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企業紹介第141回千葉県有限会社スズ市水産

定番からギフトまで、海女の町から房州の魚をおいしく届ける

「子供の頃、このあたりには海女小屋(あまごや)といって、海女さんが海から上がって暖をとるための場所がありました。そこで海女さんたちがアワビやサザエに味噌を塗ったものを焚き火で焼いて食べていたのですが、子供だった私もそこに行くと食べさせてもらえたんです」

自らが中心となって自社製品の開発を進める鈴木基進さん

千葉県南部の南房総市千倉町で、鮮魚出荷や水産加工を営む有限会社スズ市水産。社長の鈴木基進さん(以下「」内同)は、少年時代を振り返りながら、同社の人気商品「天然あわび海女の味噌焼き」の開発につながる原体験を話してくれました。

「当時私が食べたものとは作り方も味付けも変えていますが、商品化にあたっては秘伝の味噌を使用して炭火焼きにするなど、味と食感にはこだわりました。この商品は千葉県の『千葉ブランド水産物』にも認定されているんですよ」

スズ市水産は他にも、「伊勢えびとはまぐりのブイヤベース」や「さばとザクザク大根の南蛮漬け」など、地元の魚を使った商品を数多く揃えています。都内の有名のシェフと開発した「伊勢えびテルミドール」は、クリスマスシーズンによく売れているそうです。

海女に伝わる伝統料理を現代的にアレンジした「天然あわび海女の味噌焼き」
伊勢えびとサザエをたっぷり使った
「伊勢えびテルミドール」

「地元産以外の魚を使うこともありますが、基本的には千倉漁港をはじめとした千葉県の港に水揚げされる魚を中心に加工しています。地元の市場には定置網漁船によって多種多様な魚が入ってきます。高級魚はそのまま鮮魚として出荷できますが、中には小型のアジやゴマサバなど、買い手の付きにくい魚もあります。うちはそのような魚種を、さんが焼きやマリネなどに加工して出荷しています」

房州の伝統的な漁師料理「アジのさんが焼き」の製造現場。
スズ市水産では新鮮な真あじなどに玉ねぎと味噌をあわせ大葉に巻いて作る
フライパンで焼くだけで手軽に漁師飯が味わえる

南蛮漬けや西京漬け、フライ製品などの定番商品と、ギフト向けの高級路線。二本柱で商品開発を進めています。

船を降りて水産加工業に転身。
都知事賞受賞により高級路線も開拓

スズ市水産が水産加工業を始めたのは1987(昭和62)年。それまでは鈴木さんの祖父が設立した前身の会社が漁船経営をしていました。

「季節ごとにサバ、カツオ、サンマを獲っていました。私も22歳の頃から船に乗っていましたが、乗組員の高齢化や水揚げ量の低下などもあり、経営が難しくなっていました。売上が例年の10分の1になった年もあります。その頃ちょうど国の減船政策があって、うちもその流れに乗ることに。船はまだ新しく、従業員からも『続けたい』という声がありましたが、水揚げが回復するかどうかも見通しが立たなかったため、事業の継続は諦めざるを得ませんでした」

この時鈴木さんは27歳。新しく水産加工業を始めようと考えますが、その仕事の経験がありません。そこでまずは他社の加工場で半年間の職場経験をしてから、自分で加工場を作ります。船の乗組員数名とその奥様方も合流するなどして、10人ほどでスズ市水産として再出発したのです。

「最初はサバ、サンマ、アジを使ってみりん干しを作っていました。もともと海で仕事をしていたことから鮮魚もやりたかったので、鮮魚部門も立ち上げました。最初は小さな工場でしたが、品質を高めるために現在の工場を建てました」

潮目が大きく変わったのは2004年。「天然黒あわび」が全国水産加工品総合品質審査会で東京都知事賞を受賞したことを機に、都内の百貨店との取り引きが活発になります。高級志向のギフト商品のラインナップが増え、表彰される品目も増えていきました。

自社製品が多くの賞を受賞。部屋の端まで多くの賞状が並ぶ

順調に成長を続けるスズ市水産でしたが、2011年の東日本大震災の原発事故の風評被害により、販路の一部を失ってしまいます。

「当社の目の前には千倉漁港もありますが、地震や津波の被害はありませんでした。別の場所に預けていた原料は津波被害によって廃棄せざるを得ませんでしたが、それよりも深刻だったのは、原発事故の風評被害です。その影響は、震災の年の夏のギフトシーズンから始まっていました。当時は千葉県のギフトも敬遠されていたので、注文は例年の半分ほどに落ち込みました」

その後、数年かけて売上は徐々に回復していきますが、もともとあった取り引きがなくなってしまったため、元に戻すのは簡単ではありませんでした。

「ただ“待ち”の姿勢でいるのではなく、むしろ積極的に商品開発、新規開拓を進めていきました。従来よりもアイテム数を増やす、従来よりも営業するマーケットの範囲を広げるといった形で進めてきた結果、震災前に近い数字に回復するところまで来ました」

機材導入で作業効率が数倍アップ。冷凍車で直送にも対応

それでもなかなか元通りというわけにはいきません。回復途上では人員不足の問題も発生し、顧客の要望に応えられないケースも増えてきたのです。そこでスズ市水産は、販路回復取組支援事業の助成金を活用して新たな機材を導入します。

「売れ筋のフライ製品やマリネなどの生産工程において、アジやイワシなどの背びれ取り作業がボトルネックとなっていました。そこで背びれ取り機を導入したところ、作業効率が5倍ほど向上しました」

さらにウェイトチェッカーも導入し、製品の重量チェックを機械化。そのことで作業効率は従来の約2.5倍まで向上したのだそうです。

正確な重量測定により品質保持にも寄与しているウェイトチェッカー

調理も行う加工場は室温の変化が大きいため、品質保持のために欠かせない空調設備も改善しました。また、近隣の量販店や飲食店に直接配送するための冷凍車を導入し、鮮度を保ったまま定時に製品を届けられるようにもなりました。

工場から取引先に製品を直送する冷凍車

地元産にこだわり続け、地域活性化にも貢献していきたい

コロナ禍に見舞われた2020年以降、外食産業からの注文は減ってしまいましたが、一方で巣ごもり消費が増え、従業員総出で対応するほど忙しい時期もあったそうです。環境の変化は今後も続きそうですが、その中でも、地元で水揚げされる魚を用いた製品づくりを続ける軸は変わりません。

「特にフライ関係に力を入れていきたいですね。通常は冷食用のフライだと衣の量が倍になりますが、薄衣で、ヘルシーで、フライパンでも少ない油でも焼けるようなフライ製品を作っていきたい。水揚げ量の関係から地元産以外を使うこともありますが、なるべく地元のもので、健康志向にこだわっていきたいですね」

ギフト商品と並行してフライ製品の生産も増やしていく

「千倉町はかつて、半農半漁の町でした。この地域には20隻ほどの大型漁船があって、漁のシーズンになると数百人という乗組員たちがいろんな店に寄って、必要なものを買って沖に出ていきました。しかし漁に出る船が減っていくとともに、地元の活気はだんだんと失われていきました。だからこそ、私たちは地元に貢献しながら事業を続けていく必要があると思います。新しい機械が入ってできることも増えたので、これからもひとつひとつのことを積み重ねていきたいですね」

千倉町でも、昨今の課題となっている後継者不足の問題が各産業で浮き彫りになっています。鈴木さんの幼少期に比べて子供の数も減り、高齢化も進んでいます。

「うちは息子が戻ってきて働き始めていますが、街全体としても若い人たちに戻ってきてもらいたいですね。このあたりはサーフィンの人気スポットで、それを目的に移住する方が増えているのは明るい話題の一つ。うちも自分たちで作ったものを東京はじめ全国に売り出しながら、房州や千葉県の魅力を発信できたらと思います」

千倉漁港の目の前に工場があるという恵まれた立地環境を生かして、スズ市水産も地元の明るい話題を増すため、これからも躍進し続けます。

有限会社スズ市水産

〒295-0012 千葉県南房総市千倉町南朝夷1193-12
自社製品:天然あわびの味噌焼き、アジのさんが焼き、各種フライ製品ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。