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企業紹介第154回福島県有限会社おのづか食品

裏方に徹するだけでなく、今後は
自社ブランドでも「ふくしまの味」を届けたい

いわき湯本温泉は、1600年以上の歴史を持ち、有馬温泉、道後温泉と並んで日本三古泉にも選ばれている名泉。一年を通して気候が温暖で、親潮と黒潮が混じりあう豊かな海にもほど近く、新鮮な海の幸を楽しむことができる一大観光地です。おのづか食品は1966年の創業以来、このいわき湯本温泉郷のホテルや旅館に煮魚などの和惣菜の提供を行ってきました。

有限会社おのづか食品 代表取締役 小野塚大さん

「創業者は私の父です。父はもともと、いわき湯本温泉にあるスパリゾートハワイアンズの一期生として板前をしていたのですが、1966年に独立してハワイアンズさんにバイキングやお膳で使うお料理をおさめる会社を始めました。そこから徐々に、いわき湯本温泉にある他のホテルさん、旅館さんとのお取引も増えていったんです」(有限会社 おのづか食品 代表取締役 小野塚大さん。以下、「」内同)

現社長の小野塚さんは、東京で数年間、板前修業をした後、おのづか食品に入社。製造現場に長く携わった後、営業に移りました。板前や製造現場の経験が長く、料理の知識が豊富だった小野塚さんが営業に行くと、取引先の料理長にも「話が早い」と喜ばれたのだそう。今でもおのづか食品の商品開発、レシピは小野塚さんが一手に引き受けています。

料理の腕だけでなく、いつも「お客様第一」の姿勢を貫いているのも小野塚さんの持ち味です。味付けや具材をお客様のニーズにあわせて柔軟に変更するのは「当たり前」。規格もお客様の要望に応じて500g、200gなどの小ロットにも対応しています。そうやって「顧客の要望を形にする」ことにずっとこだわってきた結果、大口の取引先であった会社が自社工場で食品の生産を始めた時も、他のホテル・旅館との取引に支えられ、安定的に経営ができたのだそうです。

「自分が営業をしたのはもちろんですが、ウチの商品を扱っていただいたお客様が、他の方にご紹介くださることも多かったんです。うちは大量生産ではなく、手作りにこだわっています。過度な添加物や保存料も使用しませんし、調味料も普通の家庭にあるような醤油、お酒、みりん、砂糖などを使っています。設備を入れると生産量は上がりますが、設備ありきの商品作りになってしまうので、今でも20リットルの鍋でたくさんの商品を作っています。家庭の台所で作るような温もりのある味が支持をいただけた理由かなと思っています」

この雪平鍋から、おのづか食品の家庭的な温かみのある味が生み出される

原発事故で観光に大打撃。
その影響で売上が大幅にダウンした

2011年3月11日は、金曜日。ホテルや旅館のかきいれ時である土日を控え、多数の注文に応えているところに震災が起きました。今までにない大きな揺れを感じたため、従業員もすぐに帰宅させ、社長も情報収集と取引先との対応に追われました。大きな余震も頻発し、「とにかく恐怖、こわさがあったことしか覚えていない」ような状態だったそうです。

「震災当日は被害状況が全然わからなかったんですが、夕方以降、テレビやラジオで相当な規模だったということがわかってきました。でも、まだ実感がなかったせいか、震災から数日はとにかくお客さんのことが心配でね。震災の前日に出した荷物はちゃんと着いただろうか、とか、おつきあいのあるホテルさんや旅館さんは、いつから再開できるんだろう、なんて考えていました。」

震災から1か月間は水道が止まり、営業ができる状態ではありませんでした。また工場も柱にひびが入るなどの損壊を受けました。しかし電気が止まらず、冷凍冷蔵庫も無事だったため在庫や原料は被害を免れました。設備機器が少なかったことも幸いし、水道、高速道路、宅急便などが復旧しはじめた頃には製造を開始することができたのだそうです。

「地元のホテル旅館は原発事故の影響もあり通常の営業を再開しておらず、仙台のホテルから“出来る範囲で営業をするから、何か商品をください”と言われて、その時作れるものを作って、トラックに積めるだけ積んで出荷しました。その後、地元のホテルにも作業員さんが入ったので、地元向けの商品も作り始めました。とにかく、お客様が無事に営業できたこと、お客様のために何かできるのが嬉しかったです」

しかし、本当の危機はその後にやってきました。顧客であるホテルや旅館は通常営業に戻ったものの、福島県にあるいわき湯本温泉は原発事故の影響で観光客が激減したのです。観光客が減ったことに加え人手不足も手伝って、ホテルや旅館での食事も以前と同水準を保つことが難しくなりました。それに伴い、おのづか食品への発注量も以前に比べ大幅に落ち込んでいきました。

新規顧客獲得のため展示会にも積極的な参加を続けた

「震災の直後は先のことを考える余裕がなく、目の前のことをこなすだけでいっぱいいっぱいでした。震災から半年ほどして、今後のことを考えた時が一番不安が大きかったです。通常営業に戻れば、ホテルや旅館の売り上げも右肩上がりで戻ってくると思っていたのに、逆に下がっていったんですよね。風評被害もありますが、それまで一泊二食付きが当たり前だったのに、ネットの普及で観光客の方が宿で夕飯を食べなくなったのも大きいかもしれません」

震災直後に6割まで下がった売上がなかなか戻らかったため、その後は展示会などに年に3~4回のペースで積極的に出店。小ロットでも対応できる強みを生かし、介護施設など観光以外の顧客を増やしてきましたが、売り上げは震災前の7割程度に留まったままでした。

主力の煮魚の生産性アップと、新たな魚惣菜で売上回復を狙う

震災後に開拓した新規顧客に特に評判が良かったのが、もともと主力商品であった「煮魚」でした。レトルト調理ではなく家庭と同じような手法で作るおのづか食品の煮魚は、優しい味と、家庭で煮たような見た目、着色料・保存料が無添加な点などが支持され、どんどん販路を拡大してきました。地元の老舗の魚屋さんのOEMで作った煮魚は、7年連続で百貨店のギフト商品にも採用されています。

味や品質が評価され、煮魚を導入した顧客から「もっと商品のバリエーションを増やしたい」「焼き魚など他の商品も欲しい」という要望が多数寄せられるようになりました。しかし今までの人員・設備では対応が出来ません。そこで今回、販路回復取組支援事業で導入したのがスチームコンベクションオーブンです。これにより、今まではできなかった「蒸し」「焼き」などの調理にも対応できるようになりました。それに加えて、主力である煮魚の生産性も大幅に上がりました。

「今までは煮魚もできる量が限られていたのですが、この機械の導入によって生産性が1.7倍になりました。一緒に導入したコンテナも一度にたくさんの製品が運べるので作業効率が上がり、従業員の負担の軽減にもなっています。スチームコンベクションオーブンなので、大量生産の味ではなく、手作りの味というウチの特徴ともマッチしています。今までできなかった蒸し焼きなどの新商品も開発しているところです」

導入したスチームコンベクションオーブン
コンテナも作業効率アップに貢献

また新たに自社HPの拡充を図りました。展示会での商談の重要性が高まるにつれ、自分たちの取組について情報を発信する必要性も増してきたのです。内容を充実させたことで、事前にHPを見てからの問い合わせが増え、展示会での商談が非常にスムーズになったのだそうです。

「HPをきちんと作りこむことで、検索でヒットする確率も上がって、より販路を拡大できれば良いと思っています。自分が1人で営業をしているので、手が回らなかったり、説明が足りなかったりすることもあるのですが、HPがあることで営業の受け皿になると期待しています」

新しく製作したホームページ

地元に根差し、「自社ブランド」を確立していきたい

HPを拡充しオンラインショップを設けたことで、自社ブランドの製品の販売も可能になりました。その第一弾が「田舎のごちそう」シリーズです。OEMとして定評のある煮魚の中でも、特に実績のある、金目鯛、かれい、さば、さわらの4種類を販売しています。

自社製品第一弾の「田舎のごちそう」シリーズ

「田舎のごちそう、という名前は、福島らしさと家庭的な身近さをイメージできればと思って名付けました。地元の味にこだわっていきたいと思っていて、第二弾として、いわき市の郷土料理であるウニ味噌の開発をしています。卵、調味料、製造方法にこだわって作ったら、展示会でも非常に反応が良かったんです。高級スーパーさんからも、ぜひと声をかけていただいたので、デザインなどを含めて大事に開発していきたいと思っています」

開発中のウニ味噌

今までは、「お客様のために」黒子に徹してきたおのづか食品。今後は、「小売りで通用する自社商品」を増やしていくことを目標にしています。そして震災後、観光業の売り上げが回復しない時に「地元の皆さんに助けてもらった」ことから、地元密着の姿勢を強めていきたいと思っているのだそうです。今も地元のスーパーと情報交換をしながら、一緒にできることを模索しています。

「うちは50年いわき市でやっているのですが、今まで自社を表に出していなかったので地元の方でも、“おのづか食品が何を作っているのか”ご存じない方が多いんです。今まではお客様の要望を、どれだけ形にできるかにこだわってきたのですが、今後は、もっと自社を知ってもらえるような商品を作っていきたいです」

OEMから自社製品へ、大きく舵を切ったおのづか食品。今まで特定の取引先に向けられていた小野塚さんの徹底した「お客様志向」が、今後、一般消費者に向けられるのだとしたら、きっと「福島、いわきの良さ」を広く知らせる素晴らしい商品ができ上がるに違いありません。

有限会社おのづか食品

〒972-8322 福島県いわき市常磐上湯長谷町長倉8番地
自社製品:煮魚、焼き魚等の和惣菜

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。