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企業紹介第209回茨城県有限会社マルイチ仙台屋商店

100年続いた味を守りたい。
そんな祖父の願いに応え、家業を継ぐことを決心した

茨城県の北端、福島県との県境に位置する大津漁港は、茨城県内でも有数の巻き網漁が盛んな港です。大津は江戸時代から明治維新までは水戸徳川家の領地であり、当時から漁業が盛んでした。そのような歴史のあるこの地で、江戸時代より魚に関わる仕事を代々続けてきたマルイチ仙台屋商店。1979年(昭和54年)の法人化以降も、時代の変化に合わせて形を変えながら、常磐沖で水揚げされた原料を使った産地ならではの製品づくりを続けています。

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有限会社マルイチ仙台屋商店 代表取締役 鈴木 均一さん

マルイチ仙台屋商店主力製品は、何といっても「しらす」。大津港で水揚げされたばかりの鮮度の高い原料を厳選しています。茨城県北部のしらすは「常磐もの」として名高く、その風味を損なわないよう、水揚げ後は迅速に加工・急速冷凍を徹底。2021年(令和3年)には水産エコラベル(MEL)の流通加工段階(CoC)認証を取得し、管理体制の更なる強化を図っています。

そのしらすの加工で、何より大事にしているのは「鮮度」だと鈴木さんは言います。

「しらすはカタクチイワシの稚魚ですが、イワシ(鰯)は、漢字で書くと”弱い魚”になります。その稚魚ですから、とても繊細なんです。そのため、白く透明感のある鮮度の良いものを仕入れ、しらす本来の風味や食感を保つため水揚げ後1秒でも早く加工し急速冷凍をしています」(有限会社マルイチ仙台屋商店 代表取締役 鈴木 均一さん、以下「」内同)

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原料は鈴木さん自ら買い付け。鮮度は商品の品質に直結するため、品質の良いものだけを仕入れている

家業の苦境を目の当たりにし、家を継ぐことを決心した

東日本大震災では大津港に高さ5mの津波が押し寄せ、漁船や漁港設備に甚大な被害を受けました。マルイチ仙台屋商店も、工場が大規模半壊となったほか、1週間ほど停電が続いたため、自社や港の冷蔵庫に保管してあった製品はすべて廃棄となってしまったのです。

当時社長だった鈴木さんのお父様がなんとか事業を再開しましたが、漁船の被害が大きく操業停止が続いたことで、原料確保が困難となりました。さらには福島第一原発事故による風評被害により注文も減少。マルイチ仙台屋商店はかつてないほどの苦境に立たされました。

そのとき鈴木さんは東京で水産とは無関係の異業種に従事していましたが、この状況を目の当たりにし、「家業を絶やしたくない」という強い思いから会社を継ぐことを決意しました。

「父親は、『好きなことをやれば良い、無理に継がなくても良い』という考え。でも祖父は受け継いできた家業を絶やしたくない、港があるうちは続けて欲しいと話していて。その当時、私もちょうど30歳で昔と考え方が変わってきてたんでしょうかね。”自分も、この家業で育ててもらったんだよな”と、受け継いできた味を残したいと思うようになりました」

現在は、弟さんと一緒に兄弟二人三脚で、震災前より少ない10名弱の体制ながらも、従業員の若返りを進めながら、会社の再生を図っています。

選別機の導入で釜揚げしらすの生産効率と品質が大きく向上

しらすは、繁忙期になると、1日に3~4回競りがあり、数十トンと水揚げされるため、鈴木さん1人で仕入れから加工までを担う事はとても困難です。そこで、鈴木さんが原料を買い付け、弟さんが工場で加工を取り仕切るように分業制に変更。このことで、震災前を凌ぐ生産体制を確立することができました。

そんな新生マルイチ仙台屋商店が、現在精力的に生産に取り組んでいるのが、釜揚げしらすです。

「昔ながらの天日干しのしらすも根強いニーズがありますが、釜揚げしらすを望む取引先が多くなっています。釜揚げしらすは、ちりめんじゃこなどと比べて乾燥(干す)させる工程が無く、天候の影響も受けにくいこともあり、積極的に生産して行こうと思いました」

しらすの原料には、小さなエビ、カニ、海藻などの「不純物」が混ざっているため、これらを取り除く必要があります。しらす干しや、ちりめんじゃこなどの場合、干す過程で体積が縮む際、ある程度の不純物が自然に取り除かれるのだそうですが、「干す」という工程がない釜揚げしらすの場合には、これらを取り除く手間がしらす干し以上にかかり、増産に向けての障壁となっていました。そこで、この課題を解決するため販路回復取組支援事業を利用して導入したのが選別機です。

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導入した選別機
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釜ゆでしたしらすを風で吹き飛ばし、その中に混じるエビやカニなどを除去する

従来、異物除去の工程は人の目だけで行っており、不純物を一つずつ手作業で取り除く作業は非常に細かく従業員にとって負担が大きいものでした。しかし、機器の導入により不純物の除去工程を自動化したことで、作業負担が軽減されたほか、時間も大幅に短縮。また、省人化が叶ったことで、人材の配置もスムーズになったといいます。

こういった効果が積み重なり、除去精度を上げながら、2割の増産が可能になったことで、市場でも品質が高く評価されるようになり、販路の拡大にもつながっています。

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マルイチ仙台屋商店特製の釜揚げしらす

変わらない味を、これからもこの地で

鈴木さんが後を継いでから、マルイチ仙台屋商店も少しずつ様変わりしています。もともとはしらすが旬を迎える3カ月間に集中的に仕事をし、それ以外の期間は比較的ゆっくり過ごすというスタイルだったのだそう。しかし震災時、しらすの供給が途絶えてしまった時の反省を生かし、しらす以外のシーズンでも仕事ができるよう少しずつ扱う魚種を増やしているのです。努力の甲斐あって「しらす専業」から、売上の1割をしらす以外の魚で担えるほどに育ってきました。

もう1つ、鈴木さんが新たに手掛けたのが直売所の開設です。

「塩加減や煮る時間、干し方といった職人の感覚や製法を重んじつつ、代々続くこの味を地元の方に提供していきたいという思いで直売所を立ち上げました」

ここでは、お客様との対話を大切にしながら、しらすに加え、約20品目の魚種・加工品を展開し、季節やニーズに合わせた多彩な製品を提案しています。最近では、知人からいただいて味を気に入ったと、裏面の住所を見てわざわざ訪れてくれる人もいるのだそう。一度、直売所で商品を購入したら、その鮮度とリーズナブルさに惹かれてリピーターになってくれる方も多いのだとか。

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工場のすぐ隣にある直売店。地元の方はもちろん、遠方から足を運ぶお客さんも多い

「震災前は魚の状況にあわせて大津と福島で自由に行き来ができていましたが、今はまだ制限があって大津港の水揚げは震災前の水準には戻っていません。加工業者も少なくなり、地元の方でも、この地域で獲れた魚を食べる機会が減っています。うちの商品が大津の美味しい魚に出会うきっかけの一つになればいいなと思っています」

家や地元の伝統を守ることに主眼を置く。この堅実な姿勢があればこそ、マルイチ仙台屋商店は、今後もその味を守り続けていくことができるのでしょう。

有限会社マルイチ仙台屋商店

〒319-1704 茨城県北茨城市大津町北町3555-1
自社製品:釜揚げしらす、しらす干し、ちりめんじゃこ、いわし煮干し、メヒカリ加工品、地魚干物 ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。