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企業紹介第211回宮城県有限会社ムラカミ

フリーズドライの新食感で規格外ワカメを人気商品に

宮城県気仙沼市で1975年(昭和50年)頃から塩蔵ワカメを主力に水産加工業を営んできた有限会社ムラカミ(当時は村上商店)。同社専務の村上健太さんによると、村上家では、とある“伝説”が語り継がれているのだそう。

「気仙沼へのアクセスが悪く、観光客の方々も仙台から松島までしか来られなかった頃に、創業者である祖父(力男さん)が、お土産用の塩蔵ワカメを売り込もうと松島へ足を運んだんです。そのとき『何があっても絶対にこの店に置くんだ』とピンと来たおみやげ屋さんがあったそうで、実際に置かせてもらえるようになると、その直感通り大ヒットしました。当時は三陸道もありませんから、でこぼこ道を片道2時間かけて毎日気仙沼から納品し、繁忙期には1日に2往復することもあったといいます。この1軒のお土産屋さんとの出会いが、会社として成長していく原点になったと聞いています」(有限会社ムラカミ 専務取締役 村上 健太さん、以下「」内同)

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仕入れや営業を担当する専務の村上さん。自らトラックを運転することも

それまでワカメといえば生をそのまま干したものが主流でしたが、日持ちする塩蔵ワカメが登場し、食卓に広がり始めた時代背景とも重なり、ムラカミの商品はよく売れたそうです。自動車販売の仕事をしていた村上さんの父(現社長の健さん)も会社を辞めて、事業を手伝うようになりました。

「その後、時代が進むと交通の便がよくなって、地元気仙沼の観光ホテルも賑わうようになっていったんです。そんな中、父の前職の上司がたまたまそのホテルとつながりのある方で、縁あってムラカミの商品をお土産コーナーに置かせてもらえることになりました。最初は納品するだけだったんですが、ホテルの方から『朝食後におみやげコーナーに立ち寄るお客さん向けに、朝市をやってくれないか』と頼まれるようになって、そこで1パック300円の塩蔵ワカメを4パック1,000円で販売したところ、飛ぶように売れたそうです。ほかにも海藻サラダや塩蔵コンブなんかも並べて大盛況となり、祖父母はそれから30年間、365日休みなく毎朝ホテルへ通い続けていました」

「作れば売れる」といういい時代が続きましたが、やがて観光ブームが去ると、今度は量販店向けの商品も手掛けるようになります。高校卒業後、スーパーマーケットの鮮魚部門で働いていた村上さんもムラカミに合流。小分けパックのワカメや、コンブの佃煮などを作って販路を拡大しようとしていたところで、東日本大震災に見舞われました。

震災後スーパーマーケットに出戻り“再修行”

「震災の地震発生当時、私と父母は事務所にいましたが、工場にいた従業員はすぐに避難を開始していて無事でした。消防団に所属していた父は水門を閉め、母は事務所の通帳を持って車3台を高台に上げました。私は妻と子供、祖父母を避難させました」

避難の開始が早かったため人的被害はなかったものの、当時の自宅兼工場は津波で流されてしまいました。

「津波は近くにあった高校の4階にまで達していました。翌日自宅を見に行ったら建物は何も残っていない。かろうじて玄関の床だったところが分かるくらいでした。電気も水道もストップしているので、私は妻の実家で、父母らは中学校で避難生活をしました」

事業再開の見通しが立たなかったため、村上さんは父・健さんの進言により、震災翌週には一度退職したスーパーマーケットの鮮魚部門に復帰しました。ここでの勤務は5年間に及びました。

「24歳から29歳のこの期間が、私にとって本当に勉強になりました。特に数字に強くなったと思います。仕入の時に、いくらで買うかだけでなく、いくらで売れるかまで計算できている。当時の上司にはたくさん教えていただいて、今でも連絡を取っています」

一方、ムラカミでは震災翌月からワカメの出荷を再開しました。保管用冷蔵庫の原料が、被災を免れていたのです。当初は親戚の農機具庫を借りて出荷作業をしていましたが、その後、知り合いの伝手で仮設工場に移転。ワカメの袋詰め、コウナゴの煮干しの袋詰め作業でつなぎ、村上さんも戻っていた2018年(平成30年)に現在の新工場が完成しました。ここでは塩蔵ワカメの加工のほか、乾燥商品の詰め加工なども行われています。

「ハード面では100%回復したといえます。しかし売上としてはまだ震災前の8割から9割くらい。原料価格の高騰や原料不足で作れるものが減り、回復のネックとなっています。時間が経つに連れ、一般家庭の食卓にも変化がありました」

簡単で便利な商品が好まれる時代になり、塩蔵ワカメ離れが進んだのです。ニーズに合わせた商品開発が求められる中で、2019年(令和元年)7月に海藻の即席みそ汁「MISO SOUP」を発売しました。

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現在5種のラインナップを揃える「MISO SOUP」。お湯を注ぐだけで、豊かな味噌の風味にねぎの甘み、海藻の磯の香りが合わさって、即席とは思えない贅沢な一杯ができ上がる

社長自らが目利きしたワカメなどの宮城県産・三陸産の海藻類、南三陸のねぎ、大崎市の老舗メーカーが手がける焼麩などの具と、このために作られたオリジナルの仙台味噌を使った調味味噌が入った商品で、パッケージも南三陸町志津川出身のデザイナーさんが、気仙沼市の景勝地『岩井崎の荒波』をモチーフに墨で描いたもの。中身から外装にいたるまで、とことん地元産にこだわっています。

また2022年(令和4年)には宮城県水産加工品品評会にて農林水産大臣賞を受賞。「MISO SOUP」は人気商品となり販路も広がっていきました。

フリーズドライ加工の内製化で生産をコントロール

「MISO SOUP」は評判となっていったものの、製造工程が複雑なため増産しづらく、さらなる新商品を考える必要がありました。そして料理研究家の監修のもと完成したのが、オリーブオイル、塩、アーモンドなどを合わせた「チーズdeわかめ」です。

「試作段階では、通常のワカメを使っていましたが、水分のあるワカメが傷みやすいという弱点がありました。そこでワカメを急速凍結させて乾燥させるフリーズドライで加工したところ日持ちするようになり、これまでにない食感を出せるようになりました」

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自社ホームページや物産展、おみやげ屋、直売所などで販売している「チーズdeわかめ」

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「MISO SOUP」に続き、「チーズdeわかめ」も宮城県水産加工品品評会にて農林水産大臣賞を受賞

販売を開始後、その食感が話題を呼び、テレビの情報番組に取り上げられることもありました。引き合いは順調に増えましたが、「チーズdeわかめ」にも課題がありました。フリーズドライ加工を外部に委託していたため、生産数量を伸ばすことが難しかったのです。

そこで村上さんはフリーズドライ加工を内製化すべく、令和7年度の販路回復取組支援事業の助成金を活用し、棚式凍結乾燥機を導入しました。

「最大3キロ載せられる皿3枚分を同時にフリーズドライ加工することができます。1回あたり9キロまで可能ですが、量が多いほど乾燥に時間がかかるので、半分の4.5キロで稼働させています。乾燥に48時間、凍結に10時間、合計で3日程度かかります」

フリーズドライ加工を内製化することにより、生産数量をコントロールし、委託費用を抑えることにも成功しました。数量限定生産の現在はまだフル稼働していませんが、販路が広がれば稼働回数を増やすことも考えています。

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フリーズドライで原料を乾燥させる棚式凍結乾燥機

商品開発も人間関係も「継続は力なり」

「チーズdeわかめ」開発の背景には、近年の海水温上昇により、変形や変色のある規格外品のワカメが年々増えているという事情もありました。

「規格外品のワカメは味も栄養も通常のものと変わらないのですが、売れずに廃棄されるため、生産者の方も困っています。『チーズdeわかめ』のワカメはカットされて商品になるので、加工前の形は関係ありません。またフリーズドライ加工後は、規格外品でも色がよくなります。私たちが規格外品のワカメを購入することで生産者の方にもメリットがあるので、資源を有効活用していきたいですね」

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ワカメ、カキ、ノリなどの養殖が盛んな気仙沼湾

今後は展示商談会などでも販路を開拓していきたいという村上さん。棚式凍結乾燥機を活用したワカメ原料以外の新製品開発も構想しており、栄養豊富なカキのゆで汁をフリーズドライ加工するなどの新たな試みが行われています。

「当社は、ワカメの加工場としては恵まれた土地にあります。目の前に海があり、ワカメの入札所もある。『ムラカミから買うと確かなものが手に入る』と言われるように、本当にいいものを提供していきたいですね」

父・健さんからは、「継続」を大事にするようにと言われている村上さん。とりわけ人間関係の継続は、祖父の代から続くムラカミの基盤となっています。

「祖父も父も、人のつながりで販路を拡大してきました。祖母も朝市で知り合った人から直接電話で注文を受けるなど、出会いを大切にしています。私も友人に商品パッケージのデザインを依頼するなど、つながりをベースにしているところは似ているかもしれませんね」

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2020年から刷新した包装紙のデザインは村上さんの友人であるマスキングテープちぎり絵作家の尾形 綾美さんが担当

家庭優先の働きやすい職場環境を提供しているムラカミは従業員の定着率も高く、社員旅行の開催を目指して積み立ても開始したのだとか。関わるすべての人たちとのつながりが、新商品開発、販路開拓を継続する原動力となっています。

有限会社ムラカミ

〒988-0251宮城県気仙沼市波路上内田126
自社製品:塩蔵ワカメ、「MISO SOUP」、「チーズdeわかめ」ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。