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企業紹介第148回千葉県株式会社イリヤマサ加瀬商店

「一日一日が勝負」
鮮魚の目利きへの信頼を武器に

日本屈指の水揚げ高を誇る銚子港で、鮮魚の仲買、荷物の運搬などを行う商店として、昭和30年代に加瀬清さんが創業したイリヤマサ加瀬商店。

二代目を継いだ加瀬弘泰さんが、昭和40年代後半に現在の地に本社工場を建築、銚子漁港をはじめ、北日本各地で水揚げされた主にサンマ、サバ、イワシを鮮魚や開きなどの塩干品に加工し全国の卸売市場に販売。魚の確かな目利きで、顧客からの信頼を集め、順調に事業を広げていきました。

取締役営業部長の加瀬祐二さん

現在、仕入れから現場のすべてを取り仕切るのは、取締役営業部長の加瀬祐二さん。静岡県三島市の生まれで、結婚を機に銚子に移り住みました。当時25歳でした。

「それまでは、大学卒業後に就職したメーカーに勤めていました。まったく畑違いの世界で、魚の種類もわからない状態だったので…、この仕事が務まるのかと不安でしたね」(株式会社イリヤマサ加瀬商店 取締役営業部長加瀬祐二さん、以下「」内同)

入社後は、先々代で義祖父である清さんについて毎朝、銚子港へ行き、魚の目利き、仕入れについて清さんの姿から学び修業する日々だったそう。

「入社した当時銚子港に水揚げされるのは、マグロやカツオなどの大型の魚がほとんどでした。それらを毎日数百本仕入れるのですが、地べたに並べられているマグロを1本1本ひっくり返して、魚の状態をよく見極めて買い付け、すべて2人でトラックに載せる。すごく体力がいる仕事で最初はきつかったですね」

同社の業務でメインとなるのは鮮魚出荷。品質の善し悪しが売上や信用に直結するため、買い付けは一番といっていいほどの大仕事です。先々代とともに毎日市場に立った修業期間の5年を経て、加瀬さんは晴れてイリヤマサ加瀬商店の看板を背負って仕入のすべてを取り仕切るようになりました。

「アタリの入った(網などで傷のついた)マグロを仕入れてしまったりして落ち込んでいるときも、先代である義父は絶対に人のことを褒めるんです。『今日の魚はよかったよ』と言ってくれて…。明日は絶対挽回しよう、と思いました」

そうして先代に見守られながら、目利きの精度を上げていった加瀬さん。買い付けはお客様のことを第一に考えながら行っているそう。

「うちの箱だったら中身をみなくても大丈夫だ、とお客様に思ってもらえるように、という意識でずっと取り組んでいます。安い魚を買い付けて利幅を得なくては、と思っていた時期もあったのですが、安い魚というのはそれなりのわけがあるので、そうした魚を買い付けたとしても、お客様にはすぐ分かってしまいます。自分も納得できないですし、いい魚を買って損が出たとしても仕方ないと思えますからね」

銚子で取引をしているのは同社だけという顧客も多いので、加瀬さんはそうしたお客様にも加瀬商店から買ってよかったと思ってもらえるようにしたいといいます。

加瀬商店オリジナルの箱に入った鮮度抜群の新さんまが出荷を待つ

津波を直観。すぐさま市場から工場へ。
地盤沈下で操業が困難に

2011年、東日本大震災が起こった日も加瀬さんは従業員とふたりで銚子港に買い付けに出ていました。経験したことのない大きな揺れに襲われたとき、加瀬さんは「津波が来る」と直感したそうです。

生まれ育った静岡県三島市では、日頃から東海地震への防災訓練を経験していました。その経験から、すぐさま市場から工場へ戻り、仕事を中断させ、安全確保のため従業員を帰宅、避難させました。

その時、工場では敷地内のいたるところで水があふれ出していました。水道管が破損したのかと思いましたが、工場が利根川河口の埋め立て地に立地していたことが原因で、液状化が起こっていたのです。

「冷蔵庫など重機材が乗っている箇所は15cmほど沈んでしまって、家も傾きました。でも、仕事をとめるわけにはいかないので、ライフライン復旧後は、工場の使えるスペースで仕事をしながら、修理を続ける状態でした」

工場2階の資材置き場は、地盤沈下のため、現在も傾いたまま。修理を続けながら、限られたスペースでの仕事となったため、工場の稼働率、生産量が下がり、震災後は、震災前の売上から30~40%減ったそうです。

また、銚子港での水揚げも漁獲物の放射能検査や資源保護の点から、操業日数が減少。それに伴って1日の水揚げ量が増える状態が続きました。そのため保冷倉庫を新たに増やし、水揚げがある日に大量購入できる体制を整えるなど、取扱量を落とさない努力を重ねてきました。しかし、震災以降、顕著になった労働力不足という大きな課題により、取り扱いの魚種、数量を増やすことが難しく、売上の回復ができない状況にありました。

「以前はイワシならイワシでほぼ同サイズのものが揚がっていたので、仕入れた多くを鮮魚として出荷できていました。震災前と比べて、海洋環境が変わったのか原因はわかりませんが、近年はサイズのばらつきが顕著で、選別作業が必要です。そのため、人手不足、生産力の低下に拍車がかかった状況でした」

さらに売上減となった要因は、日本人の食生活の変化でした。生の魚を買って家で調理するという家庭が減り、レトルトや加工済みの商品のニーズが増えていきます。こうした市場の変化も伴って、当時9割を占めていた鮮魚出荷以外に、冷凍加工品を増産する体制作りが急務となったのです。

その日揚がった魚をいかにロスなく商品にするか。
人海戦術だった選別作業を機械化

“魚の選別精度を上げながら、人手不足のなかでも生産性を向上させる”
この課題を実現するために導入したのが、鮮魚小型自動選別機と重量選別機です。

例えば、イワシの場合、まずは「鮮魚小型自動選別機」で5段階のサイズに分けます。その後「重量選別機」でさらに細かくサイズ選別を行うのですが、その選別は1g単位で設定でき、最大10段階に分けることができます。また、重量選別機は魚を載せるトレイ部分を交換するだけで選別する魚種の変更も簡単にできるため、午前中はサンマ、午後はサバといった選別作業も可能になりました。

鮮魚小型自動選別機一式と重量選別機での選別作業。
導入前は人による目視で選別作業を行っていた

導入以前は、目視と手作業で15tの選別作業を20人ほどで約5時間かけて行っていましたが、導入後は同人数で30tを約4時間で処理できるようになり、大幅に生産能力がアップしました。操業日数が減り、一日の水揚げ量は増えるという昨今の状況で、限られた人員の中、この生産能力の向上はとても大きいと加瀬さんは話します。

「銚子でイワシが揚がったとします。でも、その日にイワシが必ずしも売れるとは限らないんです。たとえば日本海側の漁港で、この季節、もっと脂の乗っているイワシが揚がった。そうするとマーケットでは銚子のイワシは売れないから、今日のイワシは、はえ縄の餌向けに凍結加工して売ろう、といった判断します。私は毎朝そういった情報をセリ人から聞いて、その情報をもとに買い付け、すぐさま工場に作業の指示を出すのですが、機器の導入により、水揚げ状況に応じて、その日の生産内容を柔軟に変えることができるようになったのはとても助かっています」

また、5段階+10段階の選別で顧客のニーズに、きめ細かく正確に応えられるようになったことも、大きなメリットでした。

「目視で選別していたときはどうしても誤差が出てしまいます。サンマの開きにしても、サイズのばらつきがあると、お客様のところでさらに選別が必要になってしまうことも。用途に合わせて同じサイズで納品できれば、会社の信頼にもつながります」

機器導入により、着実に売上が伸びて、今後も増加が望めそうだと言います。人手不足を機械化で補いながら、需要に合わせた細かな重量選別を行った凍結原料の取り扱いが増えたこともあり、現在、売上は震災前の95%まで回復しているそうです。

鮮魚を柱としてきた強みを活かし
うちにしかつくれない商品で安定に導く

現在は、サンマの開きのほか、凍結加工した魚を加工業者に原料として卸していますが、今後は、質のよい魚を仕入れたときに、自社で加工して販売できるように新商品開発に取り組んでいきたいと話す加瀬さん。銚子港に出入りする冷凍加工品を扱う専門商社の担当者に、「どういう加工をしたらいいか」と直接聞いて情報収集し、すぐに工場で実践、という試みを繰り返しているのだそうです。

「鮮魚をずっと扱ってきたという強みをいかして、いい原料を厳選した自社加工品づくりができたらと。イリヤマサ加瀬商店のものなら間違いないと思ってもらえる商品がつくれたらと思います」

静岡県から銚子に移り住んで20年。最初は自分にできるのか、と不安だったという加瀬さんですが、「毎日、今日はどんな魚が揚がるかワクワクします」と話します。一方で、「一日一日が勝負です。そこがこの仕事の面白さでもありますが、銚子港に水揚げがないと仕事を生み出せないという不安定さを解消していかなければ」とも。安定して工場を稼働させるためにも、自社加工による新商品づくりが必要だと言います。

震災の年とその翌年に生まれた息子さんは、現在小学校4年生と3年生に。工場で箱出しなどの仕事を手伝ってくれるそうです。

先々代と通った市場での日々に培った「魚の目利き」を土台に、イリヤマサ加瀬商店の柱をもっと強いものにと奮闘する加瀬さん。「次世代によい形でつなげたい」。そんな強い思いが伝わってきました。

株式会社イリヤマサ加瀬商店

〒288-0046 千葉県銚子市大橋町6-14
自社製品:鮮魚出荷(イワシ、サバ、サンマなど)、塩干品製造(サンマ)、加工用原料

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。