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企業紹介第143回宮城県株式会社丸ほ保原商店

時代のニーズを先読みしながら
石巻近海の原料にこだわり続ける

カキ、ワカメ、メカブなどの加工・販売を手掛ける宮城県石巻市の株式会社丸ほ保原商店。
1968年の創業以来、取り扱う品目を少しずつ増やしながらも大事にしているのは「地元産」を使うこと。石巻を中心とした三陸産の原料にこだわり、主力製品以外ではウニやホヤなども扱っています。社長の保原敬明さんは、取り扱い品目の変遷をこう語ります。

時代のニーズに合わせた製品づくりをする
2代目社長の保原敬明さん

「もともと県の漁協に勤めていた父が、その経験を生かして最初はアワビの仕入れから事業を始めました。しかしそれだけでは経営が安定しなかったため、のちにワカメやコンブの加工にも乗り出します。健康ブームもあってワカメは人気食材の一つでしたが、食卓ではあくまで脇役。売上もだんだん下がっていきました。メカブの加工を始めたのは、私が父の跡を継いでからです。メカブにはこれまでの食材と違った即食の需要がありました」(株式会社丸ほ保原商店 代表取締役 保原敬明さん 以下「」内同)

保原さんが始めたメカブの加工品は、現在は同社の主力製品となり、売上の半分以上をメカブ製品が占めているといいます。それにカキ、ワカメと続きます。カキは生カキだけでなく、あぶり焼や燻製加工品として出荷されています。

桜チップでいぶした香り豊かなカキの燻製

飛行機を乗り継いで韓国へメカブを緊急買い付け

2011年の東日本大震災では、石巻湾の海岸から500メートルほどの場所にある丸ほ保原商店の本社工場にも津波が押し寄せました。海と本社工場との間にあった松原や学校によって津波の勢いは弱められたものの、工場1階の天井近くまで浸水しました。

本社工場内の階段に当時の浸水高(3.5メートル)を表示している

「従業員は浸水被害のなかった2階の事務所に避難していて無事でした。地震当日、私は仙台で入院していたので本社にはおらず、4日後に石巻に入りました。本社工場は全壊したものの、冷蔵庫の高い場所に置いてあった原料は無事だったので、それらを近くの第2工場に移しました」

内海の万石浦に面した第2工場は津波被害を免れた

震災後、とにかくがむしゃらだったという保原さん。特に大変だったのは震災直後の原料調達です。地元産にこだわってきたものの、メカブは国内でも原料が手に入らない状態。保原さんは震災発生の翌月4月に花巻空港から伊丹空港、関西国際空港を経由して韓国に飛び、原料を買い付けます。

「停電で一時的に使えなかった第2工場も4月から再開しました。その後、国内でも原料が買えるようになり、2014年には本社工場の隣に新しいメカブ工場が完成しました。ラインがまっすぐに延びた工場なので、効率的に作業できます。充填からパックまでの工程で、人の手が製品に触れることはないので衛生的です。もっと稼働率を高めていきたいところですが、依然として原料不足と労働力不足の問題が続いてきます」

売上の回復はまだ8割5分程度。被災から立て直している間にも需要は変化し続けており、既存製品をただ増やすだけでは震災前の状態に戻すことは困難でした。

デュアルX線検査装置でスピードも精度も飛躍的に向上

このような状況を打破するため、丸ほ保原商店は、販路回復取組支援事業の助成金を活用してデュアルX線検査装置というカキ製品の異物を除去する機械を導入します。従来の金属探知機よりも高性能で、細かな金属片はもちろん、肉眼では見えないカキの殻なども見分けられます。これにより異物混入リスクが低減し、食品の安全性がさらに高まりました。

X線で瞬時にチェックし、異物の入ったカキは重量分別の手前で除去される

さらに、デュアルX線検査装置に連結するコンベア類も導入。重量分別の機能もセットで付いており、作業効率が3倍に向上しました。

「これまで手作業でカキの重さを量って選別していましたが、今は機械が自動で選別してくれます。一日8万粒を選別でき、より細かいグラム単位で分けられるようになりました」

導入した一連の装置。以前より少ない3人で稼働させている

工場内ではフライ用の粉付け加工まで行っています。カキは一定の大きさがないとフライ加工に向かないため、粉付けの前には選別が必要です。そんなつながりから、今回の機材はフライ用製品の増産にも寄与しています。

「脱プラスチック」など最新トレンドも見据えながら

2020年、2021年とコロナ禍に見舞われる水産加工業者も多い中、丸ほ保原商店にはどのような影響があったのでしょうか。

「外食向けの生ガキの出荷は減っていますが、当社はスーパーなど量販店向けへの出荷が中心なので、そこまで大きな影響はありません。今後もトレンドを見ながら製品づくりを考えていくつもりです」

昨今、消費者からのニーズが高まっている簡便商品も、保原さんは「もっと簡便なものを作らないといけない」と考えています。そして、さらに先のニーズも見据えています。

「これからは環境問題が大きなテーマになるでしょう。食品業界でも脱プラスチックの流れがある。紙やプラスチックの代替品として期待されている石灰石を使用した容器などは、メカブ製品の容器としても使えそうなので、当社としても注目していきたいですね。食品業界も環境問題に向き合わないといけない時代。需要はあると思います」

そんな未来志向の一方で、足元も見続けています。

「震災後は、お客さまが残ってくれるかどうかも分からない中で、原料の調達から工場の再建まで、すべて手探りで進めていました。大変なことの連続でしたが、条件はみんな同じだと思ってやってきました。こうして今私たちが事業を続けられているのも、地元の皆さんのおかげです。これからも地元の原料を使っていくことにこだわり続けたいですね」

震災直後、保原さんは津波で被災した地元の養殖業者のために、棚やロープなどの資材を海外から取り寄せて再開を支援しました。生産者の事業再開は、自分たちの再生のためにも不可欠でした。父子2代でこだわってきた、地元の海の幸を届けるということ。時代のニーズを捉えながら、これからもその軸は変わりません。

株式会社丸ほ保原商店

〒986-2135 宮城県石巻市渡波字神明16-5
自社製品:カキ、ウニ、ワカメ、メカブ、コンブなどの加工品

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。