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企業紹介第145回茨城県高橋水産株式会社

切身加工に自信、給食を待つ子どもたちに地元の魚を届け続ける

「価格の高騰などもあって、最近は子どもがタコを食べる機会が減っているようです。タコはビタミンやタウリンなどの栄養成分が豊富な食材。もっと子どもたちにタコを食べてもらえるといいですね」

そう話すのは、茨城県ひたちなか市那珂湊地区でタコ、サンマ、イワシの加工を手掛ける高橋水産株式会社社長の高橋能久さん(以下「」内同)。

高橋水産株式会社 社長の高橋能久さん

茨城県は知る人ぞ知る、タコ加工の盛んな県で、各自治体ではタコを使ったPRにも力を入れています。県内のある小学校では食育の授業で地場食材のタコについて学習する時間があり、高橋さんは学校給食向けにタコを納品しているつながりから、その特別授業に講師として呼ばれたこともあるそうです。

「食べる機会が少ないことから、子どもたちはタコのことをよく知らないようです。小学校6年生向けにタコの習性やタコ漁の方法、加工方法などを話しましたが、みんな初めて知る知識として興味深そうに聞いていました」

“食べて美味しいタコ”をモットーとする高橋さんは、解凍、水洗い、塩もみ、湯煮といったタコの加工工程のひとつひとつにもこだわっています。工場ではタコのスライス、ぶつ切り、角切りのカット加工のほか、酢だこや味付けたこの生産も行っています。茨城県産のマダコ、ヤナギダコのほか、海外産のマダコなども使用しています。

通常はステンレス製の洗い機(写真左)のみを使用する会社が多いが、高橋水産ではこの後さらに木製樽の洗い機(写真右)でも洗浄を行う。このひと手間によりタコがきれいに丸まって身もおいしくなるという

タコは単価が高いことから、同社の売上の4分の1ほどを占めていますが、作業の9割はサンマ、イワシの加工。那珂湊地区はかつて、サンマの水揚げが日本一とも言われていた街ということで高橋さんはサンマにも強い情熱があり、子どもたちにサンマのアピールもしっかりとしたそうです。

震災以降、旬の時期以外の売上回復が課題に

高橋水産は1965(昭和40)年、高橋さんの父・実さんにより創業されました。もともと水産会社の工場長を勤めていた実さんは、独立して高橋水産を興し、サンマの開きなど切り身加工を中心に製造を行ってきました。主な納品先は学校給食で、それは現在にも引き継がれています。

「創業時の工場が手狭になり、1993(平成5)年の法人化とともに今の場所に移りました。私はその前から父と一緒に仕事をしていましたが、13年前に父が亡くなり、私がこの会社を継ぎました」

高橋水産近くの那珂湊漁港にはカツオやサンマのほか多様な地魚が水揚げされる

会社を継いでから悩まされたのは、不漁により原料の確保が難しくなったことでした。これまで通りやっているだけではダメだと思った高橋さんは、従来のスタンスを引き継ぎつつも新しい加工を始めます。

「魚の腹骨を取ったり、重量規格の精度を上げたりと切身製品の加工の幅を広げました。切身の加工に関する新しい要望には常に応えられるようにしています」

そんな工夫をしながら経営の安定化を図る高橋さんでしたが、2011年、東日本大震災に見舞われます。工場は津波被害を免れましたが、市場に置いていたフォークリフトが使えない状態に。また地震の揺れにより工場の床にはひび割れや歪みなどの被害がありました。

「地震から4日間ほどは停電もありました。電気の復旧後に工場はすぐに稼働しましたが、注文が来ない。通行止めの影響でトラックが走れなかったためです。翌週くらいからは出荷できるようになり、一時的に注文が増えた時期もありましたが、その年の秋ごろからは原発事故の風評被害で出荷は減ってしまいました」

その翌年以降も、サンマやイワシは旬の時期こそ順調に注文が入るものの、それ以外は厳しい期間が続き、現在、売上の回復は震災前の8割ほど。従来のカット加工だけで回復を目指すことは難しいことから、高橋さんは幅広い需要に対応するため、粉付けや揚げなどの加工にも着手しようとしますが、人手不足によってなかなかその対応ができずにいました。

効率化を進めて粉付け・揚げ加工にも対応できる体制に

新しい加工を始めるためにはまず、人手不足を解消しなければならない。そう考えた高橋さんは、販路回復取組支援事業の助成金を活用し、省人化機器を導入しました。

「コンピューター制御の自動重量選別機を入れたことで、選別の作業効率が倍以上よくなりました。これまで手で重さを量って振り分けていたのですが、作業が楽になって、従業員のみんなも喜んでいます。選別にかけていた人員が減った分、従業員にはこれまでできなかった他の作業に当たってもらっています」

重さごとに9段階に選別できる自動重量選別機

このほか、増産体制を整えるために、食器棚、冷蔵庫、2層シンク、作業台、ラベルプリンターなどを導入。さらに、粉付け機とフライヤーを導入し、粉付け加工、揚げ加工にも対応できるようになりました。

「メーカーさんにも工場を見学してもらいました。これから注文が増える手応えを感じています。いい機械が入ったので、唐揚げやフライ製品もアピールしていきたいですね」

粉付け機(手前)とフライヤー(奥)は連結も可能

また新たな販路を開拓するため、復興水産販路回復アドバイザーからのアドバイスをもとに、社外のECサイトにおいてインターネット通販も実施しました。期間限定ながら堅調に売り上げたことから、今後は自社サイト内での販売も視野に入れています。

国産たこ唐揚げ

カレー味イワシフライ

導入した機器で製造した唐揚げ・フライ製品で販路拡大を狙う

土産屋、インターネットと売る場所を広げつつもメインは学校給食

学校給食向けがメインの高橋水産にとって、新型コロナウイルス感染拡大の影響はとても大きなものでした。2020年の緊急事態宣言で学校が休校になった際は、給食の売上が2カ月ほどゼロになるという大打撃を受けたのです。

「休校が明けてからは売上も少しずつ戻りましたが、新しい販路を開拓しないと厳しいことから、インターネットでの販売にも着手しました。新しい機材も入ってきたので、お土産屋さんや、場外市場、スーパーなどにも入っていけたらと考えています」

ただ、高橋さんは一気に手を広げようとは考えていません。あくまで主軸は長年続けている学校給食向けの加工です。

「給食の注文が戻ってきた時のことも考えながら進めていきます。旬になればまたサンマやイワシの注文も増えてくるのでその準備はしっかりしておきたい。うちはサンマ、イワシ、タコに魚種を絞っていますが、それらの魚種ならどのようにも加工できます。その強みを生かしながら、新しい需要にも応えていきたいと思います」

海外からの輸入魚が増える中で、子どもたちには国産、とりわけ地元の魚を食べてもらいたいという高橋さん。より良い製品を作り続けることで、今後も子どもたちの成長を支え続けます。

高橋水産株式会社

〒311-1212 茨城県ひたちなか市殿山町2-12-66
自社製品:タコ、イワシ、サンマなどの加工品

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。