内での消費拡大を目指し、大阪・関西万博で日本産水産物の安全性や魅力を発信するステージイベントを実施した他、ジャパン・インターナショナル・シーフードショーでの水産事業者の出展サポートや、ABCクッキングスタジオでの親子魚料理教室などの実施、JETROや日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)を通じて100都市以上で日本産水産物のPRや商談サポートなども行っております。また、水産業を守るための基金を含めた政策や、日本政府金融公庫による水産事業者向けのセーフティネット貸付け、その他相談窓口を設けておりますので、ぜひご活用ください。

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福島第一原発事故後の水産物の検査体制について講師
水産庁 増殖推進部
研究指導課 課長補佐
中山 洋輔

本格操業に向けた取組

 2011年に発生した福島第一原発事故の直後から、福島県の漁業協同組合はすべての沿岸漁業と底引き網漁業の操業を自粛しました。それから水産物の検査体制を整えながら、出荷先での評価を調査しつつ、出荷が制限されていない魚種の操業・販売を開始(試験操業)しました。なお、試験操業とは操業しかしない訳ではなく、販売することが前提となります。

 これ以降は順次、漁獲対象魚種・操業海域を拡大し、2021年3月まで試験操業が行われ、2021年4月からは、本格操業に向けた移行期間と位置付け、水揚げの拡大を図っています。原発事故前(2010年)は水揚げ量2.6万トン、金額ベースで92億円があり、その後水揚げ量は0トンとなりましたが、現在(2024年)は水揚げ量0.66万トン、金額ベースで6億円まで回復している状況です。

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福島産魚介類の放射性セシウムの検査体制

 食品中の放射性セシウムの検査については、福島県による公的検査、漁協による自主検査と二重の検査体制で行われています。

 なお、基準値(100ベクレル/kg)は以下の考えで設定されております。

  • 定められている年間の被ばく線量1ミリシーベルトを、食品から約0.1ミリシーベルト、飲料水から約0.9ミリシーベルトと割り当てた。
  • 流通されている国内産食品の50%に放射性物質が含まれると仮定した。
  • 13~18歳・男性の場合、年間1人当たりの食品摂取量から放射性物質濃度を算出すると120ベクレル/kgと計算されたものの、安全側に切り上げて100ベクレル/kgと設定した。

 また、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)の関係性は以下のとおりです。
ベクレル=放射能単位で、数値が大きいほどたくさんの放射線が出ていることを意味する、シーベルト=人が受ける被ばく線量の単位で、数値が大きいほど体に受ける影響が大きいことを意味する。

  • 福島県の公的検査について  福島県が策定した四半期ごとの検査計画に順じて、出荷制限魚種も含め定期的に公的検査が実施されており、検査結果が国の基準値である100ベクレル/kgを超えた場合は、国からの指示により出荷が制限され、基準値を下回るまでは、市場に出回らない仕組みとなっております。原発事故以降は検査数全体の1/3程度が基準値を超過しておりましたが、2015年以降は国の基準値(100ベクレル/kg)を上回ったのは4例のみで、99%が基準値を下回っております。
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  • 漁協の自主検査結果について  漁協による自主検査は、水揚げ日ごとに出荷予定の全魚種を対象に検査(1魚種1検体)が実施されており、国の基準値の半分程度となる50ベクレル/kgを自主規制値とし、万が一規制値を上回った場合は、水産庁まで報告がなされたうえで、さらに福島県でも精密検査を行い、安定して下回るまで出荷が自粛されます。検査の件数は、原発事故から現在まで水揚げが徐々に増加したことで自主検査数も伴って増加している状況です。
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  • 出荷制限魚種数の推移  原発事故直後に出荷制限が設けられた魚種は40種類以上ありましたが、魚の体内に取り込まれた放射性セシウムが徐々に体外に放出され、また原発事故後に生まれた魚も増えてきたため、2024年10月にクロソイの出荷制限が解除されてから、現在の出荷制限された海産魚種は0となっています。
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福島第一原発事故を受けた食品中の放射性物質に関する基準について

 日本政府は、食品の国際規格を定めるコーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)の指針を踏まえ、食品(飲料水含む)からの年間被ばく量の目標値を1ミリシーベルト以下に設定しました。さらに基をたどると国際放射線防護委員会が、自然からの被ばく量の地域差の範囲内で、誰でも受け入れ可能な目安として示したものとなります。

 なお世界平均2.4ミリシーベルトに対して、日本平均が2.1ミリシーベルトとなっており、さらにヨーロッパの方が高いことから地域差が見られておりますが、厳密に言うと1ミリシーベルトは安全と危険の境目ではありません。

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目標は達成されているのか

 国が目標に定めた食品からの年間被ばく量1ミリシーベルトについて、国、コープふくしま、福島県がそれぞれ調査を実施しております。

  • 国の調査結果  厚生労働省(2011〜2023年度)および消費者庁(2024年度〜)が、実際に流通されている福島産および近隣県産の食品を購入して簡易的に調理したものをサンプルとして、サンプルと同じものを1年間食べ続けた場合、2025年度の調査結果では、年間被ばく量は0.0009ミリシーベルトとかなり低い値となっております。
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  • コープふくしま(現:みやぎ生協)および福島県の調査結果  コープふくしまの調査結果では、福島県内にある50〜200件もの一般家庭で作った料理をサンプルとして調査したところ、直近2020年度で0.0095ミリシーベルトと低い値となりました。また福島県の調査結果では、避難指示解除区域を中心に対象者を選定し、1日に食べた飲食物をサンプルに調査を行った結果、最大0.0026ミリシーベルトと低い値になり、放射性セシウム及びストロンチウム90の摂取量は、日本人が過去に経験した量と変わらないと発表しております。
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トリチウムのモニタリングの概要について

 水産庁では、ALPS処理水の放出に伴い、水産物の安全性と消費者の信頼確保のため、現在もトリチウムのモニタリングとして、精密分析と迅速分析を実施しております。

 精密分析では、原子力規制委員会が示しているマニュアルに基づき、検出限界値を最大0.4Bq/kgとして、北海道〜千葉までの海域(太平洋側)で200検体程度を分析しており、精密な分析が求められることから結果公示までに約1か月半を要します。分析結果ではすべて検出限界値未満となっております。

 迅速分析では、より早くモニタリング結果が知りたいとの要望を受けて海洋放出直後(2023年)から開始したもので、採取場所は原発放出口の北側と南側の2地点で分析しており、海洋放出期間中は週4回、期間外は週1回実施しており、翌日は結果が得られる手法になっています。

 いずれも分析結果は全て検出限界値未満となっています。なお、精密分析で200検体という検査件数が妥当かどうかをご指摘いただくこともありますが、トリチウムの性質として、住んでいる海水中の濃度以上に魚の濃度は上がらないことが研究結果として発表されております。

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なお、これら放射性物質の検査結果は水産庁ホームページでも随時公表しておりますので、是非ご覧ください。

水産物の放射性物質調査の結果について(水産庁)

セミナーレポート⑥ 水産食品のための衛生要件 -HACCPと前提条件プログラム

 令和7年10月1日、「東北復興水産加工品展示商談会2025」において、「水産食品のための衛生要件 -HACCPと前提条件プログラム」と題した講演が開催されました。
 本セミナーでは、HACCPの考え方から、FDA HACCPを目指す上での基礎知識等についてご講演いただきました。

講師
一般財団法人日本食品検査
事業本部 フェロー(東日本担当)
竹内 陶二郎

はじめに

 日本食品検査(旧:日本冷凍食品検査協会)は、総合食品検査機関として、食品の試験~検査や、食品工場や店舗での衛生管理支援、HACCP及びISO22000の認証取得に向けたコンサルティング、セミナーなどを行っております。

 私自身は、約30年間実務に携わっており、これまで海外も含めて、延べ数百〜数千を超える工場を支援させていただきました。現在は仙台検査所に駐在する傍ら、大日本水産会および日本食品認定機構で実施されているHACCP講習や、HACCPシステムの導入支援、その他工場監査やセミナー講師などに従事しております。

 本セミナーでは、日本食品認定機構におけるHACCPの認定制度を土台として、水産加工会社の皆様に向けて、HACCPの基礎だけでなく、工場側・監査側双方の視点を交えつつ、衛生管理のポイントなどに触れたいと考えております。

日本食品認定機構 水産食品HACCP認定制度とは

 日本食品認定機構は、農林水産物及び食品の輸出の円滑化を図ることを目的に、水産食品加工施設におけるHACCP認定を行っている検査機関です。

 日本食品認定機構でHACCP認定を受ける最大のメリットは、現地指導に係る費用を大日本水産会から補助してもらえる点にあります。HACCP認定を受けるまでには、1~2ヵ月毎に現地指導を実施し、1年程度(最長)で認定取得を目指しますが、1回あたり13万円程度+旅費の指導費用が掛かる他、認定審査として半年ごとに3回の現地審査と、2年に1回の更新認定審査(現地審査+文書審査)が必要となり、現地審査7万円程度と文書審査13万円程度が発生いたします。

 この他にも、日本食品認定機構が認定するHACCPは、FDA(米国食品医薬品局)から適格な第三者機関として認められていることから、信用度が高いため、輸出証明書が継続的に発行しやすく、米国はもちろんのこと、香港や東南アジアに輸出する際に有効となります。

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HACCPと前提条件プログラムの関係

 食品業界ではHACCPによる衛生管理が国際標準となっており、日本でもHACCPが制度化(=義務化)されてから4年以上が経過しております。ISO、FSSC22000、JFS-A/B/Cなどの食品安全に係る様々な規格がありますが、そのすべてにおいてHACCPの衛生管理が基礎となっております。

 従業員50名以上の工場はHACCPに基づく衛生管理を、50人未満は簡略化したHACCPの考え方を取り入れた衛生管理に取り組む必要があり、厚生労働省ホームページ(HP)でも食品関連事業者が実施することとして次のように記載されております。

  • 1.「一般的な衛生管理」及び「HACCPに沿った衛生管理」に関する基準に基づき衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底を図る
  • 2.必要に応じて、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱い等について具体的な方法を定めた手順書を作成する
  • 3.衛生管理の実施状況を記録し、保存する
  • 4.衛生管理計画及び手順書の効果を定期的に(及び工程に変更が生じた際等に)検証し(振り返り)、必要に応じて内容を見直す

 これを継続的改善(PDCAサイクル)することが、食品衛生法でも食品関連事業者が取り組むこととして規定されております。

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FDA HACCPにおける衛生標準作業手順(SSOP)

 FDA HACCPでは、前提条件プログラムの土台の上にHACCPというシステムが乗っかっているという考え方をしています。前提条件プログラムとは、加工環境や従業員の衛生管理等に関するハザードを管理するもので、それに対してHACCPは原材料や製品自体のハザードを管理するものです。直接食品に触れる部分がHACCPであって、その環境を整えるのが前提条件プログラムとイメージするとわかりやすいかもしれません。

 また、FDA HACCPでは、前提条件プログラムの中でSSOP(衛生標準作業手順)を特に重視します。食品関連事業者はSSOPプランを文書化して実行することが求められており、衛生管理状態をモニタリングし、記録を保持し、継続的改善(PDCAサイクル)することが必要です。この継続的改善(PDCAサイクル)において、日本企業が特に弱いとされているのは「チェック」の部分で、不備が見つかっても○印を付けるチェック者が多い傾向にありますが、不備があれば厳しく✕にすることが再発防止に繋がります。

 SSOP(衛生標準作業手順)には、「水の安全性」「食品に接触する表面の状態および清潔さ」「交差汚染の防止」「手指洗浄、手指消毒、トイレ設備の維持管理」「食用不適とする物質からの保護」「有毒化合物の表示、保管、使用」「従業員の健康状態」「有害小動物の駆除」と、8つの食品衛生分野が設けられております。なかでも「水の安全性」は、外部機関にただ分析してもらうだけでなく、その分析結果が基準に適合しているかを確認すると共に、貯水タンクから最も離れた末端蛇口で残留塩素を測り、仮に水道に異常が見られた場合に備えて水道の配水池系統を調べておくなどの管理まで必要です。

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まとめ

 HACCPの基礎からFDA HACCPで求められるまでSSOP(衛生標準作業手順)まで触れて参りましたが、HACCPは単独では機能せず、前提条件プログラムの適切な運用によって成り立つものです。
 FDA HACCPを目指すうえで、SSOP(衛生標準作業手順)の文書化、モニタリング、記録を行ったうえで、継続的改善(PDCAサイクル)で運用を継続してください。正しく運用できれば、食品の安全性は高まり、クレームも減り、消費者に安心して食べてもらうことができます。