陸奥湾で水揚げされるホタテの加工業者として、長く地場産業の支柱ともいえる役割を果たしてきた成邦商事株式会社。1980年(昭和55年)からフランスへ向けて冷凍ホタテ貝柱の輸出を開始。その後、アメリカ、オーストラリアをはじめ世界各地に輸出を拡大するなど、「青森の海から、世界へ」という同社キャッチフレーズどおりの事業展開を行ってきました。現在は、海外向け冷凍貝柱ほか、国内向けの冷凍ベビーホタテ、干し貝柱、ベビーホタテを利用した二次加工品などを生産・販売しています。
代表取締役を務めるのは、二代目の笹原 真さん。18歳で家業に入ってからこれまで、陸奥湾のホタテを活かした「安全」と「おいしさ」を追求し続け、その品質は国内外から高い評価を得ています。
創業は、1965年(昭和40年)。水産会社の漁船乗組員だった笹原さんの父、重道さんが、減船に伴い船を降りたのを機に、青森市駅前の市場で、地元青森県・平内町から仕入れた鮮魚を販売したのが始まりです。
「それまで船乗りだった素人ですから、当初は商売もうまくいかなかったようです。その後陸奥湾でホタテが揚がるようになり、そのホタテを仕入れてボイルして売り始めました。ドラム缶を切って作った手づくりの窯でボイルしたホタテを串打ちし、市場に卸し始めたところ、よく売れたようで、これを機にホタテに専念していったそうです」(笹原さん)
1972年(昭和47年)に青森市浦町奥野へホタテ加工場を設立したのち、1974年(昭和49年)に成邦商事株式会社を設立。翌1975年(昭和50年)には現在の地に本社を移転し、さらなる事業拡大に向けて新たな加工場を新設しました。
「最初の工場用地は住宅地だったので、商業目的の工場は建てられない場所でした。それでも先代が市役所に何度も足を運び、『ごんぼほって』(笑)。津軽弁で『駄々をこねる』という意味なんですが、本当にそのくらい必死に食い下がって、3年間の期限付きで許可を取り付けたそうです」と話すのは、現在総務部長を務める小野 俊一さん。
小野さんは、設備投資計画の立案をはじめ、主にファイナンスや労働環境整備面で同社を支えています。
本社工場移転の5年後には、同敷地内に冷凍工場を新設して輸出事業に着手。1997年(平成9年)に対米輸出水産食品加工施設のHACCP認定を取得すると、2001年(平成13年)には国内第1号となる対EU輸出水産食品取扱施設のHACCP認定を取得するという快挙を成し遂げました。
「当時は国内に認定機関すらなく、フランスから査察団を招いて3度目の検査でようやく掴み取った認定でした。国内でも衛生管理の厳格化が叫ばれ始めた頃であり、いかに管理の精度を高めていくか、徹底して品質向上に向き合い続けた時代でもありました」と笹原さんは話します。
笹原さんが代表取締役に就任したのは、2010年(平成22年)。前年に創業者の父・重道さんが逝去し、事業を引き継いだ翌年の3月、東日本大震災が発生します。
「就任した年は高水温で陸奥湾のホタテが大量死し、翌年の大幅な減産が決まっていた年でした。そこに震災が追い打ちをかけ、本当に大変な時期でした。父に続き、母も震災の1か月前に亡くなったのですが、あの悲惨な光景を見ずに済んだことだけは、せめてもの救いだったのかもしれません」と笹原さんは当時を振り返ります。
本社や工場への直接的な被害は免れたものの、原発事故に伴う各国の禁輸措置が追い打ちをかけます。当時、全売上の50%を占めていた輸出が止まったことで、大幅な減収を余儀なくされました。それでも、震災前から国内向け商品の開発を模索していた同社は素早く舵を切り直します。国内での販路を回復・拡大させるべく、ベビーホタテの品質改良へと乗り出したのです。
「当時、主に外食業界から2つの大きなご要望をいただいていました。ひとつはホタテの貝殻破片の混入防止、もうひとつはボイルによる旨味の流出を防ぐことです。まず混入対策として、2015年(平成27年)にX線異物検出機を導入しました。これにより異物混入のクレームが99%減り、大きな成果を上げることができました。もうひとつの課題である味については、ホタテの蒸し加減を徹底的に研究し、旨味を最大限に残せるベストな条件を追求していきました」(笹原さん)
トンネル型スチーマーでのホタテの蒸し時間や、入口付近と出口付近での温度調整、スチーマー投入前の原料の洗浄方法に至るまで、膨大なパターンを組み合わせて試行錯誤を重ねたそうです。
「原料が入ってくるのは4月から7月の間だけです。この期間にすべての原料をボイルするため、テストできるのもこの時期しかありません。つまり、試作は年単位での繰り返しになるわけです。さらに『安全性』と『品質』、この双方が揃わなければ意味がありませんから、細菌の経時検査も徹底的に重ねました」(小野さん)
品質改良に取り組んでから足かけ5年の歳月をかけて納得の味にたどりつき、2020年(令和2年)に発売されたのが「うま蒸しベビー」です。中心部に絶妙なレア感を残すことで、パサつきのない柔らかな食感と、陸奥湾産ホタテが持つ本来の旨味と甘みを最大限に引き出しています。
2021年(令和3年)からは、株式会社青森銀行(現・あおもり創生パートナーズ株式会社)や青森県よろず支援拠点による継続的な伴走支援のもと、「うま蒸しベビー」を利用した二次加工品の開発をスタートさせました。そうした取り組みを経て、2022年(令和4年)には、ホタテの唐揚げ「クリスピーボール」や「ほたてフライ」を発売。あわせて青森県の物産展などにも積極的に出店し、消費者の声を直接聞くことにも注力しました。
「催事の場で調理済みのものを提供すると、『おいしい』と喜ばれるのですが、ご家庭で揚げ物をするのはハードルが高いようで、それが購入の障壁になってしまうのが課題でした」と小野さん。
そこで、開発に着手したのがレンジアップ商品です。
「レンジアップだけでできる商品ができないかなあ、と考えていてひらめいたんです。ホタテの貝焼きみそはどうだろうと。試してみたら……『できたあ!』って(笑)」(笹原さん)
貝焼きみそとは、江戸時代に漁師たちがホタテの貝殻を鍋代わりに、焼き干しをだしに入れ、ホタテなどの食材を味噌で煮込み、溶き卵を入れて食べたのが始まりとされる青森県を代表する郷土料理です。
笹原さんのひらめきから生まれた「ほたて貝焼きみそ」は、調理に適したパッケージ素材の検討、使用原料の吟味を経て、2024年(令和6年)に商品化され話題となりました。メディアでも多く紹介されヒット商品となり、令和6年度青森県特産品コンクールの「青森県知事賞」、令和6年優良ふるさと食品中央コンクール「新製品開発部門」農林水産省大臣官房長賞を受賞しました。
さらには、ホタテの貝ひもをカリカリに揚げ、青森県産ガーリックや塩、のり塩などで味付けした「ホタテ貝ひもチップス」も発売しました。郷土色豊かな新感覚おつまみとして、道の駅やお土産店などを中心に販路を広げています。
これらの商品を支えているのが5年をかけた「うま蒸しベビー」の味です。
「『安心』と『おいしさ』。この『うま蒸しベビー』の味にたどりつかなければ、二次加工品開発には踏み切れませんでした」と笹原さんは商品への自負を語ります。
新商品の開発や販路拡大への取組より、売上は震災前の水準に向けた回復軌道に乗りつつありましたが、さらなる成長を実現するには、コスト高騰に応じた価格転嫁を進める「高付加価値化」と、大口需要に応える「生産能力の向上」が急務でした。
そこで同社は、これらの課題を解決すべく「販路回復取組支援事業」を活用し、最新機器の導入に踏み切りました。
ボイル工程では、高効率なふるい機能を持つバイブレーション分離機を導入。貝殻が大きく振動して割れるのを防ぐため、振動の幅を調整し、異物混入防止の強化を図りました。実際に貝殻が欠けることなく身と分離できており、微小な異物混入を防ぐ高い効果を実証しています。
それに続く冷却工程でも、冷却コンベアの導入により1次冷却の効率化を推進。従来の機器に比べてホタテの深部温度を約2℃低く抑えることが可能となり、製品のさらなる食味向上を果たしました。
「ボイルの仕方も重要ですが、それを一気に冷やす能力とセットではじめて旨味を残すことができます。冷却が緩慢だと、自分の熱で品質が落ちてしまうのです」と笹原さん。
また、2次加工品である「ホタテ貝ひもチップス」の製造ラインには、オートフライヤーおよび金属検出機を導入しました。フライ処理から袋詰め後の金属混入検査までを一元化したことで、従来は7名で60kg/日だった生産体制が、5名で80kg/日へと拡大。大幅な省人化と生産性向上を達成しました。
そして、製品の最終工程を担う包装ラインには、新たにエアコンを増設しました。
「天井が高く広々とした包装工場内でも室温のムラが出にくくなるよう、空調設備を強化しました。真夏や真冬でも一定の温度を保つことは、品質維持の目的はもちろんのこと、従業員が快適に作業できる環境づくりにおいても欠かせません」と小野さんは言います。
こうした現場の品質向上や生産効率化の取組は、深刻化する原料不足という新たな苦境においても大きな真価を発揮しています。
陸奥湾産のホタテは深刻な原料不足に見舞われており、2025年(令和7年)は原料となるホタテ半成貝の水揚げ数量が平年の3分の1に激減し、入札価格は約1.8倍まで高騰。2026年(令和8年)の水揚げも前年を下回る見込みです。
そうした厳しい環境下において、今回の取組で2次加工品の製造強化を図ったことは、原料が限られる中でも工場の稼働を維持しながら最大限の価値を生み出し、売上の再成長に向けた重要な一手となりました。
今後の事業展開について、笹原さんは次のように話します。
「『レンジアップ×青森県の郷土料理』を当社のフラッグシップとして、どんどんシリーズ化していきたいですね。『ほたて貝焼きみそ』は、レンジから一旦取り出して溶き卵を入れるのですが、そこで旬の食材を加えるなど、ご家庭でアレンジして楽しく調理ができるのもポイントにしています。ベビーホタテは、とても使い勝手の良い素材なんですよ。この商品を食べて、『おいしいな、これなら自分でも作れそう』と思ってもらえたら、次は素材のベビーホタテそのものを購入していただけるかもしれない。そうした相乗効果も期待しています。これからも青森県産のベビーホタテの魅力を、より多くの方々へ届けていきたいですね」
二次加工品の商品開発や販路拡大は付加価値を高めることに加えて、工場の稼働率を上げて雇用を守ることもできることも目的のひとつだとおふたりは言います。新商品の開発や販促には、笹原さんの息子である啓生さんも中心となって関わっているそうです。
この仕事に携わって50年余りの笹原さん。「まだまだ、社長には前を向いて走ってもらわなければ」と小野さんは話します。
笹原さんは、商品開発への思いをこう語ってくれました。
「青森は県外への人口流出が続いています。だからこそ、地元を離れた人たちが県外で郷土を思い出し、ほっと懐かしんでもらえるような商品を作っていきたいんです。そのためにも、全国へ私たちの味を届けていくことが大きな目標ですね。いまホタテの減産という大きな試練に直面していますが、生産者である漁師さんと加工業の私たちは、どちらが欠けても成り立たないパートナーです。明るい未来をつくるために、同じ方向を向いて歩んでいきたいですね」
成邦商事が届けるベビーホタテが、この地を愛する人々の食卓を彩り、ふるさとへの思いを繋いでいく。陸奥湾の恵みと真摯に向き合い追求し続けたその味を原動力に、同社はこれからも未来へと挑戦を続けます。
成邦商事株式会社
〒030-0112 青森県青森市八ツ役芦谷268−1自社製品:ホタテガイ一次加工品:冷凍貝柱、ベビーボイルホタテなど二次加工品:クリスピーボール、ほたてフライ、ほたて貝焼きみそ、ほたて貝ひもチップスほか
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。