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企業紹介第208回福島県株式会社山吉

マグロのプロ集団が超低温凍結で広げる「魚食文化」

内陸都市の福島県郡山市には海がありません。しかし郡山市の卸売市場には、新鮮な魚が豊富に揃っています。

「郡山は古くから交通の要衝として栄えてきました。消費地にあるこの市場には、全国の港からたくさんの魚が送られてきます。郡山の飲食店で、『ここでこんなにおいしい魚が食べられるとは思わなかった』といった驚きの声が聞こえてくることもありますよ」

そう話すのは、株式会社山吉の代表取締役、山吉 隼人さん(以下「」内同)。1999年(平成11年)創業の同社は、マグロを中心に、サバやサンマなど、さまざまな魚種の鮮魚を販売しています。

「私の父(現会長の隆夫さん)が当時郡山の市場で最も古い槌屋水産という仲卸会社の営業所を間借りして、『鮮魚の山吉』を立ち上げたのが始まりです。その後『有限会社 山吉』として数人の仲間とともにマグロの仲卸を始めました。私は当時、東京でバーテンダーなどの仕事をしながらアメリカに渡る夢を追っていましたが、創業翌年に父から『人手が足りなくて困っている』と連絡がありました。強いイメージのあった父から弱音を聞いたのはそれが初めてです。実家のことは気にかけていましたし、地元に戻って父の仕事を手伝うことにしました」(株式会社山吉 代表取締役 山吉 隼人さん、以下「」内同)

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2017年から社長を務めている山吉 隼人さん

父・隆夫さんは創業前に勤めていた会社でマグロを専門に扱っていたことから、当初はその知識と経験を活かし、マグロ一本でやっていくつもりだったそうですが、取引先からの要望に応える形で他の魚種も扱うようになっていったそうです。

それでも主力商品は今も昔も一貫してマグロ。一度も冷凍されていない「生のマグロ」に強いこだわりがあります。

「冷凍のマグロももちろんおいしい。ただ、生のマグロは舌触りや、鼻から抜ける風味が違います」

震災前は郡山市内の小売店、飲食店、宿泊施設などにおいて、生マグロの販売シェアの9割を占めるほど。結婚式場や障害者施設などで行うマグロ解体ショーも人気を博し、まさにマグロを極めるプロフェッショナル集団として認知されてきました。

震災時、福島県に入ってこなかった輸送トラック

2011年(平成23年)の東日本大震災では津波による直接的被害はなかったものの、山吉も一時的に営業ができない状態となりました。

「地震で市場の水道管が破裂するなどしてインフラが止まったので、しばらく休業せざるを得ませんでした。原発事故もあったので、遠方に避難する従業員もいました。妻と子供たちもしばらくは会津地方にある父の実家に身を寄せていました。私と父と母は現場対応などからそのまま郡山にとどまり、ゴールデンウィーク明けにインフラが復旧したのにあわせて、ようやく営業を再開しました」

ところが原発事故の影響で、三陸・常磐地域から魚が全く入ってこなくなりました。そこで山吉さんは西日本の産地から魚を取り寄せることにしたのですが……。

「注文した魚が届かないので取引先に連絡をしてみたら、トラックの運転手が福島との県境を越えたくないと立ち往生していたんです。仕方がないのでこちらからトラックで県境まで行って、荷物を載せ替えて運びました。その分の経費もかさんでいきましたが、市場で人や物が動いているということが何よりも嬉しくて採算度外視でやっていました」

その後も山吉さんは営業の強化で乗り越えようとしましたが、風評被害による取引停止や漁獲量の低下、魚種の変化など課題が続きます。

「地元のスーパーからの注文で何とか売上は立てられましたが、震災前に20億円以上あった売上は毎年1億円ずつ減少していきました。数年経って風評被害は落ち着きましたが、今度は海の状況が変わって獲れる魚が少なくなり、価格も高騰していきました」

魚種によっては水揚げが増えることもありましたが、鮮魚を販売するうえにおいてそれは必ずしもいいことばかりではありませんでした。水揚げが増えるとたくさんの魚を仕入れることができますが、買った魚が売れ残るリスクもあるのです。

機器の導入による効率化で売上アップを達成

水揚げに左右されない商品の安定供給を目指すため、山吉さんは販路回復取組支援事業の補助金を活用し、プレハブ冷凍庫と超低温凍結機を導入しました。

「プレハブ冷凍庫は以前も保有していましたが、新たに導入したものはそれよりも大きく、より多くの冷凍品をストックすることができるようになりました。これまで鮮魚で販売していたマグロやヒラメを刺身に加工した後、プレハブ冷凍庫で保管しておき、水揚げがない日に出荷するといったことも可能です」

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省エネ性能にも優れたプレハブ冷凍庫

取引先に提案できる冷凍商品が増えることで、営業の幅が広がりました。しかし一方で、冷凍商品は凍結方法により品質に差が出てしまうというネックもあります。生マグロにこだわり、冷凍商品を作るうえでも「どこまで生に近づけられるか」というテーマを追求する山吉さんにとって、それはとても大きな問題です。

「魚を凍結する際には、温度が低下する過程で『最大氷結晶生成温度帯』という大きな氷の結晶が形成されやすい温度帯を通過します。この温度帯を通過する時間が長いと氷結晶が魚の細胞組織を壊してしまい、鮮度が劣化したり、身が変色したりするのですが、新しく導入した凍結機はマイナス150度という超低温で急速に凍結するので、懸念の温度帯を短時間で通過することができます」

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マイナス150度で魚を凍らせる超低温凍結機

これらの冷凍機材を活かした新商品の開発も進んでいます。その一つが冷凍マグロ丼です。地元の寿司屋の協力を得て開発された商品で、厳選された生マグロが使われています。

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冷凍機材を活用して開発した冷凍マグロ丼

「もともとこの商品は、震災での経験から生まれました。食べるものがカップ麺ばかりになってしまい、魚を食べたい時に食べられない。いつでもおいしく食べられるものがもっと増えたらいいなと思い、冷凍マグロ丼を作りました。冷凍品は凍結だけでなく解凍にも注意が必要です。この冷凍マグロ丼をおいしく食べるためには湯煎での解凍に1時間かかりますが、今後はより簡単に、電子レンジで温めるだけで食べられる形式を考えています」

今後は冷凍ちらし寿司や海鮮丼の商品開発も進め、提携するECサイトなどからも購入できるようにして販売を強化していくそうです。

街の人たちとのつながりで生まれた直営飲食店

2022年5月、山吉さんは直営の飲食店「マグロノキワミ」を郡山市内にオープンさせました。市場直送の新鮮な魚が食べられると口コミで広がり、平日も絶え間なくお客さんが足を運びます。

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マグロノキワミの店舗。イートインスペースも充実している

この店を開いたきっかけは、新型コロナウイルスによる自粛期間中の街の変化にありました。

「当時、感染拡大防止策として飲食店や宿泊施設などが休業や時短営業となり、鮮魚の注文が激減しました。外を歩く人も少なく、街全体が暗い。でも物流だけは止まっていなかったので、市場には魚がありました。このまま魚が食べられなくなるのではないかという危機感もあり、魚食文化の担い手である私たちが、街に明かりを灯すつもりでこの店を開きました」

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山吉こだわりの生マグロを使った「キワミマグロ丼」が人気

「私たちが売っている魚は、漁師さんたちが命がけで獲ってきてくれたものです。その魚を市場まで買いに来るのは、スーパーの人から小さい飲食店の人までさまざまです。とても多くの人とのつながりがあるので、いろいろな展開が生まれます。マグロノキワミのメニューも、オープン時に地元の割烹料理屋さんが考えてくれました」

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テイクアウトメニューも豊富。惣菜だけを買いに日常使いする人も

山吉さんはこの店を単なる飲食店としてだけでなく、アンテナショップとしての機能も持たせていく考えです。

「郡山は水も酒も米も魚もおいしい。でもそれがあまり知られていないんですね。魚を売りながら、同時に『伝える』ことまでするのは、効率としては悪いでしょう。でも魚食文化の担い手として、私たちがやっていかないといけないことだと思います」

「夢の話」としながらも、いつか生マグロ丼の専門店をチェーン展開したいという山吉さん。魚のおいしさ、とりわけ生のマグロのおいしさを発信しながら、どんな展開が生まれるのか期待されます。

株式会社山吉

〒963-0201 福島県郡山市大槻町字向原114 郡山市総合地方卸売市場内
自社製品:生マグロを中心とした鮮魚、冷凍マグロ丼ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。