令和7年8月20日、「第27回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」において、「期待の国産イカ ムラサキイカのご紹介」と題した講演が開催されました。 本セミナーでは、近年需要が拡大している「ムラサキイカ」の漁業〜加工における特徴と今後の可能性についてご講演いただきました。
全国いか釣り漁業協会は、主に函館・八戸・小木・酒田を拠点に、30トン以上の大型〜中型漁船を所有する漁業者によって構成されている団体です。イカ釣り漁業は一般的に自動いか釣り機で漁獲を行っておりますが、近年は船内の冷凍設備が整備され、釣り上げたばかりのイカを一尾ずつ船内凍結していることから、高鮮度で高品質なイカが全国に出荷されております。
日本国内では、スルメイカ、ムラサキイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、ソデイカ、アオリイカなどが主に漁獲されております。この内「ムラサキイカ」は、別名で「アカイカ」と言われておりますが、その他の「アカイカ」と差別化を図るため、日本の漁船が北太平洋で取った「アカイカ」を「ムラサキイカ」と呼んでおります。最近では「スルメイカ」の不漁が続いていることから、代替原料として「ムラサキイカ」の需要が徐々に高まっており、価格も上昇傾向ながら、それでもなお比較的安価なイカです。
「ムラサキイカ」は北太平洋沖に分布しており、5〜9月頃に日付変更線付近で漁獲される「秋生まれ群」と、冬に三陸沖で漁獲される「冬春生まれ群」の2系群に分かれます。これまで中型漁船は「スルメイカ」を専用に漁獲している漁船が多かったものの、最近では5〜9月に「ムラサキイカ漁」、10〜2月に「スルメイカ漁」を行う兼業の事例が増えており、2024年はイカ漁獲量の内、86%が「ムラサキイカ」が占める結果となりました。但し、いか釣り漁船も年々減り続けており、2015年の88隻に対して、2024年は39隻まで減少している状況です。
開洋漁業株式会社(青森県八戸市)では、349トンもの大型イカ釣り漁船「第三十開洋丸」を所有しております。漁船にはおよそ160個もの集魚灯(メタルハライド)、3個の水中灯、52台の自動イカ釣り機を有しており、八戸港を出港してから10日ほどかけて漁場に向かい、船員を2グループに分けて24時間態勢で操業しております。自動イカ釣り機だけでなく、投げっぱり(人力で釣り上げること)でも漁獲しておりますが、いずれにしても1本釣りであることから傷が少ないのが特徴です。
漁獲されたイカは、船内の作業所にて新鮮なうちに加工しており、耳・胴肉・軟骨・足で解体し、部位ごとに分けてマイナス45度で急速凍結しブロック状にした後に、魚艙で保管します。なかでも胴肉は1尾ずつ丸めて凍結するIQFと呼ばれる製品も作っており、こちらは刺身など少量だけ使う際に重宝されることから、ホテル、日本料理店、居酒屋などで主に利用されています。
帰港後は漁船から市場までコンベアでつなぎ、魚艙から迅速に水揚げしております。この水揚げには通常1〜2日、漁獲量が多いときは3日ほどかかることもあります。このように「ムラサキイカ」は品質・鮮度がよいまま消費者の元に届けられており、「スルメイカ」とは異なる食感で、モチモチでやわらかく、甘みや旨味があり、生食はもちろんのこと、加熱後に冷めてもやわらかい食感が維持されているといった評価をいただいております。
「ムラサキイカ漁」の大半は8月に水揚げされる夏漁1回目だけですが、年によっては夏漁に2回や冬漁(3月)にも実施するケースも見られ、漁獲量は3,000〜4,000トン、2025年に至っては約5,000トンが見込まれています。「ムラサキイカ」はこれまで乾燥珍味や総菜の加工原料として利用されてきましたが、近年は生食用(胴肉…寿司ネタ、耳…いかそうめん、等)としての流通も増えています。
価格は2022年まで1kg当たり400〜600円で取り引きされておりましたが、スルメイカの不漁で刺身原料が不足した影響から、2023年は1,000円前後まで上昇し、その後は価格が安定し、2024年以降は700〜800円後半で推移しております。八戸港に水揚げされた「ムラサキイカ」は、八戸魚市場で仲買人に入札販売しており、そこから全国各地に出荷されています。
来年からあらたに北海道や石川県のイカ釣り漁業者が出漁予定となっており、漁獲量はさらに増えるものと予測しております。「スルメイカ」資源動向も不透明な状況下で、資源量の潜在力が大きい「ムラサキイカ」は今後ますます需要が増大するものと見込まれています。
「ムラサキイカ」の英名は「ネオン・フライング・スクイッド」で、飛ぶ習性があります。北太平洋の亜熱帯〜亜寒帯に広く分布し、産卵時期が異なる2つの発生系群があります。
1990年代までは流し網漁で30万トンを超える漁獲がありましたが、その後流し網漁が禁止され、現在はイカ釣りのみとなっています。近年は中国船の漁獲が増えことにより、資源保護の観点から2015年に北太平洋漁業資源保存条約(NPFC)が発効され、これ以降は国際機関によって資源管理がなされております。
水産研究・教育機構では、昨年からサンマ船を改造して「ムラサキイカ」を釣るというプロジェクトを開始しました。これまでサンマ漁は8〜12月に操業した後は出漁の機会がなく、乗組員は別の仕事を掛け持っておりました。そこで、サンマの漁期以外にイカ釣りを行うことで船の稼働率を上げ、乗組員を周年雇用できるよう、サンマとムラサキイカの兼業、および副業化を進めてきました。操業期間が重ならない利点もありますが、どちらも強力な集魚灯を使う漁業形態であることから、相性の良い組み合わせです。
但し、いくら漁期・漁具の親和性が高くても、集魚灯LEDをサンマ漁の棒状からイカ漁の横向きにしたり、イカ釣り漁用にパラシュートアンカーや釣り機などを整備したり、改造に2億円近くもの費用が発生します。
このような状況を踏まえ、改造後の6月から前線構造を探索する操業調査に出航した結果、1日当たり約185kg(最大4,000kg)の漁獲と、平均1.6トンもの凍結製品を製造することが可能とわかりました。これは周辺の操業船とほぼ同等の漁獲能力であり、改造による漁具トラブルなども見られず、根室港に水揚げしたところ、イカ専業船と遜色ない金額で取引されております。
漁業者・市場関係者・研究者、ぞれぞれの視点から「ムラサキイカ」の現状と可能性をお話しいただきましたが、国際的な資源管理の枠組みもしっかり構築され、漁場推定技術も向上しており、また兼業などの新しい取り組みが始まっております。資源不足が騒がれているなかで、「ムラサキイカ」の資源活用はさらに拡大すると見込まれます。
令和7年8月22日、「第27回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」において、「福島第一原発事故後の水産物の検査について」と題した講演が開催されました。 本セミナーでは、福島第一原発事故後から実施されている福島県産水産物の放射性セシウムの検査、およびトリチウムのモニタリングによる分析結果と、これらを踏まえた福島県産水産物の安全性等についてご講演いただきました。
2011年に発生した福島第一原発事故の直後から、福島県の漁業協同組合はすべての沿岸漁業および底引き網漁業の操業を自粛すると共に、日本政府(以下、国)もすべての福島県産水産物に対して出荷制限を設けました。
2012年6月からは、いわゆる試験操業として、出荷が制限されていない魚種の操業と販売を再開し、それ以降は対象魚種および海域を順次拡大しました。2021年4月からは、本格操業に向けた移行期間と位置付け、水揚げの拡大を図っています。この結果、2024年度の水揚げ量は約6,640トンと、操業自粛前と比べて25.6%まで回復している状況です。
放射性セシウムの検査については、福島県による公的検査と、漁協による自主検査が現在も行われています。
福島県では、出荷制限魚種も含めて定期的に公的検査が実施されており、国の基準値である100ベクレル/kgを超えた場合は、国からの指示により出荷が制限されます。 原発事故以降は継続して放射性セシウムのモニタリングを実施しており、多い時には年間で9,000件近くもの検査が行われてきました。2011年4月に福島第一原発の岸壁から高濃度の汚染水が海に流れ出した際は、検査数全体の1/3程度が基準値を超過しておりましたが、魚の生体内の代謝によって放射性セシウムが排出されたことで基準値の超過件数も減少し、出荷制限が解除されるにつれて検査数自体も減少している状況です。
漁協による自主検査は、国の基準値よりさらに厳しい50ベクレル/kgを自主規制値とし、万が一この規制値を上回った場合は、安定して下回るまで出荷を自粛しています。これまで国の基準値(100ベクレル/kg)を上回ったことが4例ほどあり、水産庁に報告がなされたうえで出荷が制限されています。 出荷制限解除と共に水揚げ量が増加したことで自主検査数も増加しており、2023年度以降は検査数が年間2万件を超えていますが、自主規制値(50ベクレル/kg)を上回ったのは2023年度の1例に留まっています。
原発事故直後に出荷制限が設けられた魚種は40種以上ありましたが、時間の経過とともに安全性が確認され、出荷制限が徐々に解除されました。2024年10月にクロソイの出荷制限が解除されたことで現在の出荷制限対象は0魚種となっています。
福島第一原発事故から、国は食品(飲料水含む)からの年間被ばく量の目標値を1ミリシーベルト以下に設定しました。
国際放射線防護委員会でも、自然からの被ばく量の地域差の範囲内で、誰でも受け入れ可能な目安を年間1ミリシーベルトに設定しておりますが、1ミリシーベルトを超えたから危険というわけではありません。
参考として、病院のCT検査を受けた際の被ばく量が約7ミリシーベルト、東京〜ニューヨーク間を飛行機で往復した際の被ばく量が約0.2ミリシーベルト被ばくするといわれています。また、1日3合以上を飲酒した場合の発がんリスクは、1,000〜2,000ミリシーベルト被ばくした場合と同等といわれていることから、1ミリシーベルトがかなり小さな値であることが分かります。
なお、日本における自然からの年間被ばく量は、ヨーロッパ各国と比較しても低い数値となっております。これは、ヨーロッパの伝統的な石造りの建物が起因しており、石材自体にも放射性物質が多く含まれていることが確認されております。
国が目標に定めた食品からの年間被ばく量1ミリシーベルトについて、国、コープふくしま、福島県がそれぞれ調査を実施しております。
厚生労働省(2011〜2023年度)および消費者庁(2024年度〜)が、福島産および近隣県産の食品を購入して簡易的に調理したものをサンプルとし、食品からの年間被ばく量を調査しています。調査結果では、サンプルと同じものを1年間食べ続けた場合、年間被ばく量は0.0009ミリシーベルトとかなり低い値となっております。
2011年度から福島県内にある50〜200件もの一般家庭にご協力いただき、料理を1人分多く作ってもらい、それをサンプルに調査を行っています。この結果、すべてのサンプルにおいて検出限界値が1ベクレル未満となり、サンプルと同じ食材を1年間、毎日2キログラム食べ続けた場合の年間被ばく量は0.0095ミリシーベルトとなりました。.0009ミリシーベルトとかなり低い値となっております。
2011年度から避難指示解除区域を中心に対象者を選定し、その人が1日に食べた飲食物をサンプルに調査を行いました。この結果、サンプルを1年間食べ続けた場合の年間被ばく量は最大で0.0026ミリシーベルト、さらに放射性ストロンチウムは不検出という結果になりました。
水産庁では、2022年度から水産物の安全性と消費者の信頼確保のため、トリチウムのモニタリングとして、精密分析と迅速分析を実施しております。
精密分析では、検出限界値を最大0.4Bq/kgとし、北海道〜千葉までの海域で200検体程度を分析しておりますが、精密な分析が求められることから、結果公示までに約1か月半を要します。
これに加えて、ALPS処理水が放出された2023年度からは、水産物の安全性や信頼性を担保して風評を抑制することを目的に、検出限界値を10Bq/kg程度とし、翌日または翌々日に結果が得られる迅速分析も開始いたしました。検査頻度はALPS処理水の放出期間中は週に4回、放出されていない期間は週に2回で、処理水放出口から3〜4km離れた南北の2地点でヒラメを採取して検査を行っております。
精密分析は2025年7月時点で魚類や甲殻類などの652検体を分析、迅速分析は2025年8月18日時点で458検体を分析しており、結果は全て検出限界値未満となっています。
なお、これら放射性物質の検査結果は水産庁ホームページでも随時公表しておりますので、是非ご覧ください。
水産物の放射性物質調査の結果について(水産庁)