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企業紹介第207回宮城県株式会社東北トクスイ

小ロット多品種製造の強みを生かして
新たなチャレンジへ

宮城県・塩釜の海岸に面した場所に工場社屋を構える株式会社東北トクスイ。
サケ、銀だら、ホッケ、サバ、ブリなどの切身加工のほか調味加工品の「銀だら塩麹漬」「秋鮭西京味噌漬」などを製造し、生協の共同購入品等を主体に販売しています。

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同社の人気商品「銀だら塩麹漬」(左)と秋鮭西京味噌漬(右)

同社の前身となる海渡株式会社は1988年(昭和63年)創業。1992年(平成4年)に福岡を本社とする株式会社トクスイコーポレーション(当時=徳水株式会社)のグループ会社の一員となり、翌年に株式会社東北トクスイとして営業を開始。当時から一貫して小ロット多品種の製造を手掛け、さまざまなニーズに応えるための商品開発に取り組み、販路を広げてきました。

現在、代表取締役社長を務めるのは、2025年(令和7年)6月に就任した伊藤 康之さん。

「私はこれまでトクスイコーポレーションの本社で、経営企画やコンプライアンスなどを担当していました。加工においては工場長や熟練の課長、総務や人事においては次長などそれぞれその道のプロフェッショナルがおりますので、私は自分の役割であるマネージメントをしっかりやる立場だと思っています」(伊藤さん)

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代表取締役社長の伊藤 康之さん

総務課次長の早坂 直純さんは、入社20年目。総務・経理のほか、設備のメンテナンスや人事面などを担当しています。

「生協の共同購入向けの商品は、毎日変動する受注数をもとに最終の注文数を緻密に予測しながら生産をしなくてはいけません。欠品をしないためにも日々フレキシブルな生産調整が必要になります」(早坂さん)

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総務課次長の早坂 直純さん

安定的な生産を保つため、機械の導入も同時に進めてきたという同社。しかし、作業内容によってこれも一長一短のところがあるのだとか。そこで重要になるのが人と機械のきめ細かい作業分担、人員配置だと言います。

「同じ魚種でも、味付け、規格が違ってくるため1日に製造する製品は10品目を超えます。機械を使うと設定、確認の行程を経て動き出すまでに15分前後かかるので、仮にその行程を10回やると15分×10回で150分近くかかることになり、小ロット多品種を製造する当社においては逆に非効率なんです。その点人が作業をすれば、サケの切身加工が終わった。では次はブリをやりますと頭を切り替えればすぐにできます。そこが機械にはできないんですね」(早坂さん)

このように機械化する工程と人の手を使う作業を緻密に使い分けながら、安定した供給と品質を保ち、トクスイグループの食品事業を担ってきたのです。

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工場内ではベテランと若手が混じって、ホッケを3枚におろす作業が行われていた。人の手でしかできないきめ細やかな包丁捌きだ

休業の間に失った量販店での売り場
人手不足による製造量の低下で売上は低迷

2011年(平成23年)に起きた東日本大震災では、海沿いに建つ同社を大きな揺れが襲い、製造工場が一部損壊、製造設備も大きな被害を受けました。

従業員を社屋の屋上に避難させ、人的な被害はありませんでしたが、ライフラインはストップ。設備の修理、工場内のメンテナンスを行い事業再開させるまでには3カ月を要しました。

その間に量販店等の売り場を失ったほか、福島第一原子力発電所事故の風評被害等で売上が低迷、震災直後は震災前の4割減となりました。

「それに加えて人手不足という点が大きかったですね。震災後の復興特需で建設業をはじめとする他業界でも多くの人手が必要とされていたので、水産加工業にはなかなか人が来てくれませんでした」(早坂さん)

同社の製品製造には、人の力が必須です。必要な労働力を確保できずに想定する製造量を下回り、売上は震災前の水準まで戻らない状況が続きました。

そこで同社では近年ますます進む小ロット多品種化のニーズに応え、少ない労働力においても生産量を上げるために、令和6年度の水産加工業等販路回復取組支援事業を活用し、より精度の高い金探付オートチェッカー機器を導入することにしたのです。

「人の目と機械の客観的な数値のチェック、両方が必要です。機械の誤作動などが増えてラインがスムーズに動かなくなると、人に負担が行きます。計量ではじかれた商品を取り上げ、場合によっては袋を破って元の行程に戻す。時間も労力も削がれます。こういった負荷を減らすためにも機器の精度を上げる必要がありました」(伊藤さん)

機器の導入による効率化で売上アップを達成

精度の高い金探付オートチェッカー2式の導入により、計量と金属探知の精度が上がったことで、サケ、マスの切身6,000パック分の量目を計量した場合、従来は6時間で3名必要としていましたが、同時間2名で対応可能となりました。省人化により生まれた余剰人員を、計量後の製品の搬送や作業場内の整理整頓といった業務に従事させることができるようになり、ライン全体の効率化にもつながりました。

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新しく導入した金探付オートチェッカー(左/6㎏仕様 右/3㎏仕様)
精度が上がり製造ラインのスムーズな稼働が可能になった

また、量目過不足による不良品の割合が大幅に減少し、ラインがスムーズに稼働することで、生産量が10%向上。生協向けの商品のひとつ、「CO・OP 具だくさんの海鮮寄せ鍋セット」「北海道産塩秋鮭切身」「パクッと真ほっけ一夜干し」等の商品で、計画の約1.5倍の売上を達成することができました。

自社の強みを活かして変化に対応

水産資源の減少や漁獲量の不安定化など、水産加工における課題は尽きませんが、小ロット多品種に対応する事業形態は、こういった状況下においてさらなる強みとなっています。

「これまで獲れていたサンマやサバなどの水揚げは減った一方、西の方の魚というイメージのあるブリが、近年は三陸~北海道沿岸で安定的に獲れるようになってきました。もし同一魚種を大量に加工するスタイルであれば、こういった魚種の変化はかなりのダメージになったかもしれませんが、弊社はこれまで様々な魚種を扱ってきた実績を活かし柔軟に対応しています」(早坂さん)

「もともとサケや銀だら、ホッケがメインの商材ではありますが、ブリの商材もこれらに次ぐほど取扱量が増えてきました。嗜好や消費者のニーズはじめ、世の中の変動が厳しいなかでも、買いたいと思わせるストーリーのある商品を求められる時代。それに対応した商品作りや原料確保のためのアンテナを張っていかないといけないと思っています」(伊藤さん)

また、機器の導入で製造の基盤が整った今、伊藤さんは新たな試みを考えている、と言います。

「今後はこれまで扱ってこなかった加熱加工品の商品開発にも取り組んでいきたいと思っています。魚は、加熱の加減で味が全く変わってきます。最適な状態まで火を通し、その状態を維持して販売する。地元の野菜と合わせた商品だとか、地域に根付いた商品作りも行っていきたいです。これはまだ私のアイデアだけですが、パッケージにおいしい状態で食べるための動画解説へリンクするQRコードを付けるとか。そうした付加価値のある商品ができたら、今まで捉え切れていなかったお客様を開拓できる可能性がある。当社製品のリピーターを増やす仕組みを作っていきたいですね」(伊藤さん)

もっと人材を生かせる会社に

東北トクスイでは、2016年(平成28年)からインドネシアやベトナムなどからの技能実習生の受け入れを開始。早坂さんは技能実習生が技術を習得する環境を整え、生活するうえでの困りごとの相談なども行い、安心して仕事に従事し日本で生活をするためのバックアップを担っているそうです。

現在、同社には技能実習生13名のほか、高度な技術を持つ特定技能在留資格保有者が2名在籍しています。

「彼らはモチベーションが非常に高く、技術の習得も早いですね。ベトナム人の特定技能1号のうちのひとりが、このままトクスイで働きたいと、さらに高度な技術を必要とする特定技能2号の試験を独学で勉強して合格し、正社員主任職になりました」(早坂さん)

「彼にはいずれ課長クラス、マネージャーとしての役割も担ってもらって、若い従業員のロールモデルとなって欲しいと思っています」(伊藤さん)

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ベトナムから来日、特定技能2号を取得、正社員としてリーダーを務めるラムさん

また、同社の強みである小ロット多品種の製造は、「今働いてくれている従業員のみんながいなければ成り立たない」と強くおっしゃるおふたり。長く働いてもらうためにはどうすればいいかというのは常に課題なのだとか。

「働き方も多様化していますので、生活の中での仕事のウエイトはライフステージで変わってきます。うちの会社の条件に合う人に来てもらうという考え方ではなくて、多様な働き方に寄り添える会社にならないと生き残っていけないでしょう」(早坂さん)

「若い人たちが定着することは、技術継承の面も含め強みになります。継続して働いてもらうためには、子育て世代の方でも働きやすいよう時短勤務などの就業形態を整えることも必要です。そうした働く人のニーズにも応えていきたいと思っています」(伊藤さん)

人を生かし、会社の強みを活かす。東北トクスイのチャレンジは、まだまだ続きます。

株式会社東北トクスイ

〒311-1211 宮城県塩釜市新浜町3-3-17
自社製品:サケ、銀だら、ホッケ、サバ、ブリ等の切身加工および漬魚加工

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。